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VIVA LA VULVA(外陰万歳)!

この文章は榎本八千代さんの「禁忌のものをオープンにする」に対する返信です。マガジン「閉経☆姉妹の往復書簡」の方もフォローしていただけるとありがたいです。

「経血に見せかけた「青い血」」の記憶

経血に見せかけた「青い血」っていつ頃から生理用品のCMに登場するようになったんでしょうね。Youtubeで「ユニチャーム」のCMをまとめたものを流し見してみた(1970年代は研ナオコがキャラクターとして登場するものが話題になったそうです)のですが、70年代のチャームナップの広告ではナプキンの薄さを宣伝するものの、個別のナプキンの実物を写すことはなく、外装パッケージだけを見せ、経血の吸収についてはアニメーションを使うというものでした。「青い血」を実際にスポイトで落とす様子を捉えた映像を使う、というのは80年代以降のようです。生理用品の宣伝で「経血が出る」ということを視覚的に表現することが長らくどれだけタブー視されてきたかということが分かりますよね。

私が初潮を迎えたのが、中学1、2年生の頃で、当時テレビのCMで話題になっていたのが1986年にP&Gから発売されたウィスパーです。ナプキンの表面にドライメッシュシートを採用したのが画期的だ!と盛んに宣伝していました。実際に当時テレビで見た記憶のある最初のCMは、写真家の織作峰子(1960-)が黒い背景で、素材やナプキンの構造について詳しく説明しています。別のナレーションを被せるのではなく、登場する女性本人が語るということも当時としては画期的だったのかもしれません。ここでも「青い血」が出てきますね。1986年といえば男女雇用機会均等法が施行された年ですから、織作峰子のCM登用は、「主体的で、働く女性像」の印象づけが強いように思います。
ウィスパーの発売の前の1985年に王子製紙が「エリエール エリス」というブランドを作って、安全地帯が『碧い瞳のエリス』というCMソングを歌っていたことを思い出します。思春期の頃に植えつけられた記憶、根深く残ってるもんですね。

最近(2019年10月)のことですが、ファッションモデルの荒木美由紀(1964−)が「ウィスパー」のCMに再起用、ということが話題になっていました。荒木美由紀は1996年にウィスパーのCMに起用されたとのことですが、再起用された時には、「ウィスパー」は生理用品ではなく「吸水用品」つまり、尿漏れ対策のパッドのブランドになっています。

P&Gは2018年に生理用品の製造から撤退し(この辺りのことは、田中ひかる著「生理用品の社会史」に詳しいです。)、「ウィスパー」は2019年から「吸水ブランド」として再開しました。生理用品としての「ウィスパー」が製造販売されていた1986年から2018年までの32年間が、私が初潮を迎えて閉経するまでの期間にピッタリと重なります。自分のライフサイクルが、製造業の隆盛に重なることが興味深くも感じますし、人口のボリュームゾーンとして大きい団塊ジュニア世代の女性が、更年期に入り、閉経して尿漏れを気にするようになったということを、大企業の経営方針の変化を通して実感します。スーパーやドラッグストアで生理用品の棚の前を通っても、おりものシート、尿漏れパッド、大人用オムツの方が目立つようになってきたような気がします。男性用の尿漏れパッドのラインナップも増えてきていますから、中高年世代の増大に伴って、尿漏れを気にかけてケアをしなければならない(あるいは他者からのケアを受ける)ことにおいては、性別の差はなくなってくるのでしょうか。(余談ですが、男性でも痔の時に生理ナプキンを使うことがあるそうです)

VIVA LA VULVA!

