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短いパワーフレーズはこう作る

 本書の核である、強く短いフレーズを作るには、言いたいことの本質や結論などを考え、シンプルな言葉にする必要があります。そして、その中身を文章にし、さらにキーワード意識しつつ、なくてもよい部分を削っていきます。

 言うべき中身を絞り込むということは、結局は何が最も大切か、相手はどんな気持ちかを推察する訓練をすることです。これを、短時間で行なうことでアタマは鍛えられます。つねに「本質は何か」という脳の働きができてくるのです。

〈パワーフレーズを作る手順〉
①伝えるべきコアを突きとめる
②「主語+述語」文を作る
③キーワード化する
④ムダな部分を削る


伝えるべきコアを突きとめる

「短くする」ということは、要約することでしょうか。それが正解となる場合もあるでしょう。しかし、実際には要約では足りないこともあります。
 たとえば、自社が提案した企画に対する顧客企業の感触を知りたい社長に、「プレゼンは10分遅れで始まり、A社長、B常務がご参加され、こちらの提案を説明、質疑応答をして終了。結果は後日となりました」と報告しても満足しないでしょう。
 それよりも、「先方は乗り気です。イベント会場の演出案がお気に入りでした」と肝心な部分を伝えたほうが、よほど臨場感を届けられます。

 また、要約とは「文書などに書かれていることを簡潔に短くする」という意味合いが強いように思います。短いフレーズを導き出すためには、たった1行の核を取り出すコアライズこそがふさわしいといえます。
 つまりコトの核心(コア)や本質を見極め、抽出するのです
(※)。
 起承転結にこだわる必要はありません。本質だからこそ受け入れられ、意義が伝わるのです。

※core(英)〈名・動〉芯、核心、芯を取りだす。

 言いたいことに優先順位をつけることも大切です。
 しかし、必ずしも「言いたいこと」が「言うべきこと」であるとは限りません。

 たとえば、商品のキャッチコピーであれば、「言いたいこと」は苦労した点、こだわり、特長、機能、仕様などなどです。ところが、お客さまにとってはそんなことはどうでもいい。聞きたいのは、結局「私はどう便利になるの?」ということなのです。
 だから、この場合の「言うべきこと」は、お客さまのメリットや便利さだということになります。

 では、今あなたが「言うべきこと」はなんでしょうか。
 まず、話す目的、ゴールを考えます。ビジネス関連の話には、必ず目的があるものです。その目的を達成するためには、何を伝えればいいのか、を考えてください。
 それは、たとえば相手のニーズは何かを考えることです。「相手が聞きたい(知りたい)ことは何か」「相手はどうしたいのか」「どうしたら喜ぶのか」。あるいは「相手にどう行動してほしいか」。そのためには相手にどう考えさせ、どういう情報を与えるべきか。

 また、「結論は何か」、「クライマックスは何か」、「自分が言いたいことは何か」、「相手へのお願いは何か」など。「結局、何が言いたいのか?」という問いへの答えを考えてみてください。これらが、まさに伝えるべき中身の元です。

 フェイスブックの投稿にコメントをするケースを例に挙げます。
「出版しました!」という投稿に対して、「おめでとうございます!」だけでは足りません。「おめでとうございます! 早速、読ませていただきます!」と付け加えて初めて、相手の聞きたいことに応えたことになるのです。


「主語+述語」文を作る

 伝えるべき中身が決まったら、それを英語で習った「S+V」のように、「主語+述語」をベースとする1文にします。修飾する形容詞や副詞は、なるべくつけずシンプルにします。言葉は、形容詞から腐るからです。

 基本は、主語と述語のセットであり、「誰が+どうした」。一文一意のシンプルな文はわかりやすく伝わります。これにプラスする情報は「いつ、どこで、何(誰)を」などです。
 ヤフーのトップニュースのタイトルのつけ方は参考になるのでチェックしてみてください。


キーワード化する

 情報過多の中で勝ち残り、人を動かす指針としてもらうにはインパクトがなければなりません。
 そこで、伝えるフレーズが相手の記憶に残るように、普通の言葉をインパクトのある強いキーワードに置き換えるのです。たとえば、「多くの人」は「85パーセントの人」に、「確実な」は「鉄板」、「よいサービス」は「神対応」、「大切」は「命より重い」という具合です。
 インターネットにもある類語辞典なども活用して探してください。キーワード志向は、言葉に強くなる第一歩です。


ムダな部分を削る

 ある言葉を削っても意味が変わらないなら、それは削っていい言葉です。
 そのほかでも余分な情報はできるだけ削ぎ落として、簡潔なフレーズでピリッと伝えましょう。ムダなことを言わない、すなわち大切なことが残る。というか、大切なことに気づくのです。



サウンドバイトを意識すると広がる

 サウンドバイトとはメディアなどにビックアップされやすいフレーズのことです。
 共通しているのは、短く、注目されやすい言葉が使われているという点でしょう。
 政治家としてうまく活用していたのが小泉純一郎元首相です。「私が自民党をぶっこわします」はインパクトがありました。ほかには「構造改革なくして成長なし」など。明らかに意図して活用していたと思います。
 そのほかで有名なのはバラク・オバマ元大統領の「Yes, we can.」。あっけないほど短いフレーズです。

 また、ヤクルト元監督の野村克也氏は、メディアで引用されるフレーズ作りに戦略的に取り組んでいた稀有なアスリートでした。
 現役時代、600号本塁打を達成したときのことです。当たり前の談話では巨人の長嶋茂雄や王貞治選手に勝てず、翌日のスポーツ紙の見出しにならないとして、1カ月も前から考えぬいたコメントが次のフレーズです。

〈例〉王や長島がヒマワリなら、俺はひっそりと咲く月見草。

 広告予算がないため、プレスリリースに頼る中小企業も事情は同じです。

 愛知県の樹研工業は、極小のギヤを射出成形するプレスリリースが無視されたことに奮起し、ギヤにネーミングをするという奇策を思いつきます。
「パウダーギヤ」(粉のように極小のネジ)とネーミングして打たれた次のプレスリリースは、専門誌紙はもちろん、一般紙や果てはテレビ番組でも紹介され、同社の知名度を全国区にまで押し上げました。

 私たちの話がマスメディアに取り上げられることはないとしても、相手の記憶に残る短いフレーズを意識して話すことはとても有効です。シンプルにするとフレーズは短くなります。短い一文は強くなります。



語彙は平易でぴったりがいい

 類語辞典が売れているそうです。SNSでやりとりする若者が、より自身の心境に合う言葉を求めて調べるのです。
 語彙は、多ければ多いほど話し方も自由になると思われるかもしれません。しかし、ほとんどの人が知らない言葉を使っても伝わりません。つまり、多数の人に刺さるフレーズを放ちたいなら、誰もが知っている平易な言葉だけを押さえておけばいいのです。重要なのは、ぴったりで平易な言葉を見つけることです。

 さらに、新語・流行語は日々、生まれてきますので、これらはチェックしておきたいところです。とはいえ、国民の過半が知らない新語・流行語は、これも意味がありません。説明しなければわかってもらえない単語は、使わないほうがいいのです。

「広告の文章は12歳の子供にわかるように書け」と言われます。私もキャッチコピーに難しい言葉を使ったことはありません。もし、未知の言葉を使うとするなら、「知らないこと」であえてフックを作ろうとする戦略です。
 問題は、少し違う言葉をどうやって探すか。そう悩んだなら、それは語彙力ではなく、強いキーワードが足りないのです。