点と点がつながるとき、文章が生まれる
新しい習慣として「天声人語の書き写し」を始めた。毎日欠かさずとはいかないのだけれど、よく言えば「余裕がある日のナイトルーティーン」のような感じ。もうすぐ、書き写した数が30記事に達する。
きっかけは、すきま時間にニュースを読みたいと思い、朝日新聞デジタルの有料会員になったことだった。そして天声人語を久しぶりに読んだら「おもしろい……」と、純粋に感激した。いつしか毎日楽しみに読むようになって「どうせ読むなら、書き写して習慣にしよう」と思ったのだ。
しばらく天声人語と向き合っていると、なぜこんなに「おもしろい」と感じるのか、少しずつわかってきたような気がする。
そもそも天声人語は、時事ネタや話題のニュースをテーマとした連載コラムだ。私が読み始めた時期からの話でいえば、退職代行サービスで離職する新卒社員の件、東京15区の衆院選、スマートグラスでのカンニング、水俣病患者と環境省の件、政治資金問題などが話題になっていた。
「話題のニュースがテーマのコラム」と言われたら、どんな内容をイメージするだろう。想像できるのは「ニュースの概要」と「筆者の意見」だろうか。もちろんそれだけでもコラムとして間違いではないと思う。でも天声人語はちょっと違って、いつも本題からちょっと遠いところまで連れて行ってくれる。
例えば5月11日朝刊の天声人語では、名古屋家裁が同性パートナーと同じ名字に変更することを認めた件が話題となっていた。タイトルは『ハムレットとオセロ』。筆者が大学時代に英国の大学で「『ハムレット』と『オセロ』の主人公が入れ替わったら、どんな結末になるか」という政治の試験に遭遇した話から、コラムはスタートする。
天声人語の文章に充実感を覚える理由は、こうして筆者の過去の経験や、知識までなぞれる奥行きにあるように思う。「筆者の意見」1点だけを読むより、それが過去の体験に裏付けられていたり、別の話題とリンクしていたりするだけで、たった一つのテーマから大きく世界が広がるように感じる。
まるで主題として扱うニュースを基準に、そこから連想する自分の経験や知識の中から別の点を探し出し、線にしているかのよう。そう考えると、文章や創作が生まれるのは、自分の中にある点と、目の前にあるテーマが滑らかにつながる瞬間なのかもしれない。
まったく別次元の話として聞いてほしいのだけど、確かに私も、目の前の話題と自分の中にあるものがリンクしたときに「note書こう」と思えることが多い気がする。この記事にしても、毎日触れている天声人語の特徴と、自分がnoteを書きたくなる瞬間がつながって、書こうと思った。
天声人語の場合は複数の点が線になっていることだけでなく、散りばめられた一つ一つの点に書き手の教養の深さがにじみ出ていることも関係していると思う。10分ほどで書き写せる文章で、一つのニュースを入り口にして広い世界を見せてくれるからこそ、こんなにも充実感があるのだろう。
それに、寝る前に間接照明をつけて書き写しをしている間に、どんどん頭がリラックスモードに突入して、スムーズに入眠できる。そう考えるとこの新習慣、一石五鳥くらいあるのでは……?ナイトルーティーンとして、とてもおすすめしたい。