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蝶を見たらきっと思い出すこと

「ママ、いい経験になったよ。大丈夫、もう大丈夫。」


週末、小3の娘が3匹のモンシロチョウの幼虫を持って帰ってきた。
学校で育てているブロッコリーから卵を採取して孵化させ、
希望する生徒が週末のお世話をすることになったそうな。

数時間おきに様子を観察しては
体の大きさの割に頻回にするフンを捨て、
真面目な彼女らしいなと見ていた。

キャベツかブロッコリーをあげたいと言うが、
生憎うちには今ない。
ってことはアブラナ科の小松菜ならいける?と調べてみると大丈夫そう。
これあげといて〜と渡すと、
寄生虫がついちゃうからって先生が言ってたからと念入りに洗い、
ついでに下に敷いていた湿らせたティッシュも交換をしていた。

翌朝、朝のいろいろを済ませ彼女がモンシロチョウを覗き、
「ママ、これ多分あれだ。だめだ…。」
と顔を曇らせている。
見ると、何やら幼虫の周りに何か集合体がある。
これはどうやら懸念していた寄生虫らしい。

彼女は所謂「気持ち悪いもの」が極度に苦手である。
自分の抜けた歯の裏側が見られない。
傷口を見ることも、文章での描写も目や耳を覆うほど。
寄生虫を前にし、顔が白くなっていた。

「ママ、どうしたらいい?」
ー こういう時どうしたらいいって先生言ってた?
「何も言ってなかった。でも付いたらダメって言ってた。
 もう死んじゃうよきっと。」
ー そうだよね。
  寄生虫がついちゃったらきっともう生きられないから、
  早めに埋めてあげな。

そんなやりとりをじっと見ている妹。
妹は痛いも気持ち悪いもへっちゃらなことを知っているので、
姉はすぐさま妹にお墓を作ってくれないかと頼る。
二人で埋葬しに外に出た。
他の二匹を守ろうと容器を綺麗に洗い、
もしかしたらと思い一度寄生虫に見えるそれを取り除いてみるも、
幼虫の胴体に無数の穴ができていることを確認して諦めがつき、
寄生虫は寄生虫で土に埋め、
幼虫は飼っていた猫のお墓に一緒に埋めてあげたと。

そんなこともあるよねと、
もう済んだ話だと思いながらこの日を終えた。


翌朝。
「ママ…どうしよう…。」
と言いながら、目も合わせずに座り込む娘。

一匹だめな地点で私の脳裏をかすめていた事態となった。
また一匹、寄生虫に侵されていた。
その事態を彼女はどう受け止めるかなと
見守ろうと考えていたので、
しばらく気にしないようにした。

だんだんに涙が頬を流れ始めたので、
悲しいけどこの子も埋めてあげようね、と。

「いやだ」
ー じゃあどうするの?
「だって、いやだ」
ー 寄生虫だけ取ってみる?
  調べたけど、それでもやっぱり死んじゃうっていう情報しか
  ママは見つけられなかったよ。

号泣し出してしまったので、
妹たちの朝ごはんを用意し席に着くまで私は一旦二階へ避難。
どういう言葉を彼女に贈ったらいいのか、冷静に考えたかった。

しばらくすると泣きながら彼女も二階へ。
「多分もう三匹目もダメだよ。こんなことになると思わなかったんだもん。」
ー 持ち帰る前に聞いてなかったんだね。
  でも命を預かるって、こういうことも起きるってことなんだと思うよ。
「どうしたらいい?」
ー どうしたい?方法はいくつかあるかもしれないけど、
  あなたがどうしたいかだよ?
「ママだったらどうする?」
ー 今寄生虫がついている一匹だけ埋めてもう一匹は様子を見るか、
  残念だけど二匹一緒に埋めるかな。
  (娘には言わなかったけど、
  一夜にして蛹になった三匹目も寄生虫の兆候があった)
  信じて一匹を待ってあげたいけど、もし明日の朝まで待ってダメだったとき、
  登校前からあなたが泣いてこの状態になるのは嫌だもん。

ー 今すぐに決めなくてもいいと思うよ。
  今日だってまだ時間はある。(この時まだ8:00くらい)

前夜に少し調べたけど、そもそもモンシロチョウは約3週間の命であること、
100個の卵のうち数個しか成虫になれないこと、
うちに持ち帰る前から寄生されていたのかもしれないこと、
寄生虫がついた時の対処法などを伝えて、
飼い方の問題だけではなく蝶の性(さが)を話してみた。

ー こんなに涙が出るくらいモンシロチョウのことで悲しくなるあなたなら、
  どんな選択をしてもいいし、どんな選択も間違いじゃないよ。
  今は考えられないと思うし考えなくてもいいけど、
  いつか時間が経っていい経験になったと思う日が来ると思うよ。
  まず深呼吸して。すぐに決めなくていいから少し好きに過ごしな。

一階にいる妹たちが朝ごはんを食べ始め、
ママまだ?と何度か様子を見に来たりもしていたのでそろそろ降りようと。

「二匹とも埋めることにする。」
少し落ち着いた呼吸で娘が言う。
ー 決めたの?
「うん。」
ー あなたがそれでいいならいいと思うよ。どうしてそうしようと思った?
  不安はない?
「うん。だってまた寄生虫がついてるの見たくない。
悲しくなりたくない。」
ー わかった。じゃあまずご飯食べよ?
  その後できそうだと思った時に埋めよっか。

そこからはグスグスすることもなく、
妹たちに大丈夫?と頭をヨシヨシされながら
朝の支度をしっかり済ませていた。

「よし。妹、一緒に行こう。」
と用意を始めると、蛹になった三匹目がぴょんぴょん跳ねていた。
え?

ー 蛹って動かないよね?
「うん。これ多分寄生虫だね。笑」
ー 埋める前に確認できてよかったね。これで悔いないね。笑
「うん。笑」

雨の中姉妹3人で傘をさしてお墓を作りに行ったのでした。

お墓から帰ってきて手を洗い終わった娘が笑顔で言った。
「ママ、いい経験になったよ。大丈夫、もう大丈夫。」

なんて素直なの〜と抱き締め合った。


私から見て、彼女はとっても繊細だなあと思う。
他人の想像を超えた想像力を持っていて、
ひどく胸を痛めてしまう時がある。
幼く難しい時期には、たまの大癇癪に煩わされもした。
でも、明らかに切り替えるスピードが早くなったし、
言語も多く取得してきたから気持ちや状況を共有しやすくなった。
そんな彼女から、人間の発達を間近で学んでいるなと思わされる。

そして何より、幼き自分と多々重なる。
でも私はそれらを共有できずに悩んだ記憶も少なくないので、
どちらが正解かはわからないにせよ、
彼女が迷った時に信じてそばにいることを今は大切にしたいんだと、
今回のことを通して改めて思ったのでした。

小3の時に「いい経験になった」と口にできたことがあっただろうか。
いやぁ、尊敬します。

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