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熊、タイに行く③〜はじめてのひとり旅〜

タクシードライバー、詐欺師とのラップバトルを経て一回り成長したDJ.BEAR。東京生まれCHI-BA育ち。チーバくんかわいい。
というわけではじめての海外ひとり旅・タイのお話ラスト。


5.涅槃へ

ベアお買い物大好き。そして旅行となればその土地らしいもの、そこでしか買えないものを買いたい。
お目当てはマーケットでもたくさん見かけたカゴバッグ、淡い黄味がかったブルーがきれいなセラドン焼きの食器、タイっぽいワンピースなど。母がスカーフ集めてたからお土産にタイシルクの店も行こう。北海道行ってたはずの娘がなぜかタイシルクお土産に渡すことになるけどまあいい。

事前に目をつけていた店のいくつかは寝転がった金の大仏で有名な寺院ワット・ポーの近くだった。タイ初心者としてはこの寺院を見ておきたかったため、移動のロスがないよう周辺で良い店がないかと探したらけっこうある。
さて、ホテルからそこまでの移動だ。歩いては行けない。つまりまたタクシー。バトルの可能性があるが私は到着1日で既に二度の戦いを経験した者。これはもう歴戦の猛者と言っていいだろう。早い話が開き直っていた。
私は更なる上を目指してホテルの車寄せに立った。タクシーの案内をする小さなカウンターにいるスタッフに告げる。
「トゥクトゥクに乗りたい」
タイ名物、バイクのタクシーである。もう観光客は100パー乗るんじゃないかというアレ。
当然タクシーの比じゃなくボラれたという経験談しか聞かない代物だが、タクシーでもボラれるし徒歩でも怪しげな勧誘にあうのだから何で移動しようと一緒なのだ。それなら新しい体験を選ぶ。
ホテルのお兄さんは「1人で?大丈夫?」と聞いてくれたのでここだー!とばかりに「マイペンライ」と返した。かなりドヤ顔だったと思う。お兄さんは笑ってトゥクトゥクを呼んでくれた。
運転手にワットポーまでいくらか聞くと、やっぱり事前調査より高めの値段を言われたのだがなんとあのタクシーより良心的。拍子抜けする程だった。でも高いは高いのでもうちょっと下げてと頼むとアッサリ下げてくれ、心配だったのか近くにいてくれてたホテルのお兄さんも笑顔でウンウンと頷いたのでこれぐらいが相場なんだなと交渉成立。あちこち破れている赤いシートに乗り込んだ。
好調なスタートだと気分の良い私を乗せてトゥクトゥクはホテルの敷地から道路に出る。
次の瞬間ドン、と背中がシートに押し付けられた。一気に加速したのだ。「えっ」と声が出た。思い出される空港から乗ったタクシーの猛スピード。えっバイクでもそんなかんじ???の「えっ」だ。そんなかんじだった。もうめちゃくちゃ飛ばす。そのスピードのまま車線変更するし右左折する。
ここでトゥクトゥクの構造をよく考えてみてほしい。
三輪のバイクの後部に2人が横並びに座れるシートが前向きで設置されている。そのシートはビニールの屋根に覆われているが、両サイドは開放されている。ドアとか窓とかない。要はただの椅子に座ってバイクに牽引されてる状態だ。
前後は別にいいんだよ。背もたれとかの支えがある。横。横の動きヤバイ。遠心力すごい感じる。
トゥクトゥクが曲がるたび右に左に体が滑って外に投げ出されそうなのだ。
もしかしてさっきホテルのお兄さんが1人で大丈夫か聞いたのは値段交渉じゃなくてこれだったんじゃない?
シートが2人用だから1人で乗るとスペース余ってる分体のブレがやばいマジで。わりと本当に死ぬかと思った。ギャーギャー騒いだが運転手はマイペンライマイペンライ言ってた。いやぜんぜんペンライだわ。
しかし人は慣れるものである。というより麻痺するのか。
数分で手で掴むベストポジションを見つけ足の踏ん張りを効かせる体勢を編み出すとなんか笑いがこみあげてきた。だってほんとにすごいスピードなんだもの。おそらくアメリカに旅立つ片思いの彼女に告白するため空港に向かう(ライバルだった親友に背中を押されつつ)時のスピードだと思う。私告白の予定ねーのに。寝転がってる大仏見に行くだけなのに。
ジェットコースター並みのGを感じるたびに声を上げて笑っていたら、運転手も笑うのでなんだか最終的には楽しかった。
でも危険は危険なので怖い人は乗らないか、乗る前にゆっくり走ってと強めに頼むことをおすすめします。
そうしてワーキャー言ってるうちにワットポーに到着。面白かったのでチップのつもりで上乗せして料金を払うと、運転手は律儀にその分を返してきた。チップだよと言ったけど「いいよいいよ。その分バンコク楽しんで」と受け取らなかったので粋な男だぜと感動した。

