コピーライターが実践するフレーズ思考
コピーライターの仕事とは、「ぜひ買いたい」とお客さまに言ってもらえるキャッチコピーを書くことです。そのためには、どのメリットをどう書けば購買行動につながるのか悩みます。
注目される、今までなかった新しい表現を、と模索するのですが、強い言葉を書いたからといってモノが売れるとは限らないのが辛いところです。
それに、キャッチコピーは短くなければなりません。長ければ、読んでもらえないのです。だからコピーライターは、絶対に伝えたい要素以外を捨てます。こうした苦労が実り、商品が売れることは大きな快感です。
メディアを介しない日常のビジネス・コミュニケーションも、同じです。
伝えるべき要素を、強く短い言葉で表現し、人に影響を与え、行動を起こしてもらう。そのためにフレーズを磨くのですから、基本構造は変わらないと思います。
強い言葉を太字で話す
私がラジオ番組のコメンテイターとして出演するとき心がけているのは、私のコメントを受けたMCの人が、話を拾って広げやすいようにすること。そのために、聴取者の興味を引きそうなキーワードを「太字で話す」ようにしています。
インタビューを受けたり、コメンテイターとして話すときは、強いキーワードを残せるかどうかがカギになります。
nendoの代表でデザイナーの佐藤オオキさんは、ビジネス雑誌のインタビューに答えて「デザイナーは、シェフではなく主婦のような仕事」と述べています。
その意味は、最高の食材ではなく冷蔵庫にあるもので美味しい料理を作る仕事――つまり、「企業がもつ有り合わせの材料で、よいデザインを作るのが仕事だ」というわけです。
シェフと主婦のダジャレもあり、印象的なインタビューになっていますね。
人の記憶はすぐに薄れます。忘れられてしまえば、行動してもらうことはできません。だから、いかに記憶に残る強い言葉を放つことができるか、が勝負なのです。
キャッチコピーより話すほうがラク?
多くの場合、広告のキャッチコピーは見えない不特定多数のお客さまを想像して放たれます。だから読んでもらえるかどうかわからない、いいえ、ほとんどの場合、読まれません。それに、雑誌広告でもポスターでも、なんの補足説明も言い訳もできないのです。
それに対して、目の前にいる誰かに話すのなら相手を特定でき、年齢や肩書きもわかりますし、今の機嫌がいいかどうかも伝わってきます。相手の反応や話の流れを見ながら話せるのですから有利です。
そこへキャッチコピーを意識した短いパワーフレーズをぶつけることができるのですから、効果は絶大です。しかも、大企業のヒットコピーのように一分のスキもない、キラキラと光るフレーズを話せというのではありません。話し言葉には、そんなクオリティはいらないのです。
実は、文字で読むキャッチコピーを、口頭で話すと印象がより強くなります。
逆の例を考えればわかりやすいと思います。たとえば次のようなキャッチコピーがあったとします。
〈例〉19歳。ダイヤモンドのような1年
文章で読むぶんには普通です。けれど、あなたが19歳になったばかりの女子に会ったとき、「19歳ですか。ダイヤモンドのような1年ですね」と口に出して言ったら、これは相当やばいです。
また、プロの目から見ると、テレビCMではたまにゆるいキャッチコピーがあります。それは、コピーライター以外の人(ディレクターなど)が書くことがあるからです。
それでも流行語になったりするのは、耳から入る言葉の強さだと思います。人は人の言葉が聞きたいのです。
あなたの言葉も、聞きたい人が待っています。コピーライターのように尖ったキャッチコピーでなくてもオーケーです。短く、強いフレーズを心がけさえすれば十分です。
キャッチコピーのような表現を、普通の会話や企画書のタイトルに使うから印象に残る。言葉に加速度がつくのです。
多少のマネ、パクリ、オマージュは許容範囲です。本当のキャッチコピーに使うわけではないのですから。