父と犬と桜の夢を考察する|ヨルシカ『春泥棒』
今年の桜は特に開花が早かった。
私が大学1年生のときの4月1日は満開の桜で迎えられたが、今年の4月1日の桜はすでに花びらよりも葉が優勢だ。
桜がすべて葉に衣替えをしたおとといの夜、夢で私はきれいな桜並木に出会った。
ただ、その桜並木は奇妙なことに、左側の桜だけ満開。右側はほとんど花びらを落としている。
それでも、昼下がりの青い空のもとで輝くピンクの花びらに、私は足を止めた。
美しい桜並木を写真におさめようと、スマホを取り出しカメラを向ける。
そのとき後ろから、「おう」と声をかけられた。
振り向くと、父が自転車に乗って私の後ろに止まっている。
しかし、父も奇妙だった。私が物心ついてからの父の記憶よりも、圧倒的に若かったのである。
おお、と私は声にならない反応をすると、父はそのまま私の右側をすり抜けて去っていく。
自転車とすれ違って初めて、後ろのカゴに飼い犬のチワワが乗っていることに気づいたところで、夢は終わった。
この夢から覚めたとき、ヨルシカの『春泥棒』を重ねずにはいられなかった。
父も飼い犬も、すでにこの世からいないのである。
ヨルシカとはこういうバンド
ヨルシカとは、ボーカロイドプロデューサー(通称ボカロP)のn-bunaがボーカリストsuiを迎えて2017年に結成した、2人組のロックバンドである。
ヨルシカの楽曲はどれも、死生観や葛藤を美しく表現しているところが魅力的だ。人の痛みにsuiの優しい歌声で寄り添い、時には考えさせてくれる。
四季を織り交ぜた情景描写に、「夏になったら聴きたくなる」といって想いを馳せることも多い。
作品が表に出ることを尊重して、本人たちの情報はあえて公表していない。曲からも本人たちの姿勢からも、作品を丁寧に作り上げていることが分かる。
そんな作品の魅力が人気を呼び、さまざまなCMや映画の曲で使われている。『春泥棒』は2021年に大成建設のCMソングに起用された。
ヨルシカ『春泥棒』はこういう曲
2021年1月にリリースされた『春泥棒』は、「桜=命」と見立ててそれが風により散っていく(命が尽きていく)さまを描いている。
『春泥棒』の作詞・作曲を務めるn-bunaは、歌詞についてこのように話している。
作品のPVでは、コーギーが次第に飼い主に反応しなくなる(命がどんどん消えていく)描写があり、死生観を美しい桜とともに表している。
『春泥棒』をお借りした父と犬と桜の夢の考察
「桜=命」と見立てて今回私が見た夢を考察していく。
片側だけ満開の桜並木。
これは寿命があと半分ということを表していたのではないか。
そう解釈すると、夢での父が異様に若い理由が分かる。
父は53歳で亡くなったため、半分だとすると26〜27歳。
私が産まれたとき父は28歳だったため、夢で見た若い父を覚えていない理由も説明がつく。
ついでに飼い犬も同様に若かったが、16歳で死んだため8歳だったのだろうか。
こんなことがあるのか。こんな夢を見るのか。
気づいたら『春泥棒』を再生しては、夢で見た父と犬に想いを馳せていた。
引き合わせてくれてありがとう
偶然なのかは分からないが、今月末は父の一周忌。
その前に若いときの父が様子を見に来てくれたのだろうか。
「同級生」の父との再会は一瞬だったが、せめて夢の中だけでもずっと片側だけの桜並木でいることを願うばかりである。
そして、この考察を気づかせてくれた『春泥棒』には感謝してもし切れない。
『春泥棒』はさまざまなサイトで考察がされているほど、歌詞にもPVにも意味が込められている作品。この春、大切な人を想ってぜひ聴いてほしい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?