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Hodie cantandus est nobis puer -


今年は東京で年越しを迎えるつもりでしたが、急遽予定を変えざるを得なくなり、数日前より名古屋の実家に戻っています。せっかく初詣に帝釈天に行こうと思っていたのですが・・・涙。

今年12月25日のさや堂でのクリスマスコンサート無事に終わりました。お寒い中、遠方よりお越しくださいました皆様、誠にありがとうございました。

今回は以前からの夢だったアキテーヌのオルガヌムをとりあげました。私自身アキテーヌのオルガヌム、というか11~12世紀の南仏オクシタン地方の音楽にかねてから魅了されていました。なぜかというとこの頃は世俗曲であるトロバドルの宮廷詩歌、そしてリモージュの聖マルシャル修道院の典礼音楽という、聖俗両方に渡る音楽史上まれに見る中世歌曲の宝石の様な作品が生まれた奇跡のような時期だったのです。思うだけでも胸が高鳴ります。

アキテーヌの多声歌曲は海外でも歌われることがほとんどなく、資料もあまりない。

そんな中で曲を選んで音にするというのは大変な事でした。点々の暗号の様な楽譜から当時の人たちのメッセージを読み取る中、音を組み立てていくと、意外と新鮮な響きで、古臭さを全然感じず、トロバドル歌曲に見られるような抒情性、歌謡性に溢れていて、とても感傷的で、その後のアルス・アンティカ、アルス・ノーヴァの音楽よりも、とても人間臭さを感じたのです。世の中にこんな愛しい尊い音楽があったのが驚きです!

中世の音楽は一般的には、旋律を何かの楽器に合わせて歌う世俗曲の方が日本ではもてはやされています。メロディーも美しく、民族音楽の様な素朴で親しみ深さを持っている点があるからだと思います。しかしアキテーヌのオルガヌム、後にはパリのノートルダム楽派のオルガヌムもそうですが、典礼音楽の方は、声楽を専門に勉強している者にとっても、かなりの高度な歌唱技術が要求されます。今回の作品の多くもとても難しかった ― 音域の幅も広く、音程も難しく、また呼吸や発声のコントロールもかなり大変でした。ものすごく粗削りな歌に聞こえますが、音の取り方や歌いまわし方はかなり繊細でなんですよね。

 また、歌詞もとても神学的で難しく、今回も井上直子さんのご丁寧なお仕事で作成してくださった対訳は私たちが出すラテン語の音と、それを聴いてくださる日本の聴衆の皆さんの心との間の架け橋となりました。ありがとうございます。解説は昨年に引き続き秋岡陽先生がご執筆くださいました。この時代の音楽の背景にあるキリスト教の伝統や事実、精神を文字にしてとても分かりやすくご説明くださいました。お二人の文字の力は私たちの声の上にさらに大きなメッセージとなって聴いてくださる方の心と知性に直接働きかけてくださったと思います。改めて、ありがとうございました。

 今回はこれまでの私の中世音楽講座を受講してくださり、特にモーダル歌唱法に深く興味を持ってくださる数人の方たちにスコラのパートをお願いいたしました。練習は春先から始め、きっと皆さんわけのわからない楽譜を渡されて大変だったことでしょう。 くじけず、良くついてきてくださったと思います。ご苦労様でした。ありがとうございました。

 この演奏会をするならば、絶対にヨーロッパの大聖堂の様な残響を持つさや堂でやりたいと願い、半年前に予約申し込み。見事抽選にあたり私たちのモチベーションはさらに高くなっていったのでした。演奏会数日前のさや堂でのリハーサルで、何のために私たちはこの歌をモーダル唱法で歌わなくてはいけないかをそれぞれ自身の中で感覚的に諭されたと思います。声を張り上げるのではなく空間の中に声を吹き込んでいく。75分のプログラムを休憩なし、ノンストップで2回公演、午前中のドレスリハーサルを入れると、結局1日に3回も歌ったわけですが、残響の大きなところって、疲れるどころか、もっと歌いたくさせられちゃうんですよね。さや堂、立地は良いとはいえないかもしれないけど、あのような素晴らしい残響で歌う事で、中世音楽の本来の自然な響きを伝えることができる素晴らしい会場です。

さて、来年1月7日に神戸聖愛教会で同じプログラムを関西在住の古楽歌手のおふたりによるスコラのご協力を得て歌います。関西の皆さん楽しみになさっていてください。

次回の公演は

2023年1月7日

日本基督教団 神戸聖愛教会

15時開演

夏山美加恵・安邨尚美・稲田知子・月岡聖芳

入場料4000円 学生2500円 高校生以下1000円

grego.kansai2013@gmail.com

080-8746-8104

https://tiget.net/events/205532

最後に岡田純先生がたくさんの瞬間を画像で残してくださいました。みんなの生き生きとした表情が美しいです。

ありがとうございました。

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