「一番好きな映画」の答えを見つけた
「一番好きな映画は?」という質問に、昔からけっこう苦手意識があった。
映画を観て「おもしろいな」と思ったことは何度もある。でも、順番をつけようとするとむずかしい。もともと、月に1回映画館に行くか行かないか。映画との距離感が、それくらい微妙なせいでもあるかもしれない。
映画に限らず「一番好きな〇〇」を聞く質問には、その人の価値観が知りたい、みたいな意図もある気がする。だからちゃんと答えたいのだけど、いつも「しっくりこないな」と思いつつ、そのとき頭に浮かんだものを答えてしまう。
映画は、作品によって「何を評価するか」が変わるものだと思う。共通しているのは「ストーリー」くらいだろうか。でもそれさえも、漫画の実写版とかだと、期待するところがちょっと変わってくるような。
例えば『ラ・ラ・ランド』『蜜蜂と遠雷』『BLUE GIANT』『ゴジラ-1.0』は、私の中でどれも「好きだな」と思った作品だけど「好き順に並べろ」と言われるとむずかしい。点数化してみようにも、点数をつけたいところがそれぞれ違う、みたいな感じだろうか。
でもこの間、ある映画を観おわった後、直感的に「これが私にとって一番好きな映画かも」と思った。役所広司さん主演の『PERFECT DAYS』だ。
観たのはもう先月の話で、何度も感想をnoteに書こうとしたけれど、うまく書けなくて断念していた。「一番好き」と直感的に思ったものの、理由を言葉にしようとするのが難しかった。
モヤモヤしながら過ごしていたところ、六本松の蔦屋書店で『PERFECT DAYS』のトークイベントが開催されることを知った。ゲストは、ヴィム・ヴェンダースとともに脚本をつくった高崎さん、コルク代表の佐渡島さんだ。
そのイベントに足を運び、2時間ほどのお話をきいた。映画ができるまで、制作秘話、映画への思い、「物語」とは……すると、映画を観て自分が感じていたことが、なんとなくわかってきた。
私たちは映画や物語に触れるとき、つい「大きな何かが起こること」を期待する。だからこそそれを「ネタ」と呼び、それに言及することを「ネタバレ」と言う。最近は、1.5倍速で観たり、要点を解説した記事を読んだりすることで、満足してしまうことさえめずらしくない。
対談を聞いているうちに、確かに『PERFECT DAYS』は、そんな楽しみ方ができるものとは、距離を置いた作品だなと思った。「平山」という一人の人間が送る規則正しい日々。でも、そんな毎日の中でも、目を凝らせばいろいろあるし、揺らぎも起こる。
作品の中では、平山の表情や行動に映る感情を一つ一つ、じっくりと見せてくれる。そういえば私は、映画の途中から「平山の身に何が起こるか」よりも「平山は何を感じているか」が、ずっと気になってしまっていた。
物語や誰かに感情移入するというより、平山の生活や観ている世界に没入していくような、不思議な感覚があった。「ずっと観ていてもいいかも」と思ったのは、この映画が初めてだった。
「一番好き」と思ったのは多分、私がこれまで観てきた映画と比較のしようがないくらい、まったく別物の魅力を感じたからだと思う。もしかしたら私が出会っていないだけで、他にもそう感じる映画はあるのかもしれないけれど(もしあれば出会いたい)。
映画の中では、平山の人生観が見えそうなセリフとか、どんな感情なのかわからない表情が出てくる。それは、理解できそうでできないもどかしさがあって「あれどういう意味だろ」と、ふとしたときに考えてしまうくらいには、印象に残っている。
人の生き方を丁寧に描いているからこそ、簡単にはわからないような部分がたくさんある。そんな「わからないところ」一つ一つが心の深いところにポツンと残るような、そんな映画。「一番好きな映画は?」という質問の答えが、ようやく見つかった。
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