正面から否定せずに反論する
声が大きいだけの人の意見、あるいは現場感覚がなくなっているのに以前のように意見を押しつけてくる上司など、跳ね返さなければ誤った結論を導き出してしまう意見があります。
しかし、上司に逆らうことは気が引けますし、長い「演説」や大きな声で自説をまくし立ててくる相手に対して真っ向から反対意見をぶつけていくこともカドが立ちます。
エラい人や自信のある人たちは、「でも」「しかし」「とはいうものの」という反論ワードを嫌います。こうした目印なしに反論することができれば、ずいぶんと会議はラクになります。
しかし(!)、「それは違うと思います」というドラマのようなセリフを、会社の会議室で放ったことのある人は多くはないはずです。
では、どのように反論をすればいいのでしょうか。
真正面ではなく論点をズラして反論する
1 質問する
相手の意見の矛盾するポイントや穴と思われる箇所について、わからないフリをして質問するという方法です。
相手が答えに詰まったり、意見の矛盾に気づいてくれたりすれば効果ありです。
私も社外のコンサルタントとして、あまりにも会社の都合を優先した意見に対しては「それはお客さまのためにもなりますかね、なるんだったらいいんですけれど」と、とぼけて質問することがあります。
お客さまの支持を得られない施策を選ぶ企業は長く繁栄できるはずがないのですから、何よりその会社のためです。
2 カン違いする
天然ボケを装い、カン違いをしたフリで賛成をする勢いの発言をします。そして、結果的には異を唱えるかっこうになるのです。
「これはAという現象だ!」「そうですよね、だからBなんですよね!」のように、ちょっと落語のようになります。
たとえば以前、反社会的勢力からおカネを受け取って営業していたとして芸人が責められたり、謹慎したりしたことがありました。これに対し、誰かが「反社からカネを受け取っていたことが問題なんだ」という意見を述べたとします。
けれども、あなたは「反社とは知らずに受け取ったなら、責められないのではないか」と考えたとしても、真っ向から「そうとも言えませんよ」と反対意見をぶつけることは避けたいところです。そこで、次のように発言します。
〈例〉A氏「反社からカネをもらっていた芸人が悪いんだ」
あなた「そうですよね。カネを受け取った会場のホテルや飲食店も悪いんですよ。近くのコンビニだってそうですよ」
一見、賛成しているようでいて、結果としては意見の穴や矛盾を突いています。
3 理由を言わずに流す
論理に対して真正面から論理をぶつけると逃げ場がなくなります。論理に対してはふんわりとしたイメージをぶつけると、つかみどころのない反論となります。
〈例〉アタマではわかりますが、意識がイエスと言わないですね(笑)。
説得や交渉をしようとすると、対立する構図になります。それよりも同じサイドに立ち、情報や参考意見を共有する中で望ましい方向へ進んで行くほうがよいでしょう。
その場では相手を論破できても、敵を作るだけということもあります。
反論を喜び、敵を作らず貸しを作る
会議や議論となると、とにかく反論する人がいます。議論にバランスをもたらして全方位的な結論を出したいという気持ちはわかるのですが、どうしても煙たがられます。
欧米では、特にフランス人はとにかく異論を唱える傾向にあります。だから、「パリは素晴らしい、フランス人がいなければもっと素晴らしい」と言われてしまうわけです。
もしも、あなたの提案が「荒唐無稽【ルビ こうとうむけい】だ」と反論されたら、にっこり笑って次のように言いましょう。
〈例〉あらゆる可能性を検討するからこそ、残った提案に説得力が出るのです。
反対意見が出ることは、むしろ歓迎すべきことです。あなたの意見や企画に磨きをかけ、穴を埋めてくれるものだからです。
客観的な検証に耐えられない企画なら実施しても失敗するでしょうから、その失敗を事前に避けられたということです。
また、反対意見がでたとき、成果を決定づける本質の部分は譲れませんが、周辺部は譲ってもよいと思います。
周辺のニュアンスについては、ある程度、他者の意見を入れてあげるのです。誰かとの折衷案として進めるほうが敵を作らず、実施段階でも協力を得られるでしょう。
余裕があるときは相手に勝たせる。100パーセントの勝ちは敵を作ります。譲れるポイントは譲り、次回への投資としたいところです。
対照軸を提示してゆるく反対する
支援先企業の商品開発会議で、開発担当者から仕様についての説明を聞いたときのことです。
その新製品は「初心者向けのカンタン操作と大きな出力を特長としている」といいます。それを聞いて私はモヤッとしました。(初心者向けなら大出力はオーバースペックになるのではないか)。
相手を攻撃せずに、わかりやすく伝えるために描いたマトリクス表は次のようなものでした。
このように軸で発想することは、問題を整理するときに大変便利です。
そして、この対抗軸を提示することで、一般論に土俵を借りてゆるく異を唱えることもできます。
