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「ジェンダー・クィア」日本語版出版に向けて (01)

2023年7月25日から10月23日まで、グラフィックノベル『Gender Queer: A Memoir』(2019)の日本語版出版に向けたクラウドファンディングを実施します。クラウドファンディングの発起人として、この本を出版する意義や著者について、作品としての魅力について紹介していきます。

クラウドファンディングの詳細や、著者マイア・コベイブについてはクラウドファンディングのページをご覧ください。

私がこの本の存在を知ったのは、2021年1月のこと。外国のコミックを紹介するウェブサイトCOMIC STREET(外漫街)で、アメリカ文学・比較メディア文化研究者の中垣 恒太郎さんによる論評「セクシュアル・アイデンティティ探究の物語―マイア・コバベ『ジェンダー・クイアー ある回想録』を中心に」を通して知り早速注文、読んでたちまち自らの生と性を深く洞察するその内容と親しみやすく魅力的な絵柄に惹かれました。

ノンバイナリージェンダーとして生きる著者Maia Kobabe の幼少期からの回想に基づくグラフィックノベル 2019年刊行
読書歴や日本の漫画の愛好ぶりも興味深い。こんなふうに性自認やセクシュアリティ、他者との関わり方を探究していく過程を描いたものに子どもの頃に出会えていたらよかったなぁと思う。日本語版出せたら良いなぁ。

https://www.instagram.com/p/CKl5rJ2DrIu/

日本語版出版の企画をいくつかの出版社への打診を経る中で、SNS上で性的少数者、とくにトランスジェンダーを巡る熾烈な差別・ヘイト的な言葉が飛び交うのを目の当たりにし、ますますこの本が「自分で決めたジェンダーで生きる」人の経験を表現するものとして重要な意味を持つと考えるようになり、サウザンブックスからのご提案をいただいてクラウドファンディングの実施に至っています。

「ジェンダー・クイア」は、刊行翌年の2020年にアメリカ図書館協会の一部門、ヤングアダルト図書館サービス協会アレックス賞(「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に1年に1度送られる賞)やストーンウォール:イスラエル・フィッシュマン・ノンフィクション賞(LGBTQに関する優れた英語圏の著作対象)名誉賞を受賞するなど高く評価されていますが、一部の保守層が人種差別、セクシュアリティ、ジェンダーアイデンティティに関連する書籍を「challenged books(問題視された図書)」として公立学校や図書館からの撤去を求める「禁書運動」を展開したために、いくつかの州の図書館・学校では「禁書」扱いを受けています。

このようなアメリカでの宗教保守層によるLGBTQに対する攻撃の動向は、日本におけるLGBT理解増進法の成立(という名の差別温存・増進施策)と似た様相を呈しているのは明らかですし、今後日本でジェンダー、セクシュアリティに関わる教育の現場でさまざまな抑圧の力が働くことを私は強く懸念しています。
マイア・コベイブさんは、このような「禁書運動」を受けてコメントをする中で、自らの作品がLGBTQコミュニティの中のみならず広く社会に公表することで寄せられた読者からのさまざまな共感を語るとともに、自らの生い立ちを通してジェンダー、セクシュアリティを深く掘り下げる作品を制作した動機として、「自分自身が10代の頃にこんな本を読みたかったから」と語っています。

本の表紙は、水辺で脚を浸して水面を見る著者の姿が描かれ、その水鏡を通して反転した像として、髪の長い幼い子ども時代の姿が描かれています。本書の中では2歳から28歳ごろまでの著者の生い立ちが語られており、その過程で著者が自分自身に向ける視線、また家族や親しい人の目に映る姿がこの絵の中に表されています。幼少期から思春期、青年期へと至る道程を丁寧ねいに描いた作品が、多くの人に、とくに自身のジェンダーのあり方について揺れや戸惑いを感じる子どもや若い人に届けられたら、と願っています。

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