股間から漏れ出てくるものは、それが経血であれ尿であれ「汚物」として扱われ、広告では代替の「青い液体」として表現されているのを私たちは日々目にしているわけです。経血が、糞尿と同様に体から排出されて適切に処分すべき「汚物」だから赤い血そのままとして表現することが「禁忌」なのか、というとそれだけではないのだと思います。女性の性器、外陰部を表象することにまつわる「禁忌」も関わっているのでしょう。「デリケート・ゾーン」や「VIO脱毛」のような言葉で、外陰部周辺の「領域」を指す言葉は知っていて口に出せても、外陰部がどのような部位によってできているか、ということを知らないままでいる人というのも多いのだろうと思います。そう考えると「青い液体」は、性器、外陰部を身体から遠ざけさせるための表現方法のような気がします。

経血が赤い血であるというごく当たり前のことをCMで表現するだけで、物議を醸し、「生理の血は青くない──業界のタブーを破った英CMの過激度」というタイトルの記事で紹介されることに、なんだかなぁ、と鼻白む気持ちにもなるのですが、(当たり前のことを直裁に表現して何が「過激」なんだか。タイトルのつけ方・翻訳の問題かもしれませんが。)2010年末になってようやく、生理という女性の体の現象を偽ることも隠すこともなく消費者に伝えたほうが良い、という考え方が世の中一般に共有されるようになったということなんでしょうね。#metooのムーブメントが広がっていく時期にも重なることも興味深いところです。

「Blood Normal」を展開するイギリスの生理用品ブランド「Bodyform」は
ストックホルムに本社を置く多国籍企業グループEssity(エシティ)が傘下の一つのようですね(日本ではユニチャームと提携して、TENAという介護用オムツを展開しています)。Bodyformと、Essityの両方のウェブサイトに掲載されているのが、「VIVA LA VULVA(外陰部、万歳!)」です。商品広告、というよりも、企業の姿勢を伝える動画として公開されています。

この動画広告のインパクトは、経済誌のForbes Japanでも取り上げられています。サイトの中の一部分を引用しておきますね。

女性器を連想させる貝殻やフルーツが、冒頭から最後まで何度も登場する動画に困惑する人もいるはずだ。しかし、「あなた(自分の性器)が私のもので本当によかった」と繰り返されるメッセージが、女性消費者の共感を得た。
公式サイト上で、この動画は500万回以上再生された。キャンペーンと同時時期に発売された新商品は、3カ月で市場シェアを33%にまで伸ばした。ここまで売り上げを伴い、動画も支持されたことには、女性の半数は自分の性器に自信がなく、なかには美容整形をする人もいるという背景も関係していることだろう。

約3分の動画の中で、貝や果物、財布の内布、海中生物のように、お菓子、紙を折ったり、編み物で作られた女性の外性器が登場し、「I am so glad that you are mine(あなた(自分の性器)が私のもので本当によかった)」、「We have been long long way together (わたし達はずっと長い間一緒にやってきた)」、「I have to praise you like I should(あなたを賞賛しなければいけない」と、女性が自分の性器を労うような歌詞が重ねられています。登場する女性達は、人種、体型、年齢も様々で、いろいろな方法で自分の性器に向き合う場面が描かれています。

たとえば、女性がベッドで下半身の下着を脱いで鏡を使って自分の外性器を見ていたり、


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高齢の女性が部屋の中で女性器を刺繍をし、刺繍された性器が音楽に合わせて歌うように動きます。


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また、学校の教室のような空間で、男女の学生が、女性の外性器について講義を受けている場面が登場し、そこから壮大な光景につながるようなシークエンスも作り出されています。

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Forbes Japanの記事では、このCMの再生回数や、新製品の売り上げの向上について言及されていますが、消費者に対して与えたインパクトと同様に、このCMの表現の中に、ジュディー・シカゴの「Dinner Party」や、ジョージア・オキーフが描いてきてきた絵画へのオマージュの意味も含まれていることも大事なことなんだろうと思います。CMに対する反応は様々だと思いますが、既存の「禁忌」に囚われて思考停止に陥らずに、女性の身体に関わる商品を作る企業であることを打ち出す姿勢は評価できるものだと思います。
日本で生理用品を製造販売するユニチャームや、王子製紙、花王がこんなCMを作ることはないでしょうね。



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