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【短編小説】秋のさんぽみち

仕事を辞めてから1ヶ月くらいたっただろうか。
毎日が暇だと、時間の流れもどうでも良くなってきた。
1ヶ月も半年も1年も大して変わらない。
東の空に太陽が昇って西の山に沈んでゆけば夜の闇に包まれる。

仕事や家事に追われて忙しく働いていた時は、1日が早く終了し時間が足りなかった。
体力が回復していないのに次の朝がくる。
週末になれば次の週をこなすために心と体力の回復のために全力で休む。
みよ子は、その繰り返しにもう限界だった。

あんなにバタバタとした日常を世の中の働く人達は長い年月を上手にこなしているが、それが普通で当たり前のことなのだろうか。自分が弱いのだろうか。

みよ子は更年期ということもあってか、全く気力が湧いてこない情けない感情を正当化する理由を幾つも考えながら、散歩をするのだ。

いくら正当化する理由を見つけたって、やっぱり働き続けている人達の方が素晴らしい、そう思うと自分は生きている価値がないとか、生きているだけで何も生み出せない、世の中に貢献できないなどとネガティブな感情だって湧いてくる。

散歩道。みよ子は少し冷たい秋の風に吹かれてキラキラ光るススキが美しい、紅や黄色に色づいてきた葉を見てかわいいと思う。虫の鳴き声のする広い草原の中を吸い込まれるように歩く。どんぐりの実と帽子を拾う。どんぐりから手足が生えてきて歩き出すんじゃないかって思うと可笑しくなる。穏やかな散歩の時間。

たっぷり与えられた時間を心から楽しめるようになる日はくるのだろうか。

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