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息子の特性、現る


【回想録】



「ずっと、本当は嫌だったの。もう、その気持ちがパンクしちゃったの」


と、当時4歳の息子は、そう言った。


私は、その時初めて、息子がずっと我慢していたことを知った。

現在小学2年生の息子は、入学して2ヶ月で学校に行かなくなった。
今は、フリースクールに週3回〜4回ほど通っている。


息子の特性が強く現れたのは、幼稚園の年中の時だ。
GW明けに、いきなり登園渋りが始まったのだ。

息子は、1歳5ヶ月の頃からイヤイヤが始まり、結構大変なタイプだった。
それでも、小さい頃は、癇癪も、こだわりが強いのも、すぐに攻撃的になってしまうのも、母親と別れられないのも、そのお年頃によくあることだと思っていた。

そんな息子も幼稚園に入園し、覚悟はしていたが、拍子抜けするくらい順調で、初めてのバス通園も、初めての教室も、初めての行事ごとも、全て楽しそうで、一度も渋ることなく年少時代を過ごした。

年中に進級し、最初は緊張しながらも相変わらず順調で、GWの長期休暇に突入した。

そして、GWが明ける頃、


「幼稚園に行きたくない」


と、突然言い出したのである。


え・・・。


ずっと楽しそうに園生活を過ごしていたし、登園渋りなんて、一度もなかったので、かなり動揺した。


まぁ、行けば楽しくなるだろうと、大泣きして嫌がる息子を自転車に乗せ、幼稚園に向かった。


でも、その日を境に、毎日行きたくないと泣くようになった。


「登園渋り」が自分の子供に起こるなんて思ってもいなかった私は、どう対応していいのかわからなかった。
私は、毎日泣いて嫌がる息子にだんだんイライラしてきた。

あんなに楽しそうにしていたのに
先生も優しいし、友達もいるのに
なんで、こんなに泣くの
なんで、嫌がるの
なんで、行ってくれないの
うるさいうるさいうるさい

眉間に皺をよせ、ため息、強い口調で、息子を責めた。

「大丈夫だから!」


大丈夫。

この便利で曖昧な言葉は、息子には何の助けにもならなかった。
今だから、わかる。

息子は、園に着いても教室に入らなくなってしまった。
顔は引き攣り、「帰りたい」と、ばかり。

もう、どうしていいかわからず、園長先生のいる事務室へ駆け込んだ。


息子は、園長先生の机のそばにあるおもちゃで遊び出した。
もう、やりたい放題で遊んでいる。

その日から、事務所に居られるならと、なんとか連れ出すことができた。


園長先生はいつも笑顔で迎えてくれた。

園長先生は、私に、教えてくれた。

「きっと、お母さんのイメージする子供像のその枠を彼は大きくはみ出ていて、そのはみ出たところに実は素晴らしいものを持っていると思いますよ。今、彼は、ありのままの自分を出し始めているんです。それは、これから社会に出て行くうえでとても大切なこと。だから、今、彼なりにそれを出して、ものすごく頑張っているんです。やりたい放題に見えるかもしれませんが、園での姿は、本来はお母さんには見えない部分。辛いと思いますが、見守りましょう。成長してるんです。」


この言葉は、書き留めて、今も大切にしている。

息子の特性が、この時開花したんだと今は思えるけど、
当時の私は、園長先生の言葉も本当の意味で理解できなくて、
目の前の、やりたい放題の息子を見るのが辛くて、受け止められなかった。


私には、こうあってほしいという強い「子供像」があった。
「ほしい」というより、「べき」と思っていたのかもしれない。


友達と仲良く外を駆け回って遊んでほしい(べき)
ニコニコ笑って思いっきり幼稚園生活を楽しんでほしい(べき)

私はベキベキ人間だ。

この思考が私を苦しめた。


みんなのあたり前が、息子のあたり前ではないことが、どうしても、どうしても受け止められなかった。

今は思う。

当たり前って、何なんだ、と。

しばらく事務所で遊んだら、帰宅する日々。
私の中に、「付き添い登園」という概念(っていうと大袈裟かな)がなかったので、とにかくしんどかった。


事務所で遊ぶ息子をずっと見ていると、


遠くの教室から、明るいピアノの音に合わせて、朝の歌を元気に歌う子供たちの声が聴こえてきた。
聴くのが辛かった。
本当なら、息子も、あの中にいるはずなのに。
なんでなんで。
気づかれないように、涙を拭いた。


園長先生がある日、私に提案した。


「お母さんも、次は、お弁当持ってきて、一緒に過ごしてみるのはいかがですか」


と。


え・・・。
私も、ずっと、幼稚園にいるってこと?
帰る時まで?

正直、困惑した。

全くその考えがなかったから。


でも、私が居ることで息子が幼稚園で過ごすことができるなら、
そうするしかないのかな・・・と、モヤモヤしながら帰宅した。


次の日、息子と自分のお弁当を用意して登園した。


「新緑の季節。のんびり過ごしてください」


と、笑顔で園長先生は言ってくれたが、
私は、「はい」とだけこたえるので精一杯だった。

その日から、私の付き添い登園が始まった。


きっと、1週間くらい一緒に過ごせば、大丈夫になるだろう。
たった1週間だ。
頑張ろう。

と、自分を奮い立たせた。


まさか、その時は、卒園まで約2年に渡って葛藤し続けることになるとは思いもしなかった。

息子の特性、現る。

息子の特性、開花。

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