「ジェンダー表現とメディア」を学ぶプログラムを作りたい(講義編)
2022年11月に高校でオンライン講座とワークショップ「ジェンダー表現とメディア」を開催する機会をいただきました。この講座では、まず学校での講座企画担当の先生を聞き役に、一時間程度のレクチャーを行い、受講する生徒の皆さんには収録したレクチャーを事前に視聴してもらった上で、「ジェンダーという観点から「モヤっとする広告」を撮影し、コメントを書いてもらいまいました。
ワークショップでは、送られてきた写真とコメントをもとに私が写真を追加してスライドを組んで、それらを紹介しながらディスカッションのテーマを提示しました。
「ジェンダー表現とメディア」の講座を、さまざまな教育機関や企業、団体などで企画できないか、ジェンダー表現とメディアリテラシーを学ぶプログラムを作れないかと考えています。そのために、この講座のコンセプト、メソッドとプロセスをまとめておきます。
この講座はまずジェンダー表現と、男女の性別 gender binary (性別二元論)に根ざして表現するものであり、「表現」を個人の感情や情動の「expression 表情 表現」と広告や図像のような「representation 表象」の両方を含むものと捉え、レクチャーの中では主に「表象」のさまざまなありようと、それらを通した情報伝達のあり方、社会的な背景に注目します。
社会は性別二元論を前提に設計されている
まず前提となるのは、「社会は性別二元論を前提に設計されている」ということです。昨今はLGBTQ+の権利を求める運動を通して、「多様性を称揚し、目指す」動向が顕著になっていますが、基本的には、ジェンダーとはすなわち男女の二つの区分であり、消費社会・学校・職場・公共空間の中で性別二元論が「規則」として徹底的に教え込まれるのが現状と言えます。その中で、最近になってメディアを通して膾炙するようになったノンバイナリー ・ジェンダー (non-binary gender)とは、トランスジェンダーというジェンダーのあり方も包含しつつ、性別二元論に囚われないジェンダーのあり方・捉え方、「そもそも多様な人を二つのジェンダーに割り振るのは無理があるのでは?という認識のあり方」に由来するものと言えるでしょう。
とはいえ、社会は性別二元論を前提に設計されているということはまぎれもない事実です。そのことを考えるために、「性別二元論」の規則を表す記号表現としてトイレのピクトグラムを取り上げて、色彩・記号・言語・描写方法について考えます。
トイレのピクトグラムの事例
青と赤の色分け
ユニバーサル・デザインの普及で定着したトイレのピクトグラム
オールジェンダー・トイレのピクトグラム表現
言語だけの表記 トイレかどうかも分からない?
尿意・便意を表すピクトグラム
顔、髪型、服装の描写するインドのトイレ標識
これらの事例を通して確認しておきたいのは、「ジェンダーの表現の仕方は一つではないし、ジェンダーにまつわる価値観は地域によって異なったり、時代によって変化する」ということです。
また、このような観点から、「ジェンダーは見た目で判別できるものなのか?」という問いを持つことも大事です。その例として、アメリカの写真家・現代美術家 ナンシー・バーソン(1948-)《The He/She’s》(1997-1998)《He With She and She With He》(1996)という、配分/グラデーションとして表されるジェンダーとその認識のあり方があります。
消費社会とジェンダー表現
近年SNSのプロフィールなどでアカウント主の自己紹介の中に、she/her、he/him、they/them「希望する人称代名詞 Gender Pronouns 」をよく目にします。「They」が、三人称複数形の「男や女など特定の性別では括れないノンバイナリージェンダー(トランスジェンダーやXジェンダーなど)の人たちを指す単数形代名詞を指す」として辞書にも記載され(ウェブスター英語辞典 2019年)、2010年代末から運転免許証、パスポートなど公的書類、アンケートフォームの選択肢など男性でも女性でもない身分表示の受け入れ広がっています。
このように、二元論のフレームの中に収まらないジェンダーのあり方を自認し、社会の中で承認する言葉が普及している一方で、広告のような消費社会の中で作られるジェンダー表現は、容姿・仕草・服装・色のように身体に関わる特徴を「男らしさ/女らしさ」のコントラストとして表現し、社会の中でのジェンダー役割を違いとして描写するものが多く見られます。
メディアは ジェンダーの価値観を男女を巡る固定観念として 教え込む。 方向づける。規定する。役割を担っています。事例はさまざまにありますが、事例として以下のものを挙げました。
アサヒスーパードライ「ビールがうまい。この瞬間がたまらない。」
エステティックTBC/Men’s TBC 脱毛広告コントラストを強調したジェンダー表現
選挙・政治家ポスターの背景の色分け
「The Pink & Blue Project」
ジェンダーと消費社会のあり方を考える上で重要な作品として、韓国の写真家、ユン・ジョンミ(1969-)が2005年からアメリカと韓国で、子ども達を、自室の中で衣服やおもちゃなどの持ち物と一緒に撮影したシリーズ「The Pink & Blue Project」を紹介しました。作品を通して浮かび上がってくるのは、次のようなことです。
色の好みは社会の中で教え込まれるのでは?
