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パックの大きさが、すこしだけ足りない

わが家の習慣に「風呂上がりのパック」が追加されてから、まもなく1ヶ月が経つ。


とある仕事終わりの夜、同居中のパートナーと自転車で薬局に行ったときのこと。最初は「化粧水が無くなりそう」と言っていた私が「そういえばヘアオイルもない」と言い出して、「シャンプーもそろそろ……」と、早急に必要なわけではないものまで持ち出してきた。

薬局に行くとどうして、意味もなく店内を歩き回ってしまうのだろう。

普段使う化粧品など決まっているはずなのに、薬局に行くとなぜかいつも使わないものにまで目がいく。「もっと綺麗になりたい」と羨望の眼差しを向けて、「これを使った後の自分」に期待を膨らませてしまうのだ。仕事終わりで疲れているはずなのに、このときめきだけには抗えない。

こうして要は済んだにもかかわらず、夜にしては眩しすぎる白い店内をうろうろして、パートナーはカゴを持ちながらそんな私の後ろを辛抱強くついてきてくれるのだ。


「そういえば『安いやつでもパックは毎日したほうがいい』って、何かで見たな〜。何だっけ、YouTubeだっけ」


前を向いたまま、独り言にしては大きすぎる声でパートナーに話しかけた。羨望の眼差しは、フェイスパック売り場に向けられた。

以前、私は毎日ちゃんとパックをしていた。半年前に実家からパートナーの家に移った途端、その習慣が無くなってしまったのだ。実家にはまだ、使いかけのパックが何枚か残されている。
また習慣にできたらいいな、とは、うっすら思っていた。けれど、不要不急とめんどくささがそれを阻み続けていたのだ。

今回も「まあ、いっか」で済まそうと思ってその場を通り過ぎたとき、後ろから、バサ、と重さをはらんだ物音が聞こえた。パートナーが何かをカゴに入れたらしい。

振り向くと、長方形の黄色いパッケージの、30枚入りのパックが入っていた。

「使ってみようよ、一緒に」

何を隠そう、パートナーは私より美容に気を使う人なのだ。

ムダ毛は定期的に短くするし、ニキビができたら小さいうちから必ず薬を塗る。初めてパートナーの家に行ったときは、お母さんが残したものだと勘違いするほど様々な洗顔料が置いてあった。どの洗顔料にも「毛穴」というワードが大きく書かれていた。

そんなパートナーが、パックを使いたがらないわけがない。

「いいね、一緒にやろ!」

こうして私たちのパック習慣が始まった。

家に帰って、先にパートナーがシャワーを浴びている。早速パックをつけて洗面所から出てくるんだろうなと思うと、おかしい気持ちになった。パックをつけたパートナーはどんな顔になるんだろう。想像するだけでふふ、と頬が緩む。

シャワーの音が消えて、浴室のドアが開き、大きな身体に付いた水分を拭き取る音がする。きっとこの後の流れは、メガネをかけて、バスタオルを腰に巻き、パックが30枚入った袋を手に取るはずだ。

ガラ、と、洗面所の扉が開いた。

「これさ、全部届かないね?」

パートナーの顔に乗ったパックは、たしかに白く覆っているものの、額が3cmほど剥き出しになっていた。

額に合わせてパックを上にズラすと、鼻の頭が丸出しになり、鼻の頭を覆うと額まで届かない。よく考えれば女性用なのだから、サイズが合うわけがないのだ。
気の毒ながらも「そっか、ちっちゃいよね……!」と、笑いを抑えきれなかった。「自分だけ笑ってずるい!早くみかもつけてよ」と、パートナーは少し機嫌を損ねた。私の顔は、ぴったり覆ってくれた。


こうして私たちは、すこし小さいパックを2週間ほどで使い切り、現在は2種類のパックを使っている。

そのうちのひとつのCICAパックは、パートナーの顔を漏れなく覆い、「これはすごい!」と私たちを感動させた。

もうひとつのパックは、パートナーの肌質が合わず、私1人でせっせと使っている。袋から出した途端に美容液が垂れてくるほどひたひたに浸かっていて、保湿力抜群だ。


ちなみにこちらは女性サイズなので、パートナーの肌質に合わないのがこれでよかったと思っている。

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