ワットポーはタイの王宮寺院で涅槃寺とも呼ばれる。釈迦が入滅する姿をあらわした金の仏像が見られるのだ。
手を枕にして寛いでるように見える大きな仏像の前には外国人も現地の人もたくさんいた。横にいた観光客にフランス訛りの英語で「日本人?」と聞かれたのでそうだと答えると「日本も仏教の国だよね?ここではどう振舞ったらいいの?」と言われてドギマギしてしまった。
皆さんが思ってるほど実際の日本はそこまで仏教の国感ないんですよ…と思ったが、期待に満ちた彼女たちの眼差しを前に無碍に断ることもできない。
そこへちょうどよくタイの僧侶と思われる男性がやって来たので、彼は僧侶だから見習いましょうと提案して切り抜けた。まあなんか唱えたりしだして本格的すぎたので有り難く拝んで「私達はこれでOK」とやったのだけど。
仏教の事もだけど、日本について外国人が知りたがるそういう文化をもっと説明できるようにしといたら良かったなとこの時ちょっと思った。知識があって、それを母国語以外で説明できるってすごいことだ。
その後寺院を一巡りしてから外に出た。


6.お買い物

寺院近くのマーケットへ散策しながら歩いて行くことにする。

しばらく歩き外国人観光客の姿もほとんど見かけなくなってきた頃、横断歩道に足を踏み出したその時ふいに大きな音が響き渡った。厳かな曲だ。すると車もバイクも歩行者もその場の人間がみんなピタリと止まる。
動いているのは私だけで、驚いて周囲を見回すと全ての人がその場に立ち止まって目を閉じたり手を合わせたりしていた。
なんだか分からないが空気を読む日本人なので見よう見まねで私も目を閉じる(たまに薄目で周囲確認)。
曲が終わると何事もなかったかのように皆動き始めた。今の出来事について何か話しているような人はいない。
え……何だったの?こういう風習あるならガイドブックに書いてあってもよくない?
後でホテルに帰ってガイドブックを確認したが該当する記述は見つけられず、帰国してからタイ駐在経験者に聞いたところ、朝夕の1日2回、国歌が流れるとの事だった。その間は起立して国歌を聴き、敬意を示す。
でも前日はそんなこと起こらなかったし、滞在中その1回しか経験しなかったので毎日2回は盛ってない?と言ったら、国歌が流されるのは公園などの公共施設やテレビ・ラジオだから、そういうのが近くにないような街中にいたら聞こえないことも多いそうだ。なるほど納得。
外国人にまで強制するものではないそうだが、タイにご旅行の際は周囲に倣ってみるのも良いかもです。

そんなこんなでマーケットに到着。目当てのカゴ屋さんを見つけた。
店員さんは若いお姉さんが1人。にこやかに挨拶をして商品を見せてくれる。
親切に色々説明してくれて感じが良かったので、他の店も見てみるつもりだったがそこで買うことした。
日本から来たことやひとり旅だということを話すと、店員さんは帰り際に手書きの電話とメールアドレスのメモをくれて「何か困ったことがあったら連絡して」と言ってくれた。
や、やさし!!!聖人か?
本当に有難くて感動したし、この後すぐ困ったことは起きるのだが、さすがにすぐすぎてコールはしなかった。帰国後に親切にしてくれたお礼のメールはした。