たとえば、相手が大義を語った場合には、その対立軸にある現実を持ち出すのです。
そして、あまりに現実的な意見には「そもそも」で引き戻して大義を持ち出す。つまり、大義には現実を、現実には大義を提示するのです。
〈例〉大義がなければ、結局、人はついてきません。
↓↑
現実的には、機能しないとすれば問題です。
同様に、具体的な個別事象に対しては、抽象的な意見や情緒的なテーマ性などを提示することができます。そして、それらの逆もまた有効です。
また、統計データを論拠とする意見があれば、データにはリアル、リアルにはデータを提示するわけです。
〈例〉マーケティング調査のデータから明らかです。
↓↑
データ通りになるなら失敗する企業はなくなると思うんですよね。
〈例〉私とAくんはこれがいいと思うんですよ。部内の女性も同じ意見でした。
↓↑
調査データはこうなっています。これは信じざるを得ないですね。
「ミクロにはマクロ」という軸もあります。
たとえば、中小企業は景気動向に翻弄されるイメージがあります。しかし、マクロ経済の数値に歩調を合わせて売り上げや経常利益が増減するのはむしろ大手企業のほうです。
中小企業は取引先の数社が好調であれば、どれだけ世間が不況であっても安泰でいられます。つまりミクロ経済で生きているのが中小企業なのです。
こうした視点を持っていれば、「不景気だから中小企業は倒産の危機にある」という意見を言うこともできますし、その意見にカンタンに反論することもできます。
そのほかにも「法則←→実例」「国内←→世界」「公共←→民間」などの対照軸で思考してみるクセをつけることは、議論に限らず有益です。
会議のファシリテーターを務める理由
企業がマーケティングを考えるときに意識する要素とは「ウリ・ターゲット・ニーズ」ですが、これは会議やミーティングでも同じです。会議で得たい結果は何か、それは誰のためのものか、その相手の希望は何か。
あなたが会議を招集する立場であれば、メールなどで会議の日時と場所を告知する段階から、キーパーソンとその意向を意識したタイトルをつけることができるでしょう。
キーパーソンとは、決して会議の出席者に限られるものではなく、その場にいない誰かであることも多いのです。
そのとき、参加者が「何をすればいいのか」がわかるタイトルをつけるよう心がけてください。なんのための会議かがわからないと、準備のしようがないからです。
たとえば「新規事業の検討会議」では、アイデアをゼロから募る会議なのか、最終報告会なのかわかりません。参加者は心の準備も、資料の用意もできないでしょう。
ここは、「新規事業のアイデアを出す会」のようにすると内容がわかりやすくなり、前向きに参加してもらえるかもしれません。
こうしたゴールを踏まえて会議を捉え直してみると、意味のある発言とムダな発言とを明快に区別がつけられるようになると思います。
コピーライターは、企画会議などでファシリテーターの役割を担うことがよくあります。
広告などのプロジェクト企画は、コピーライターのほかアートディレクターやグラフィックデザイナー、広告代理店の営業マン、カメラマンやCMディレクター、イラストレーターなど大勢のスタッフと一緒に進められます。
スタッフの人数が多かったり、フリーランスのクリエイターが混ざっていたりすると、各人がバラバラの考えで制作を進めてしまうことも少なくありません。その結果、プロジェクトがおかしな方向へ進んでしまうケースも起こり得ます。
そこで、言葉のプロであるコピーライターが、ブリッジ役を務めます。これは、経営者や発注者など収益ベースで意思決定する人と、流行のデザインや目立つ表現を扱いたいデザイナーとの間で、双方の言語を理解できる通訳がコピーライターだからです。
実際には、プロジェクト全体の方向性やコンセプトをキーワードにして掲げていきます。こうして広告企画のプロジェクトチームを引っ張っていく役割も、コピーライターにはあるのです。
大学で行われるシンポジウムなどで講演するとき、「コーディネーターもお願いできますか」とご依頼を受けることがありますが、これなども同様の役回りです。
議論の中身を理解したうえで発言者を指名して回していく、となると「司会者」では手に余るわけです。
かといって、私もその場に呼ばれただけの人間です。なんでも知っていて議論を回していくことなどできません。私にできるのは、ただ流れを読むのみ。
「あの人、発言していないなー」とか、「まだ時間はあるのに、このままだと結論めいたものが出てしまうかな」などと考え、バランスをとろうと考えます。
ただ、予定調和的な結論へと導くことはそれほど難しくはないと思います。それよりも、聴衆に「聞きごたえがあった」とウケるのは白熱した議論や脱線です。
「なんの話だっけ?」となるくらい、話を広げられれば成功(?)といえるのではないでしょうか。
とはいえ、広げたものは収束させなければなりません。そのためには、会議でも、シンポジウムでも、「困ったらこの人にフレばなんとか格好がつく」という発言者を1人見つけておくのがコツだと思います。