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悪夢

その日もいつもと同じだった。学校へ行って、授業を受けて、友達と部活に行って、帰宅して、晩御飯や入浴を済ませて、趣味の時間を楽しんで、明日のために眠りにつく。特段変わったことも無く、直ぐに忘れるだろうそんな一日。

けれど、その日は最悪な日へと様変わりした。

私は元々夢を見やすく、正夢なんかも見るたちだった。そう、その日も夢を見た。そこは知らない広々とした御屋敷?で、畳が妙にリアルだった。外に出ようとしても出られず、私はその屋敷を探索することにした。御屋敷は二階建てで、日本庭園があり、部屋数も多く、高そうな掛け軸や壺、絵が描かれた大きな皿などが置いてあり、とにかく凄かった。
建物の中は一応全部触れるみたいで、それがまたリアルで、まるで現実の世界にいるかのようだった。それに、和風の家って落ち着くような印象があったけれど、その屋敷は真反対で、なんだか居心地が悪いというか、あまり長居したくないような、しちゃいけないような感じがずっとしていた。さらに、部屋の中はまるで曇りの時のように薄暗いのに、外は日が出ててとても明るいのが、どこか気味悪く感じた。

けれど、そう簡単に夢から目が覚めるはずもなく、邸内を探索していると、長い廊下の先に人がいた。遠すぎてよく分からなかったけど、誰だろうと寄っていくと、ソレは確かに人だったが全身真っ黒で、私はただ、「あれはダメだ。触られたら戻れない」と漠然と思った。
私はその場から逃げ出した。しかし、ソレも私に気づいたのか追ってきた。私はどこへともなく逃げた。ただただ逃げた。けれどソレは追ってくる。「ヴォオォ.…」と意味の分からない声を出しながら。私が逃げた先に待ち受けていたのはソレと同じものだった。逃げても逃げても追いかけてくる上に、それは段々と数を増していった。そしてついに1階はソレらで埋め尽くされ、私は階段の先へと逃げ込んだ。階段には小さい子が勝手に上がらないようにするための防止柵があり、私はそれを閉めて鍵をかけた。ソレらにはそこまで知能はないようで、ただ私の方に手を伸ばし、捕まえようとするだけだった。柵が壊れるのも時間の問題だったため、私は2階の一室に入りこんだ。そこには3つの布団が敷いてあり、窓際には私が実際に持っているピンク色のクマの人形が置いてあった。私はそれを手に取ると壁に座り込んで抱きしめ、ただ「覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテ」と頭の中で考え続けた。
すると、意識が闇に沈み、私は目を覚ました。怖かった。本当に怖くて、目が覚めないかもしれなかったと思うと本当に怖くて仕方がなかった。
けれど、私はこの時まで夢は1回だけしか見ることはないと思っていた。

次の日、私は夢見が悪かったことから最悪の気分で学校に行ったが、帰る頃には機嫌も戻っており、もう見ることはないよねと、眠りについた。

目を開けた私が立っていたのは昨日の夢とおなじ御屋敷の中だった。また、あの恐怖を味合わなければならないのかと恐怖を感じざるを得なかった。それに、一回目と違い、今回はソレらが出てくるのが異常に早く、増えるのも早かった。私は必死に逃げた。もう今どこにいるのか、どこを走っているのかすら分からない。ただ、アレに捕まってしまえば、もう戻れないということだけが頭の中を駆け巡り、逃げることだけが頭の中を支配していた。

その時だった。「こっち!」という言葉が聞こえ、そっちを向くと、自分と同じぐらいの女の子がいた。アレらみたいに黒くなく、ちゃんとした人で、私は不思議と懐かしさを感じ、その子は大丈夫だという確信があった。女の子の後をついて走って行くと、昨日の夢で私が上がった階段があった。女の子は私を階段に押し込むと防止柵を締め、どこから出したか分からない日本刀で、ソレらを切り捨てていった。
何がどうなっているのか分からずに階段で立ち尽くしていると、女の子が「早く2階の寝る部屋に行って!そこで目を覚まして!早く!!」と叫んだ。私は急いで昨日の夢と同じように、布団が並んだ部屋に行き、ピンク色のクマの人形を抱き抱え、座り込んで、ただ「覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてさめてサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテサメテ」と頭の中で考え続けた。
昨日と同じ、闇に沈んで行く感覚を覚えながら目を開けると、そこは自分が寝ている部屋で、窓からは朝日が差し込んでいた。

それ以来、私はその夢を見ることはなかった。
今でもあの悪夢を思い出して考える。
もし、3回目を見ていたらどうなっていたのだろうか、と。


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