さてその「困ったこと」とは、今さら特に驚きもない話だが旅の思い出として記しておこう。
カゴ屋さんを出てぶらぶらと見て回っていると、タイらしいデザインの雑貨が並ぶおしゃれな店を見つけた。アクセサリーや謎の置き物、文房具など細々としたものがあってお土産に良さそうだ。
店内に入ると、カウンターに2人のお姉さんがいたので挨拶をする。2人はニコニコしながらこちらを見ていた。
アジア〜なレターセットやペンなどいくつかを選んでカウンターに持っていくと、笑顔のままお姉さんはエグいぼったくり金額を電卓で示した。
前の店であんな優しいお姉さんに会った直後にコレである。フッおもしれー女。
マジでちょっと笑ってしまって、それで気づいたけどお姉さんたちの笑顔はニコニコじゃなかった。ニヤニヤしていたのだ。「カモご来店」の笑みだったのだ。
「高いわ!」とツッコむと、お姉さんたちは顔を見合わせニヤニヤしながら「これは高級な素材だしこっちは有名なデザイナーが作ってるから」などと2人がかりで宣った。
いや、棚に値札あったし明らかに値段違うし?と指摘すると、1人がスタスタと該当の棚に向かい、値札をサッと取り上げて「あーこれ間違ってるわー」と言いながらスマンな!的な笑顔を向けてきた。私はさすがにこのパターンにも慣れたタイプのカモなので「こいつら、強い…」と感じ、早々に諦めることに。
「じゃあ要らない」と店を出ようとすると「安くしてあげる」と引き留められた。
勝負を仕掛けてきたってワケね…と旅のテンションでバグっていた私は何故かその勝負に乗った。そこまで欲しいものでもなかったのに。旅やばい。
そこからはもう遊戯王かっつーくらい交互にカード(金額)を出し合う熾烈な戦いだった。遊戯王あんま知らんけど多分そんなかんじ。
そんでまあ当初の値札より少し高い値段でデュエル終了。
そこは観光客として金を落とさねばという気持ちとやるだけの事はやったぜという気持ちで支払った。心なしかお姉さんズも「良いデュエルだったぜ…」と充実感を見せていた気がするが、多分気のせいである。普通にボラれただけだ。
店を出ると「なに今の無駄な時間…」と正気に戻りかけたので、これで友達へのお土産が揃った!とタスクの達成に満足することにしたのだった。
なんでも気の持ちようだからね。大丈夫大丈夫。
基本こういうかんじなので、「マイペンライ」は私にも合った考えなのかもしれない。
繊細で小さなことや失敗を気にしてしまう人にはストレスかもしれないけど、まあ日本じゃないしなーって思えるかもしれないから、そういう人もチャレンジしてみたらいいかもしれない。
かもしれないばっかりで相当ふわっとした事言ってしまったけど、それもまあ気にしないでほしいかもしれない。


7.旅のまとめらしきもの

初めてのひとり旅、初めてのバンコクはこんな調子で、役に立つ情報は何もお伝えできなかったのだが、そこは最初に言いましたよね?ということで勘弁願いたい。
でも一応締めにそれっぽいことは言いたい。

この後勢いづいた私はインドやマレーシアやパリ、グアム、ハワイ、香港などなど…島だったり街だったり、1人だったり誰かと一緒だったりしたが、とにかく旅に出た。
初回でわりとトラブルに遭ったのに、ひとり旅コワ…海外ヤバ…とはならなかったのは、多少のことは旅の醍醐味と思えたからだ。身の危険といったような、本当に危ない目には遭わなかったというのもあるだろうし、親切な人たちにもたくさん会えたおかげでもある。
旅を楽しむコツは色々あると思うが、私にとっては「トラブルも楽しむ」と同時に「身を守るための警戒はする」こと、「現地の人とコミニュケーションをとる」ことかなあと思う。
あちこち行って移住もしてきた結論はこんなもんだ。
ひとり旅やツアーじゃない海外旅行を考えてる人によく聞かれるのは、英語をはじめとして言葉の問題だけど、旅の目的や本人のメンタル強度によるかなと私は思う。
旅先でなにか交渉が必要とか現地で色んな人と交流したいとかなら言葉も必要だけど、普通に遊ぶ分には「できたら便利」くらいのもんで、あとは持病があったりトラブルに対する不安が強めの人は少しはできた方がいいかな?どうかな?

仕事で中国に引越した初日。
言葉はニーハオしかわからず、近くに何か店があるのか無いのかさえ一切知らない状態で会社にあてがわれたマンションに放り出された私は「えっご飯どうすんの。もう外真っ暗だけどこの辺て外出して大丈夫な治安?」と焦った。
一食くらいなら食べずともよいのだが、その日から1週間は誰のヘルプも得られない状況だったのだ。
電子辞書片手にレセプションに行くと、誰もいない。
ロビーを歩いてる住人を捕まえてなんとか夕飯に困っている事は伝わって、その人は家から台湾料理と思われる店のデリバリーメニュー表を一枚持ってきてくれた。
だが配達受付はどう見ても電話のみ。私は必要な単語と発音を調べまくって電話注文に挑み、夕飯を手に入れることに成功した。
メニューは半分くらい違うもの届いたけど。なんか真っ黒い見たことない料理届いてビビったけど。
だから、まあそういうことだ。
言葉はもちろん大事だけど、できなくても何とかしたろという心意気の方がもっと汎用性が高いんじゃないかと思っている。
なので、あんまり色々心配せず、でも安全には気をつけて、皆さまも楽しい旅を!

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