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ホーユーヘアカラーミュージアム企画展『染める。染めてから、』クロストーク

この記事は、『ホーユーヘアカラーミュージアム』で2023年10月10日から2024年3月2日まで開催された企画展『染める。染めてから、』にて、エピソードを提供したライターと、そのエピソードを元に作品を作った学生アーティストとのインスタライブ対談を、インタビュー形式でまとめたものです。

※企画展『染める。染めてから、』は終了しています。

企画展『染める。染めてから、』開催の背景

ホーユー株式会社では昨年の創立100周年を記念して、noteにて「髪を染めた日」にまつわる思い出深いエピソードを募集するキャンペーンを行いました。

応募総数はなんと2,697点。その中からアート作品にしたいものが8点選ばれ、学生アーティストによる作品化が実現しました。

学生アーティスト:小野絢乃愛知県立芸術大学日本画専攻4年

エピソード作家:エビアン(Mika Endo)インタビューライター兼エッセイスト

クロストーク:学生アーティスト×ライター

「欲しい言葉を欲しい人からもらえなかった」エピソードの共感

▼エビアン提供「髪を染めた日」のエピソードはこちら

【エピソード概要】

このエピソードは、新卒2年目で居酒屋の店舗責任者として配属されたときに、初めて髪を染めたときのことを書いています。

当時、一緒に働いていた2つ上の男性社員が、ルッキズムだった上に自分のかっこよさを自覚していたんです。何かに付けても「あいつはブスだ」「俺は顔が良くてよかった」「あの子可愛いよね」など。

彼は決して私のことを「可愛い」と言いませんでした。それが女性として認められていないようで悔しくて、彼の「可愛い」を聞きたい一心で人生で初めてヘアカラーしました。

翌日、ドキドキしながら出勤すると……なんと、彼から何も言われなかったんです。他の人は一瞬で気づいてくれたのに。私の見た目の変化を、無視されたんです。

この日を境に、「誰かの可愛いを求めるのはくだらない」「自分の好きな髪色で今日も生きよう」そんな教訓を得たエピソードです。

小野:僕は今回の企画展の募集がきたとき、8つのエピソードに全て目を通して、共感できなかったら断ろうと思っていたんです。エビアンさんのエッセイは思い当たる節があったので選ばせていただきました。


エビアン:ありがとうございます。ちなみにどの辺りに共感していただいたのでしょうか?


小野:このエピソードを要約すると、「欲しい言葉を欲しい相手にもらえなかった」ということですよね。

自分のためにやっていたことがいつの間にか人のためになっていて、知らない間に自分を傷つけている。それは誰にでも起こりうることで、「わかる」と思いました。

僕は、「かっこいい」と言われるよりも「可愛い」と言われる方が好きです。作品に関しても、可愛いものなら作れる自信があるので。
でもこの文章では「可愛い」をネガティブな意味で書かれていたので、自分とエビアンさんの「可愛い」に対する違いを考え出すと作品に入り込めました。


エビアン:実は、このエピソードを選んでくださった方は女性だと思い込んでいたんです。「私も可愛いって言われたかった!」という共感だと思っていたのですが、もっと深いところを感じ取っていただいて、とても嬉しいです。

ネガティブだけではない、複雑な感情を日本画で表現する

エビアン:改めて、小野さんが専攻されている「日本画」とはどういうものなのでしょうか?


小野:日本画は、岩絵具というものを使って絵を描きます。化粧品でも良く使われる粉状の顔料を、膠(にかわ)という動物の骨や皮を煮詰めた粘着質なものとお皿で混ぜて、手につけて塗って作品をつくります。

エビアン:てっきり、日本っぽい絵を描くことなのかと思っていました。


小野:水彩画は水を使って、油絵は油を使うので、日本画だと日本を使う?となりますよね。これはねじれている問題なんです。今回の作品は「雲肌和紙」という、雲のようなきめ細かい和紙を使っています。

小野さんの作品『sad sad brightness so long』

エビアン:元々こういう紙の色なんですね。

作品を拝見すると、同じ茶色のところでも、金色の部分や濃い部分など、濃淡がかなりあります。色味で意識されたことはありますか?


小野:僕はヘアカラーをしたことが無いので、エビアンさんが当時染めた色に対してイメージできることは少なかったんです。
なのでどちらかというと「この体験を経てどう思ったのか」にフォーカスを当てた方が描きやすいと思いました。

このエピソードは、最後こそポジティブな方向に転換しているけど、辿ってきた道はネガティブなイメージがあったので、単なる明るい絵にはしたくなかったんです。


エビアン:私はエッセイを書くとき、どちらかといえば負の感情を表現することが多いんですけど、最初から最後までネガティブだと、読んでいる側が救われないですし、自分も辛いんですよね。

だからどのエピソードでも、最後に一筋の光を入れて、前向きな気持ちで終わらせられるように意識しています。


小野:その辺りも文章に表れていて、少し爽やかな部分は残したいと思いました。

この作品はキャラクターの顔の目から上を描いていて、前髪が風に吹かれた草原のように波打っています。風を受ける起点の部分は絵の具を載せていなくて、紙の色のままなんですけど、そうすることでふわっと軽く見えるんです。そういった爽やかさを人の印象に残したいと思ったのは、文章から想起されたことですね。


エビアン:目から上だけを描いた理由は何でしょうか?


