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【読書ログ】52ヘルツのクジラたち 町田そのこ著

人生を家族に搾取されてきた女性と、母親に「ムシ」と呼ばれている少年。愛を欲し、裏切られてきた孤独な魂が出会い、新たな物語が生まれる。
特設ページより

52ヘルツのクジラ

52ヘルツのクジラを知っているだろうか。
私がこのクジラの存在を知ったのはBTSのWhalien 52だった。

「52ヘルツのクジラたち」ではこのクジラについて、以下のように説明される。

52ヘルツのクジラ。世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど、実際の姿は今も確認されていないという。

52ヘルツの歌声は、他のクジラと比べてかなり高いため、52ヘルツで歌うクジラの声はほかのクジラの誰にも届かない。

そんなクジラの存在が頭の片隅にあったので、友人宅でこの「52ヘルツのクジラたち」が視界に入った時、思わずこれ貸して!!と、当分会う予定もないのに言ってしまうぐらい、なんだかビビットきた出会いをした本。
後になって、本屋大賞を受賞した、今注目を集めている本だと知った。

人は簡単には救えない

作中で、キナコはアンさんに救われる。たった5日間で。
でも、キナコは思っていた形で52を救うことはできなかった。

人を救うことはそう簡単なことではない。

キナコの幼少期の話。小学校の先生が、虐待に気づき母親に注意をする。
その結果、身支度は綺麗にされるようになったが、家庭内の状態は悪化の一途をたどる。満足げな担任がひどく印象的だった。

救った気になるのは簡単だが、救うのは非常に難しい。

それぞれが発する52ヘルツの声

52ヘルツの声を発していたのは、キナコ、アンさん、52の3人、あるいは美晴や主税も52ヘルツの声を発していたともいえるのかもしれない。

52ヘルツの声は、どうしようもなく孤独を感じて、助けがほしくて、届いてほしくて発する声だけど、届いた誰かの助け方によってその先が左右されてしまう、そんな声で、だからこそ、人は見て見ぬふりをしたり、避けたりしてしまう。

だから52ヘルツの声は常に発しているわけではないのだろう。
「この人なら、ちゃんと受けとってもらえるかもしれない。」
そんな期待をかけて、声をあげる。

孤独に耳を傾ける

そんな52ヘルツの声に気づくことはできるだろうか。
正直、すべてに気づくのは難しいと思う。

でも、もし気づけたなら、その時は迷わずその人の孤独に耳を傾けたい。

人を救うのは確かに難しい。
作中の担任のように、孤独を感じる人の周りに訴えたり、無理に環境を変えることは、結果として自己満足に陥りかねない。というか、陥るだろう。

私は、ただ寄り添うことならできるのではないか、と思う。
ありきたりな答えだとは思う。でも、寄り添うことは大きな力になる。

キナコが52に側にいて、と伝えたように、どうしようもない孤独を感じるとき、自分に害をなさない人が、あるいは自分の孤独と関係のない人が側にいる。それだけで、収まるなにかがあると思う。

アンさんがやったように、キナコの狭窄した世界をぐっと広げて、一度自身を客観的に見つめ直す機会を与えたり、本人が決めたことを叶える手伝いをしたりと、ただただ本人に寄り添う、ただただ本人と向き合う。

もしかしたら、理想の形には持って行けないかもしれない、何も変えられないかもしれない、それでも、寄り添う人がいる、向き合ってくれる人がいる、声を届けられる人がいる、これらの事実が、孤独を薄めてくれるはずだと、私は思う。

だから、私は、孤独に耳を傾けられる人になりたい。

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