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保護犬のロン君

7月3日の夕方、都内のホールで仕事をしていたとき、友人の杉本彩さんからSOSのメールが入りました。

トリマーのボランティアさんたちが保健所を訪問して面倒を見ていた8才のオスのラブラドールの殺処分が、もう、時間の問題で執行されてしまうのだと。

 

私は、本番までまだ一時間ほどありましたので、何とかその犬の里親になってくれる人を探そうと友人、知人にメールを送信し電話をかけ続けました。

 この写真は、そのとき彩ちゃんから送られてきた一枚です。

痩せてあばら骨が浮き上がり、目は何かを問うているように見えました。

 

この犬は、飼い主が保健所に持ち込んだ犬です。室内で飼育されていたらしく人にも犬にもフレンドリーで何の問題行動もないといいます。

この子は、ある日突然に殺処分という「死」ヘのカウントダウンが始まったのです。

「どうしてですか。何故ですか。ボクの命は、こんなものなのですか。あのとき、優しくしてくれた飼い主がどうしてボクを捨てたのですか。ボクは、何故、殺されちゃうのですか」

この子に問われて、私たち人間は何と答えられますか。

一曰に、約700頭もの犬の殺処分が行われているニッポン。

じつに恥ずかしく、愚かなことだと思います。

 

いま、世の中では毎日毎日、耳を疑うような、目を覆いたくなるような出来ごとが山と起こっています。

世界に目をやれば、国と国とが宗教や民族、或いは核やミサイル、油田の資源だ、否、次は水だと戦うことを止めません。

大人も子供も、男も女も沢山の血を流し、飢えて命を落としています。

そのような中、たかが犬ごとき、と仰る人がいらっしゃるかも知れませんね。

 しかし、この小さな命を私たち人間がどのように受け止め生きるか。

それが、世の中の様々な問題改善の第一歩。スケールの基本なのではないかと思います。

犬が好きだから、猫が可愛いから、ただそれだけのことではありません。

〈命の基本〉の話です。

 

さて、その日。もう間もなく本番!というとき、「私がその犬の面倒を見ます」と信じられないメールの返信がありました。

大型犬だということ、8才という年令……。今回の里親探しはかなり困難だと覚悟しながら、それでも何とかこの子の命を救いたいと祈りながら、次々届く様々な質問メールや電話の対応をしていたときでした。

この子に残された時間がわずかであることを知って意を決してくれたメールの主は元木佳代子さんでした。

彼女は、元プロゴルファー。現在、栃木県さくら市のベルセルバカントリークラブの支配人として活躍している、私の大事な友人です。

ベルセルバカントリークラブ、会社としてこの犬の面倒を見て下さる。この犬の命を救いたい。栃木の自然の中で、もう一度この子を幸せに過ごさせてあげたい。

彼女の気持ちは十分に伝わってきました。彼女の優しさ、行動力が有り難くて、又、彼女のような友人を持てたことが嬉しくて言葉になりませんでした。

コツコツと地道に保健所へ通い続けたトリマーの猪野わかなさん、メディカルチェックなど、忙しい時問を割いてスピーディーに行ってくれた杉本彩さん。

里親になって下さった元木佳代子さん。

何人もの人の思いが、一頭の犬の命をつなぎました。

酷いことをするのも人間ならば、命を救うのもまた人間のすることなのです。

 

 

7月11日、この子を無事に元木さんの元へ届けました。

「ロン君」と新しい名前をつけてもらい、元気に暮らしています。

 

MFC154号より 2016年8月著 神野美伽

追記 その後ロン君は幸せの中、この地で犬生を終えました。 

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