女性芸人の変化

女性芸人の世界ってすごく変化してきていると思う。わりとこういう変化って当たり前に受け止めがちだし、前からそうだった気もしてしまうから、この変化を記録しておきたいと思った。

というのも、私がある対談企画でお笑い界について語っているのだが、その収録は去年の秋にしていたもので、まだ世に出ていないその対談の原稿をチェックしていたところ、去年の秋には、こんな状態だったのに、今はまったく違う世界が展開されているなと思ったからである。

去年より前に女性芸人に話を聞く機会はあった。またテレビなどでの発言などもチェックしていたが、そのころの彼女たちには、まだ芸人社会のことを批判することはおろか、こういう構造があるのではないかと冷静に指摘することすら憚られていたと思う。

例えば、Aマッソが『ゴッドタン』で女芸人特有の悩みを吐露していたが、そのときのことばかりが独り歩きしていくことがつらそうだったと思った。また、外見いじりについての見解をにゃんこスターのアンゴラ村長が、「変えられないものを蔑むのは古い」と言ったことも、次に出たお笑い番組では、女同士のバトルのスタートの合図のように使われてしまっていた(と私は記憶している)。

相席スタートの山崎ケイの「ちょうどいいブスのススメ」という本がドラマ化するときは、反対の意見が多数あり、タイトルが変更したこともあった。このとき、芸人仲間(特に男性の)は、そんな世間の反応を過剰で悪質なものとして問題視していた。

そういう空気があると、女性芸人は、芸人の世界はそういうものだから、それに従うしかないと思うしかないだろう。また、芸人の世界でいじられることは、愛情あってこその話だし、ブスいじりをやめろということは女性芸人にとって、死活問題だというような意見もあったと思う(いじりに関しては、非常に難しいが線引きはある気もしている)。

私のように、たまにお笑いについて書いたり聞いたりするライターとしても、彼女たちを窮地に追い込みたいわけではないから、彼女たちをフェミニズムの話題の中にひっぱりこむことは、すごく余計なことをしている気がして、罪悪感すら持ってしまうときもあった。

しかし、2020年の今はどうだろう。「コンプライアンスがうるさいから」というちょっと嫌な感じの言い訳をする人もいるが、安易に容姿でいじることはかなり少なくなったと思う。これには、いくつかの理由が絡み合っているように思う。

例えば、渡辺直美は、もうけっこう前から、自分の体形をポジティブにとらえ、明確な言葉のメッセージというよりも、インスタグラムなどのビジュアルやその活動からメッセージを発し続けてきた。その結果、それが彼女のプレゼンスを高めることとなった。また彼女を「いじる」ことは、もはやめちゃめちゃダサいことになり、誰もそんないじりをすることはなくなった。

一番大きかったのは、やはりバービーの登場だろう。個人的には、彼女がフェミニズムに興味を持っているという話は数年前から聞いたことがあったが、実際に火が付いたのは、テレビで彼女の家の本棚が映ったときに、牧野 雅子の「刑事司法とジェンダー」という本が置いてあることがわかり、それを武田砂鉄が見つけてツイートし、自身のラジオ番組にゲストとして呼んだという流れがあった。そんな経緯で、彼女の考えが知られることになった。その後は、エッセイで次々と発言していることは周知の通りである。

実はこの文章を書こうと思ったのは、『第7キングダム』という番組を観たことがきっかけであった。お笑い第七世代の3時のヒロインが、番組の中で「恋愛で女子を傷つけるバッドガイに振り回される女子たちの悲しみや怒りを発散させる」「さよならバッドガイ」というコーナーを担当していたのだ。

この企画のオープニングにはビリー・アイリッシュの「バッドガイ」が流れ、3時のヒロインの三人がカラフルでおしゃれな衣装を身に着け、ダンスしていた。そんな姿もかっこいい。

登場する女性たちも、バッドガイに振り回されたエピソードを率直に語り、3時のヒロインの主にかなでが怒りながらダンスを踊る。なにかそれだけなのに、妙に心強い感覚になってしまった。

このコーナーにはオリジナルソングがあり、そのMVがネットで公開されている。振付はバブリーダンスのakane先生だそうだ。それを観ると3人がキレッキレで楽しそうで、そして開放されている感覚が伝わってきて、素直にみていて気分がよかった。正直、半年前には、女性芸人たちが、こんな風にいきいきと活動している姿は、私は想像できていなかった。

3時のヒロインも、番組によっては、無理やり恋愛エピソードを披露させられて、「女芸人として消費されている」ようなところを見かけることもあるが、もはや、少し前にあった、太っている人がいじられ、そうでない人との差異を際立たせ、マウントしあっているところを「おもしろいでしょ」を見せるというような演出を、もしテレビ番組側がしたとしても、まったくハマらなくて白けてしまいそうな空気になっている気がする。本人たちも、そんなことを押し出す気はさらさらなさそうに見える(彼女たちのネタが彼氏をとったとられたからスタートするものであるが、それはきっかけに過ぎず、その後はまったく関係ない世界に意向する面白さだと解釈している)。

こんな風に、自然に価値観を変えていけることは、世代によるところも大きいのではないかと感じる。

というのも、こうしたジェンダーの話以外でも、第七世代は上の世代よりも確実に、パワハラ的なコミュニケーションには、はっきりNOをつきつけてきたし、若いというジェネレーションギャップを多いに良い方向に利用して、やんわりと「その価値観はもう古いですよ」とつきつけてきた。先輩芸人も、ジェネレーションギャップがあるだけに、怒ったりせずに、素直にそうかなとわが身を振り返ったりもしている。

少し前には、女性芸人の「ものを言えない感じ」は鉄壁のような気がして、これを覆すのには、何年もかかるのではないかと思われていたが、意外と半年足らずで世界はがらっと変わってしまった。これも、この世代が全体的に、古くて有益でない価値観は嫌だということを、フランクに言い続けてきたことも関係があるように思う。

しかし、心配なのは……

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