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古いものとの握手のしかた---國盛麻衣佳・Olectronica展

京都新聞 2023年 3月11日掲載

「記憶への手つき」と題して、2会場で國盛麻衣佳、Olectronica(オレクトロニカ)の作品を展示。英題は「Handshake with Memory」。 “手つき”が“握手”と訳されている。
 國盛は福岡県大牟田市の生まれで
、故郷の炭鉱の歴史をテーマにする。元炭鉱労働者には、当時の暮らしを語りたがらない人も多いそうだ。しかし國盛は、そんな炭鉱地にも芸術文化活動があったことを調べあげ、著作『炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷』にまとめた。展示作品は、炭鉱地の暮らしや労働者の肖像を、石炭からつくった画材で描いている。古びた板の支持体は、かつての炭鉱住宅の部材、負の遺産として葬られようとしている記憶の証言者だ。國盛はその上にアートを用いて新しい記憶の層を重ね、過去と地域の未来の両方と、手を取り合おうとする。  

 Olectronicaは、大分県を拠点にする、加藤亮と児玉順平によるユニット。こちらは古材、小さな木彫、レトロなオブジェや建具によるインスタレーションだ。古いガラクタや建物は、昨今おしゃれだともてはやされている。時代の匂いをつけた背景に、マグリットの絵のように彫刻を吊る仕掛けは、トレンドの古物とアートのエッセンスの握手だ。
 いわくを帯びた古いもの、経年変化のテクスチャーは、見る人の内に記憶やノスタルジーを喚び起こす。さらに、無意識にその対象に値打ちや意味を投影させる。作家が古いものを扱う手つきに何が込められているのか。読み解くためには“古物リテラシー”が求められる。この二つの展示のように、同じように古いものを素材にしていても、次元がまるで違うことがあるからだ。(京都芸術センター=室町通蛸薬師下ル 26日まで、3月1日休)

生活骨董&生活工芸、古美術坂田、工芸青花、「おしゃれこっとう」が教養と良い趣味のフレーバーに欠かせないものになって、次にはアートの顔をし始めた。
アートの畑におられる方には、面白いほど古いものに親しまれていないので、杉本博司さんのような「古美術商ナラティブ」を駆使できる人が、アートの畑で面白いほど好き放題できることになっている。この状況は見ていて大変に面白い。
Olectronicaのこういう展示は、雰囲気のコラージュとしては面白いが、観る側が参照や引用の元、雰囲気作りの狙いを読み取る「古いものリテラシー」は持ってないと、なにか深い意味でもあるのかと無駄な時間を過ごしてしまう。いや「古いものって味わいがあるわあ」と、ちょっとうっとりほっこりできるなら、それは無駄でもないか。

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