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ぜんぶ、あなたの「可愛い」が欲しかったから|髪を染めた日

一度でいいから、あなたに「可愛い」と言われたかった。

新しいアイシャドウを買う。
新しい服を買う。
ダイエットを始める。

どれもピンとこなかった。
いつまでも芋っぽい。いまいち垢抜けない。

私は、生まれて24年間ためらっていたことをついに、実行に移す。

髪を染めれば可愛くなるんじゃない?

「顔が全て」の、ずば抜けてかっこいい同僚

見た目に対する劣等感は、日に日に強くなった。

新卒2年目で配属された店舗には、2歳年上のずば抜けてかっこいい同僚がいた。

異性としての好意を持つことは無かった。
私もその同僚にも、それぞれパートナーがいたからだ。

ただ問題だったのは、その人が自分で自分のかっこよさを自覚していることと、人の見た目をすぐ評価することだった。

「いやあ、本当に顔が良くて良かったと思ってるよ!めっちゃ得」

「あの右の席にいる子、可愛いよね」

聞きたくなくても、同僚のそんな言葉が耳に入る。

あるとき同僚は、私と1つ上のA先輩を挙げてにこんなことを言った。

「いや、この店に配属されたのがエビアンでほんと良かったよ!Aさんだったら性格が元気すぎて疲れてたと思うし!」

A先輩もまた、「ずば抜けて可愛い」のである。

本当はA先輩の方が可愛いし一緒に仕事したかったのに、なんだお前かよ。まあ、とりあえず性格フォローしとこ。

卑屈すぎるかもしれないが、そんな風に言われている気がした。

悲しかった。悔しかった。
いつの間にか私は、同僚の「可愛い」が欲しいがために自分の見た目を変えていった。

「毛染め処女」卒業の末路

お気に入りの服を着て行っても、メイクを少し変えても、同僚は全く気づいてくれなかった。

こうなったらしょうがない。
私は24年間の「毛染め処女」を捨てるべく美容院に足を運んだ。

髪の明るさなんて、どれがいいのか分からない。
ブリーチって何?トーン?色が入りやすい髪質って?

何もかも分からなかった。しょうがない、処女だから。

ただ、私にとって髪を染めることはそれだけ特別だった。

髪が明るくなれば、自分に自信が持てて明るくなる。
だから絶対、可愛いって言ってもらえる。

本気でそう思っていた。

ブリーチをせずに明るく染まるぎりぎりのところまで染めてもらい、いざ出勤。

「おはようございます」
「おっすー」

……え、反応0??

結構明るくしたはずなんだけど……気づかないくらいだったのかな?
そんなことを思いながらアルバイトの出勤を待った。

夕方、アルバイトがお店に入って私と目が合った第一声。

「エビアンさん、髪染めましたね!めっちゃいいじゃないですか!」

ここでもう、すべてが崩れた。
そりゃ、黒髪からブリーチ手前の茶髪にして気づかないわけがない。

同僚は「変化に気づいたけど気づかないふりをした」だけだった。

その後いつも通り営業を終えたが、かなりショックを受けた。
そしてもう、どうでもいいと思った。

誰かの「可愛い」を求めるのが、すごくくだらないと思った。

もう、他人からの「可愛い」はいらない

髪を染めれば性格も明るくなって、垢抜けると本気で思っていた。

でも、髪を染めても大して変化は無かった。

私自身に変化は無いし、同僚からの「可愛い」ももらえなかった。

でももう、人からの「可愛い」はいらない。

芸能人ならまだしも、私はこの顔で飯を食べてるわけじゃない。

私がいいと思うメイクをする。
私がいいと思う服を着る。
私がいいと思う体型を維持する。

そして私は今日も、自分の好きな髪色で出かける。

#髪を染めた日

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