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愛された記憶

夢男が逝ってしまった。

夢男というあだ名は、いつも世界の海へと航海する夢を語っていた彼に
呆れた妻がつけたものだ。
わたしも子供の頃、母によく「あんたはまったく夢みる夢子」と言われて
いたので、きっとどこか似ているのだろう。
10年以上昔、わたし達は同じ町に住み、家族ぐるみで行き来していた。

「まずこの海へ出て、このルートでこの国に着くだろ? ここで
数ヶ月過ごして、気に入ったら働いて、また次の目的地を目指す」
いつも海洋地図を広げては、そんな話ばかりしていた夢男。
だんだん熱を帯びてくる話に、また始まったと笑う、わたしと夢男の妻。
「家族全員で行くの? 男だけで行くの?」「家はどうするの?」
終わらない話に妻が苛立っても、夢男の目はもう地図を超えて
広い海を見ていた。
夢子としては、なんとなく彼の気持ちがわかるのだ。

小さな航海はなんどもしていた。
長男や次男には、海や船との付き合い方をしっかり教えたはずだ。
暇ができると、山だ、キャンプだと自然の中へ家族を連れ出した。
家にいるときは、目の前のグラウンドが遊び場だった。
自転車にアーチェリー、アイススケート… 
夢男が子供達に残したものは、
”体験”というプライスレスな財産だった。

どんなときも子供達と一緒に過ごした夢男の愛は
そこらじゅうの自然と一つになって、これからも彼らを包むだろう。
人が旅立った後に残り香のように漂うのは、その人の愛だ。
暖かな思い出。眼差しやほほえみ。
愛された記憶が子供達から消えることはない。

ハワイ島が好きだった夢男を、ここハワイの海から送ろう。
たくさんの思い出を編み込んだ、ティリーフのレイと一緒に。
好きだけ航海してね、夢男。

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