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ピンクなビリジアン

よく出来た人形と、出来がよくなくても冗談のひとつくらい言える人間の違いは何か?

答えは簡単。血が通ってるか通ってないか。人工知能と人間の違いも同じです。血管の中を血液が流れて身体のあちこちで化学反応を起こす。意識が生まれて、間違いを起こすこともあれば恋に落ちることもあるし、酷いこともする。

ポケットから手を出して、拳をぎゅっと握りしめてください。皮膚の向こうに血管が透けて見えるはずです。それは何色ですか?

右腕2

肌の色は赤みがかった皮膚の色。血管は青みを帯びた緑。皮膚の厚いところは赤が重なって赤紫に見えたりします。赤やオレンジなどの暖色系の色と寒色系の青緑が隣り合わせて重なり合った色。これが人間の肌の色です。

ミリタリーのフィギュアを塗る時に実験してることがあります。下地に緑を塗ります。遠い惑星から来た人みたいな顔の色に驚かないでください。

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学生の頃、画家の先生に「ビリジアン(青緑)にピンクを重ねると肌色ができるんだよ」と教えてもらったことがあります。その頃は絵を描きたいと思ってなくて、もっと詳しく話を聞いていればと後悔してますが、これは先生の発明でもなんでもなく油絵の古典的な塗り方なんだそうです。

ピンクとビリジアンの絵の具をパレットの上で混ぜると沈んだベージュ色になるだけなのに、キャンパスに塗ったビリジアンの上に淡いピンクを塗り重ねると、上塗りの色の下に青緑色がうっすらと透けて深窓の貴婦人の透き通るような肌の色になる。そんな話だったと思います。

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フィギュアを塗る時、最初にアクリル絵具のビリジアンを塗って、その上から油絵具のオレンジと白を混ぜて作った肌の色を塗り重ねていきます。油絵具には透明度があるので塗りの薄い部分に下地の色が透けて、ちょうど皮膚に透ける血管の色になります。

オレンジと青緑は補色の関係なので色が隣り合うと互いに色を引き立て鮮やかに見えながら、補色効果で互いの色を中和するから落ち着いたトーンにもなるのです。女性のメイクに寒色系の色使いで上品に仕上げるのも同じ理屈なんだとか。

世間一般のミリタリーフィギュアのハウツーでは、肌の明るいところにベージュ、暗いところにブラウンを添えてグラデーションをかけます。

確かに人物写真から色を拾うと茶色が抽出されます。皮膚に透ける赤い色と血管の青緑色が、デジタル画像のピクセルという極小パレットでブレンドされた結果の茶色です。そこに影が暗色で加わります。写真から拾える色は、現実には存在しない色です。これを理解しておいてください。

ブラウン系の色を使うと、塗れば塗るほど人形っぽくなっていくという現象があります。どれだけ滑らかに精密に描けていても、まるで透明感がない肌になっているからです。血の流れない泥人形のような感じ。

言い過ぎましたが、嘘ではないと思います。

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ここまで読んで「口ほどにも巧く塗れてないのに何言ってるの頭おかしい」ってツイートした人もいるでしょう。画面に映ってますよ。

アップに耐えられるグラデーションの精度もない、その程度の代物。

そんなことは分かってます。だからこそ、言葉にして話すようにしてます。これが名人にもなると至らなさに口を慎むようになるし、秘伝の技を守るために自然と口が重くなります。自分の目指すことを口に出して言えるのは、未だ先の見えない道を歩いてる人だけの特権です。

僕は、人形ではなく人間の姿を描きたいと思ってます。



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