小野:僕は普段よくキャラクターを描くんですけど、その時も口は描かないんです。それは、目だけ描けば感情は伝わると思っているからです。

でも、わかりやすい目の形にするのは嫌で。「傷ついた!」って、そこまでシンプルな感情じゃないと思うので、見る人によってどう受け取るか、僕の感じたショックな印象を入れつつ、抽象的なものにしようと思いました。


エビアン:日本人は表情を目で見るって言いますもんね。それが日本画、ひいては日本らしさと通じるところがありそうです。

アーティストとライター。クリエイターとしての共通点

エビアン:この作品の制作時間はどのくらいですか?


小野:僕の場合は1ヶ月ほど部屋に置いて眺めながら、少しずつ描いていくんです。実際手を入れる時間は10時間無いくらいだと思いますが、この作品を見たり考えたりする時間はもっと長かったです。


エビアン:確かに、私もエピソードを書く時間よりも考える時間の方が長かったです。


小野:今回のように経験したことを文章にするとき、言語化できることが限定されてしまうと思うのですが、エビアンさんがエピソードを書くときは実際の体験を思い出しながら書いているのでしょうか?


エビアン:私は自分のエピソードを小説みたいに書くのが好きなんです。SNSよりも感情や思考が整理されて、言語化することで思い出が自分の手元から離れて……。


小野:昇華できる。


エビアン:そうなんです。だから今回のようなネガティブなエピソードを書きたがるのは、負の感情を手放したい想いがあるからかもしれないですね。


小野:僕も作品をつくるときはそうですね。このエピソードについて考えていたときにたまたま聴いていた曲があって。『the pillows』というバンドの『Sad Sad Kiddie』です。

この曲はコミュニケーション不和がきっかけで、相手を罵っているんですね。「お前なんか誰も助けてくれない」のように。

コミュニケーションする中ですれ違って反感を抱くことを、たまたま文章読んだときに思い出して、それで歌詞の『sad sad kiddie,so long』を文字って絵のタイトルを『sad sad brightness so long』にしました。

あなたにとってヘアカラーとは?染めた背景

エビアン:私にとってヘアカラーは特別なものです。たとえば、夕方に駅のトイレに入ると、たくさんの女性が鏡に向かって化粧をしているのを見かけます。それって「これから会う大切な人のため」に、自分がいちばんベストな状態を見せたいからだと思うんです。

ヘアカラーも私にとっては同じようなもので、大切な人に会うときや大事な場面で自信を持てるためにします。なので自分のために毎月髪を染める人はすごいなと思います。

小野さんは先ほど、「髪を染めたことが無い」と言っていましたが、染めない理由とかありますか?


小野:手入れが苦手で(笑)。周りの同級生は染めている人がいるので、染める色よりかは「なぜ髪を染めたんだろう」とか、染めたときの感情に共感しますね。


エビアン:今回の企画展のように、その人が髪を染めた経緯を知れるのは面白いですよね。


小野:何となくで染めた人もいれば、一大決心で染めた人もいますもんね。

僕も先ほどの「大切な人と会うから髪を染める」話と近しいものはあって。僕は靴が好きでたくさん持っているんですけど「今日はこの用事があるからこれを履いていこう」とかありますね。


エビアン:確かに、ヘアカラーに限らず人それぞれそういうものがあるかもしれません。


小野:単純化してしまうと「ただ髪色が変わっただけ」ですが、その人にとってそれが重大な変化であることもありますよね。

あとがき

“自分のエッセイがアート作品になること”

言葉として理解できるものの、「どういうことだろう」と最初はイメージできませんでした。

芸術とは無縁だった私が、今回のインタビューを通して感じたのは、アーティストの「解釈の深さ」と、クリエイターとしての共通点。

「このエピソードの単なる挿絵にはしたくない」とおっしゃった小野さんは、本人すら無かった視点でエピソードを解釈して、大事にしていただきました。その結果、エピソードと作品それぞれを引き立てるものになったと思います。

インスタライブ終了後には、作品を展示するにあたって考慮したことや、大学生ならではのお話など……。新しい発見ばかりで、改めて名古屋まで足を運んでよかったと思います。


末筆になりますが、今回私のエピソードを作品にしてくださった小野さん、インスタライブ開催を快諾いただいたホーユー株式会社広報課の梶原さまをはじめとするヘアカラーミュージアムのみなさま、愛知県立芸術大学芸術情報・広報課の木村さま、そしてご視聴くださったみなさまにお礼申し上げます。

ホーユーヘアカラーミュージアム

対談日:2024年2月26日


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