ついにサンフランシスコに舞い降りた

飛行機の上から見るサンフランシスコはもこもこのぶあつい雲に覆われていた。別居から9か月がたっていた。ついに来ちゃったんだな。なんとなく現実ではないような不思議な気分だった。

サンフランシスコには2回ほど旅行できたことがあった。でも夏に来るのは初めてだった。夏の間じゅう太平洋からモコモコと発生する霧でどんよりして涼しい所だということを初めて知った。サンフランシスコの夏は寒いのだ。

空港からサンフランシスコの中心街にあるユニオンスクエアへ向かった。その晩に泊まる宿があるところだった。8月の夜とは思えない涼しさ。しかも夜7時でまだ明るかった。そうだ、夏時間という制度があって夏の間は日が暮れるのが遅いのだ。

ユニオンスクエアをぶらぶら散歩していると、もと夫との思い出がよみがえってきた。奴と一緒にここに来たな。最後に来たのは2年前の冬だった。サンフランシスコから車で4時間くらいのところにあるレイクタホというスキーリゾートに行く途中でここに泊まったのだ。でも不思議と悲しい気持ちにはならなかった。むしろ一人で来ちゃった自分がすごいと思った。あの時は英語がまともに喋れず奴に頼りきりだった。わたし、着実に離婚の傷から回復してるみたいだ。

翌朝、サンフランシスコの対岸にあるオークランドという町までタクシーで移動した。ベイブリッジという長い橋を渡り、どんどん山のほうへ向かっていく。神戸みたいに海からいきなり山がある地形なのだ。

留学先の語学学校は、ホーリーネームスカレッジという私立の大学のキャンパスの中にあった。こじんまりとしたキャンパスでオークランドの丘の中腹にいくつかの建物が点在していた。緑が多くて公園みたいなところだった。

語学学校の生徒は学生寮や食堂や図書館など大学の施設を使う。受付に行って入学の手続きを済ませるとポチャッとした白人の女性が学生寮に案内してくれた。

部屋は2人部屋。広々とした部屋のはじとはじにベッドがあって真ん中に机、そして大きなクローゼットがあった。窓からキャンパスを見下ろすことができた。トイレとシャワーは共同。シャワーはついたての間にシャワーヘッドがあってビニールのカーテンがぶら下がっている殺風景なやつ。シャワーの反対側には洗面台が並んでいた。アメリカ映画によく出てくる学校のシャワールームそのままだった。映画みたいだ!

案内の人は学校のスケジュールなどをテキパキと説明して、それじゃあね、と明るく笑って出ていった。アメリカ人はとにかく愛想がいい人が多い。

スーツケースとともにぽつんと部屋に取り残された。わたし、アメリカの学生寮にいるんだ。これからここが住処になるんだ。いろんな気持ちがいっきに押し寄せてきた。すごく遠くの知らない異国に来ちゃった気分だった。アメリカには何度も来ているのに。

でもさみしさは全くなかった。



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