限界のタワーマンション

限界のタワーマンション  榊淳司

研究の一環として読むように進められた書籍。
もともと開発系に興味があったのにこれ読んだら自分の進む方向はこのままでいいのかわからなくなった。
六本木ヒルズが大好きでいつでも新しさを感じる街を作って行くことを一生の職業にしていきたいと思うようになっていたのに、ディベロッパーが開発するために周りから固めていって、同意せざるを得ない状況にしてしまうという。

再開発事業は色々な課題を抱えているエリアの問題を解決するために、土地を買い上げ、マンションや商業施設、ビルなどのように床を積むことによって、その事業の採算をとる事業。そこに住んでいる人は建設されたマンションに移り住むか金銭をもらってエリアから出て行くかの二択を迫られることになる。
綺麗なマンションに住めていいなと思うだろうが、修繕積立金といった今まででは必要のなかった経費が必要になってくる。それに加えて再開発事業が決定したら壊す際に1回、戻る際に1回の計2回も引越しをしなくてはならない。

若い人にとっては綺麗なマンションに住めて好都合かもしれないが、年をとっている人たちにとっては引越しが億劫、そして長年生きてきた場所が奪われることとなる。それは果たして街づくりとして正しいのだろうか。

再開発事業やマンション建設によって生み出される床によって経済が回る。不動産の視点から考えていたが、新しくマンションに入るということは家具や家電も新しくなる。不動産だけでなく、他の産業に与える影響も大きい。その視点はこの本を読んで気付かされた。産業は関連しあっているのだということを。そういった意味では開発を行うディベロッパーは魅力的である。

海外の事例の紹介もあり、超高層マンションに住む弊害は本書に述べてある。興味深い話がたくさんあったのでぜひとも読んでみて欲しい。

私は幼い頃から高校生くらいまで高層マンションに憧れがあった。埼玉で育ったこともあるだろうが、成功の証のように感じていたから。でも、元々三半規管が弱いのか乗り物酔いしやすい私は生きていくにはマンションはしんどい。そう気づいた日がある。浪人生だった頃、代々木ゼミナールの本校で講義を受けていた。単科でとっていたので週に数回しか通わないがあの高さ、あの景色にワクワクしていた。しかし、初期の頃から、14階程度でフワフワしていると感じるようになった。自習室使って長時間勉強した日は勉強による疲れとは少し異なった疲労感を感じるようになった。低ければ低いほど体はしんどくない。元々偏頭痛を持っていたり、気圧に敏感なため、高所のせいなのかと思うようになった。

それに加えて、高層ビルから見る景色はたまに見るからテンションが上がるのであって、人間の慣れというのは恐ろしいもので、毎日見ていたら当たり前になってときめかなくなる。そこから高層マンションにときめかなくなった。

高層ビルは非日常で味わうくらいが丁度いい。

何年もアパート住まいだったが、近年一軒家に引っ越した。
一軒家であることは子育てにおいて結構重要なことのような気がする。

周囲の関係性や家での過ごし方、心に余裕をもつという意味では家が開けていることは重要なのではないかと思っている。本の中に出てくる子供のうちからマンションの階数でマウントを取るようになるといった状況は普通ではない。そんな風に子供が育つ環境を大人が提供していいのか悩ましく感じる。

そして何より、心臓に関する急変の場合タワーマンションでは高さが上がれば上がるほど生存率が下がるといった記述に背筋が凍る気がした。今まで見ていなかったことだった。確かに、救命には時間が勝負となる。その際に高層になればなるほど降りてくるまでに時間がかかる。そんなリスクを追ってまで超高層マンションに住む必要性はあるのだろうか。

大学入学当時に構造の先生と日本の住宅の値下がりがすごいことが気になると話したことがあった。日本の新築至上主義はどうにかならないのか。それは今になってもどうしたらいいのかわからない。地震の多い日本でそうなってしまうことは致し方のないことのように感じる。しかし、きちんと建てた建物は長く持つ。そして、海外の建築物は住んでいる人が自分の手で住みやすいように変えていく。と言っていたことが印象的だった。日本で家を持つ人達が果たしてそんな時間があるのだろうか。そして建築分野の人たちはそういった人々に手を貸そうと思うのか。自分の仕事を奪われる恐怖のためにそういったことに手を貸さないような気もしている。

マンション入居から話がかなりそれてしまったが、これから日本が歩んでいく建築の状況は不安要素しかないことを感じ取った。

これだけ空き家問題が顕在化しているのになぜマンション建設は続いているのかずっと不思議に思っていたことがこの本によって少し解消された気がする。


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