子ども向け商品のマーケティングとカラーリング
(アニメ、ゲーム、既製服)
成長とともに持ち物が変わると色も多様化する。
商品開発の「ジェンダーニュートラル化」
また、近年の「商品開発のジェンダーニュートラル化」の流れとして次のようなものが挙げられます。
マテル社が、発売した『Creatable World』(2019年)
スキントーン、髪質、ファッションのバリエーション
オーストラリアのK Mart が同性カップルのファミリー人形セット発売 (2019年)
日本で起きている変化 制服やスクール水着のジェンダーレス化
仕草とジェンダー
ジェンダーロール(性差による社会的役割) 広告の中で表現で、ジェンダーを表す身体表彰の中でジェンダーを表す重要な要素が仕草です。男性らしい仕草 女性らしい仕草の事例として次のようなものを挙げました。いずれも、女性は頬杖つく、しなをを作る、男性は腕組みをしたり、肩幅を広く見せるポーズが典型的です。
男性らしい仕草 女性らしい仕草
イネス・ヴァン・ラムスウィールド(1963-) 《The Forest》(1995)
アーヴィング・ゴッフマン(1922-1988), ”Gender Advertisements(性差の広告)” (1979)
厚生労働省の広報誌「厚生労働」表紙
このような仕草や表情、振る舞いによって表されるジェンダーの価値観が、広告の中でどのように演出され、言葉によって文脈を作られ、操作されているのか、ということをフリー素材の写真によって女性の図像がアイキャッチとして使われている状況、また映画のポスターのデザインの比較を通して検証します。
女性の写真はアイキャッチとして使われる
素材写真 ジャンプする女子高校生
映画のポスター比較「未来を花束にして」
(原題:SUFFRAGETTE サフラジェット(婦人参政権論者))
「男らしさ」、「女らしさ」を見直そう!
講座の締め括りとして、近年刊行されたジェンダーに関わる著作の中でも、トランスジェンダー、ジェンダーノンコーフォミング、ノンバイナリー の著者によるを紹介します。
お勧めの本
『女の子だから、男の子だからをなくす本』ユン・ウンジュ著/イ・へジョン絵 ソ・ハンソル監修/すんみ訳 (エトセトラブックス、2021年)
『イラストで学ぶジェンダーのはなし みんなと自分を理解するためのガイドブック』 アイリス・ゴットリーブ 文・イラスト 野中モモ 訳 (フィルムアート社 2021年)
マイア・コバべ(Maia Kobabe, 1991-)アメリカの漫画家。クィア、ノンバリー・ジェンダー、そして無性愛者。『Gender Queer』は自らのジェンダー認識のあり方を生い立ちから辿る自叙伝
アロック・ヴァイド・メノン(Alok Vaid Menon 1991-) アメリカの作家、パフォーマンスアーティスト、メディアパーソナリティ、トランスフェミニン Beyond the Gender Binary, (Penguin Random House, 2020) とくに、アロック=ヴァイド・メノンの著作、「Beyond the Gender Binary」の序文は、この講座の骨子を表す上で大切な言葉でもあります。
メディアにおけるジェンダー表象のあり方を観察し、分析すること、またその歴史を学ぶことは、私たちのジェンダーに対する見方がどのように構築されてきたのか、その表象にはどのような価値観が反映されているのかを理解することに繋がります。私は、このようなジェンダー表象の仕組みに対する理解を深め、多様な人との間で相互にコミュニケーションを行うことが大事だと考えています。
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