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黄色いベスト運動からみる「カクサ」の真実──『叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』

ネット掲示板「2ちゃんねる」管理人として名を馳せ、最近はテレビのコメンテーターとしても活躍中のひろゆきさん。そんなひろゆきさんが『叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』を出版しました。本書では、私たちには見えていない「衝撃の事実」が多数明かされています。三笠書房の公式noteで内容の一部を特別公開!


■僕が目の当たりにした「格差化」

 ここ数年、僕はフランスで暮らしています。そのため、2018年の11月から巻き起こった「黄色いベスト運動」を目の当たりにすることになりました。

黄色いベスト運動は、2015年から2020年にかけて実施されている自動車燃料の増税に対する抗議運動です。

 最初は、その影響をもろに受けるドライバーたちが、安全確保のために着用する黄色いベストを着て抗議したに過ぎませんでした。しかし、多くの国民が加わるようになり、あっという間に30万人規模のデモへと発展していきました。

この運動を支えた中心層は、月の世帯収入が19万円くらいの労働者や年金生活者だと言われています。なかには、鉄道の組合員など、安定した仕事に就いている人もいましたが、多くは毎日の生活にいっぱいいっぱいで、まったく金銭的余裕がない人たちでした。 彼らは、マクロン大統領がお金持ちに寄り添って、自分たち庶民を困窮させる政策を打ち出していると考え、徹底抗戦を続けたわけです。

黄色いベスト運動が、他のデモ活動と違うのは、いわゆる右派・左派といった政治思想に関係なく、富裕層と庶民という階級闘争として発展していったことです。このことは、現代のフランスがまぎれもない格差社会であり、いかに二極化が深刻なものになっているかを示しています。


■日本も「二極化」していく 

そして、それは日本にとっても対岸の火事ではありません。なのに、多くの日本人は他人事として眺めています。

かつての日本で当たり前のように受け入れられてきた「1億総中流」という定義は、もはやとっくに崩壊していることに多くの人が気づいているでしょう。アメリカほどではないにしても、日本もすでに貧富の差が激しい二極化社会に突入していると。

しかしながら、その二極化社会を自分事として把握できている人は少数派です。

たしかに、今現在の収入で考えると、下流意識はなかなか持てないかもしれません。年収400万円くらいであれば、今のところは立派な中流です。しかし、それが維持される保証などまったくありません。 これからさらに進む二極化によって、日本人は一握りの上流層と、圧倒的多数の下流層に分かれていくでしょう。


■ごく少数の富裕層と大多数の庶民層 

生命保険文化センターという機関が、興味深いデータを公表しています。

それによると、単身世帯の金融資産保有額の「中央値」は45万円となっています。つまり、単身世帯の半分は、45万円以下の金融資産しか持っていないということです。

中央値は平均値と違って、高い(低い)ほうから順番に並べたときの真ん中に位置する数値です。平均値のように、一部のはずれ値によって、数値が大きく変わったりしないので、より僕らの実感に近い数値が出てくることもあります

一方、「平均値」は645万円にも上ります。少数のお金持ちがいることで平均値が大きく引き上げられているわけです

もう一つ、単身世帯に関するデータを見てみましょう。

金融広報中央委員会の調査によると、金融資産をまったく持たない単身世帯の割合は、2007年は29.9%だったのに対し、2019年には38%と8ポイント以上増加しています。とくに、40代で年収300万円未満の層は、49.7%が貯蓄ゼロです。

これが、ごく少数の富裕層と大多数の庶民層に分かれつつある日本の現実です。


■「誰でもできる仕事」をしている人は危ない

 では、どうしてこんなことになったのでしょうか。

今後、AIの実用化が進むことで、貧富の格差がさらに拡大すると言われていますが、それを待つまでもなく、日本が二極化することはすでに決まっていたのです。

かつて、アメリカの経済学者で、クリントン政権下で労働長官を務めたロバート・ライシュは「世の中の仕事は頭脳労働とマックジョブに二極化する」と予言し、日本もその道をたどりました。

マックジョブとは、マクドナルドのアルバイトに代表されるような、マニュアルに沿って行えば誰でもできる仕事を指します。

もともと仕事は「専門性の高いもの」と「誰でもできるもの」に分かれていました。それでも、ロボットなどによる自動化が進むまでは、誰でもできる仕事にもそれなりの給料が支払われました。さもなければ、製造業などでは製品がつくれなかったからです。

ただ、それは「労働力として必要だった」からであり、機械のように、人に代わって労働してくれる存在があれば話は別です。

日本のビジネスパーソン(とくに中高年)の多くが、携わっている仕事について「自分がいなくちゃ回らない」と思っているようですが、そんなことはありません。誰でも回せます。今では、多くの仕事がマックジョブになっているのです。

このように、「誰でもできる仕事」をしている人は、社会に変化が起こったとき、一気に窮地に追いやられてしまいます。


■「思い込み」と「現実」のギャップ

僕がおすすめ本としてよく挙げている『コンテナ物語』(日経BP)では、「コンテナの発明により、先進国が不況に陥った」という驚きの事実が明かされています。この本によると、コンテナが生まれたことで、海上輸送費が異常に安くなり、人件費の安い海外生産が一気に増加、先進国の製造業が不況に陥る……といった過程をたどったようです。

海外生産が増えたことで、国内の製造業に従事していた人は仕事を失いました。さらに、社会全体が不況になったことで、マックジョブをしている人を中心に、仕事が続けられなくなったのです。

しかしながら、ほとんどの人は、自分の仕事が「誰でもできる」ようになったことに気づかず、「専門性の高い仕事に就いている」と思っています。この思い込みと現実のギャップに早く気づかないと、取り返しのつかない状況に陥ってしまうかもしれません。

さらに残酷なのは、ごく一部の人は、給料の高い専門的な仕事を続けられることです。そして、彼らの年収はどんどん膨れ上がっていくでしょう。これまでだったら「誰でもできる仕事」に支払ってきた人件費がカットできるのですから。

「誰でもできる低賃金の仕事」に就く大多数の人たちと、「専門性の高い高賃金の仕事」に就く少数の人たち。

そうした格差社会への反発が、黄色いベスト運動の一つのきっかけとなったのかもしれません。 

(編集部 中西航大)


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