あの日のつづきの舞台で(演劇脚本)

【あらすじ】
中学校演劇部の同期5人のお話。
みんな社会人になって、再会して昔を懐かしむ。

あの頃、
部活と勉強と習い事と。

みんなそれぞれ大変だったよね。

そして今、大人になって。


【登場人物】
花岡すず
谷山航希
酒井瑞樹
高畑はるか
岸正治

それぞれ中3と大人
役を分けてもよし、別の人が演じてもよし。
※人数に応じて

山田凛 中2
木村ゆうか 中2
後輩たち
1、2、3、4、5


場面1

ある年の暮れ。
夜が始まったばかり。

個人経営の小さな居酒屋で。
K中演劇部同窓会

すず (ドアを開けて、駆け足でお店へ入ってくる。コートを脱ぎながら

ごめーん!遅れた!

みずき すずー!遅いよ!

はるか もうはじめようとしてたとこだよー

まさはる 花岡が遅刻なんて、珍しいな。

すず あー、そうね。ピアノの演奏会が長引いちゃって。

谷山 まだピアノ、続けてるんだ?

すず そーなの。まあ本当に趣味程度でね。

プロも目指してた頃が懐かしいよ。

まさはる なのに、花岡、照明担当だもんな。
音響じゃないのかよ!ってね笑

はるか たしかにー、すずが音楽はもちろん好きだけど、照明も勉強してみたいとか言ってたよね。

みずき 意識高っ!すずらしい笑。

すず まーね。今思えば、詰め込みすぎだよね笑。
あれ、はるかは演劇、続けてるんだっけ?

はるか そうなの。みんなの方が長く続けそうな感じしたのにね。

まさはる いや、高畑はこれからも続けるかな。って俺は思ってたよ。

谷山 たしかにね。

はるか ほんと?まあ演劇っていっても、大きな舞台!とかではないんだけどね。

ボランティアみたいな。
老人ホームや幼稚園に行って、演劇を楽しんでもらうの。

みずき いいね!すごい素敵な活動。

はるか でしょ。


(すずも身支度を終え、席につく。
少し落ち着いたタイミングで。


谷山 では、全員集合!ということで。
  はじめましょう。

  かんぱーい!

5人 かんぱーい!

すず こんなの何年ぶり?

みずき 2年前ぶりじゃない?

まさはる いや、LINEさかのぼると、もう3年前みたいだよ。

女3人で:えー!

はるか そんなに経つのかぁ。

谷山 そうだねえ。自粛期間とかなんだかんだ、あったからねえ。

みずき みんな社会人だし。なかなか集まれなかったよね。

すず そうなのよ。私たちもう立派な社会人よ。

はるか 大人になっちゃったねー。

みずき中学卒業したのが、ちょうどー。

まさはる 10年前。

みずき そうだね!そりゃ大人にもなるし、こうやって酒も飲むわけだ笑!中学の頃なんか、水筒にスポドリだったのにね笑。

すず なつかしー!スポドリ飲まなきゃ、やってらんねえ!ってよく言ってたよね笑。

みずき そうそう、で、ある日突然すずが暴れて、谷山の水筒壊しちゃってさ!!

谷山 あー。そんなことあったなぁ。

すず ちがうんだってば!あれは破壊しようと思ったわけではなくて…。

谷山 壊そうとして、壊したとしたら、相当タチがわりいよ。

みずき でさでさ、谷山、、、泣いちゃったんだよねー!!一年の時は、谷山、かわいかったわぁ。(からかうように

まさはる あの日、一緒になぐさめながら下校して、大変だったんだからな!

すず ごめーん!ほんとごめんね!

谷山!!今、改めて謝るわ!

谷山 もういいよ!気にしてないからさ。

はるか 懐かしいねえ。

みずき 懐かしいねー。

すず あの頃は、大変だったよねえ。
朝練して、放課後練して、塾行って!!

みずき そうそう!!ともりんから、さんざんしごかれてねー!!

谷山 戸森先生な。厳しかったよな。

みずき そうそう!なんだっけ。あれあれ。よくすずが言われてたやつ。

すず
まさはる 2人同時に

あご!!あご!!


すず あごを出して、台詞いうな!!(先生の口調で

あれ、何度言われたことか…。

< 一同笑う。


まさはる ほんとに大変だったよな。今、タイムマシンがあって、過去に戻れます。中学生もう一回やりなおせるドン!って言われても、

もう、俺は戻りたくないなぁ。

みずき たしかに。戻りたくない。

はるか ムリだなぁ。戻りたくない。

谷山 絶対キャパオーバー。戻りたくない。

すず そうだよね…。戻れないよなー。


場面2
中学校 空き教室
演劇部の練習室

先ほどの10年前
5人が中学生だった頃。

花岡すず、谷山航希、酒井瑞樹、高畑はるか、岸正治

戸森先生は声だけ。

客席側に戸森先生がいる仮定で。
5人がそれぞれの個性を出したジャージの着方をして、演技を戸森先生にみてもらっている。

戸森先生声 あご、あご!花岡、あご出てる!
あごが喋ってる!!

花岡すずだけ慌ててあごを引っ込め、すこし不服そう。

他の4人は今にも吹き出してしまいそうに。お互いバレないように、目くばせをしあう。

すず はい!すみません!

戸森先生声 もう一回!おなじとこから。

部員全員 はい!

〈暗転〉
ここで机や教室っぽいものをはける。

暗転するが、稽古は続いている仮定で、
響き渡る、戸森先生の声。

戸森声のみ あご!だ、か、ら、あ、ご!
あご引っ込めろ!

すず声のみ はい!

少し間が空いて

戸森声 あごーーー!何回言ったらわかるんだ!!

すず声のみ はいー!!すみませーん。
もう一回お願いします!!(少し泣きそうになりながら

〈少し間が空いて〉
場面3
夕焼け

下校途中のすず、みずき、谷山の3人

女子2人、花岡とみずきは横並び。
谷本はその後ろをついていくように。


すず あーーーー!つかれた!!
何回あごって言われなきゃなんないのよ!!

みずき ほんと!ほんと!つかれた!
今日の1日練、お昼が14時半!

ありえないよね!それはお昼じゃありません!
おやつの時間!!

すず ほんとだよー!お腹空いて、倒れたら、どうするつもりなんだろね!ともり!!

みずき それな!!中学生は食べ盛りなんだからな!なめんなよ、ともり!!

谷山 少し圧倒され、呆れながら)

ともり、せんせい、な。

(すず みずき共に全然聞いてない。

やまびこを言う時のように口に手をそえて。

みずき ともりのばかやろーー!!

すず ともり、せんせーだからって調子のんなー!!

谷山 おいおい、おまえら声デカいんだから。
ちょっとひかえろって。

みずきとすず うるさいっ!

みずき 谷山は黙ってて!

はあー、リハーサルだってもうすぐ、模試も近いし!

すず みずき、ブカンだもんね。大変だよね。ごめん、いろいろありがと。

みずき いや、いーんだけどさ。別に。
それにすずだって、照明大変そうじゃん??

すず そーなんだよね。今、2年生にさ、引き継ぎしやきゃじゃん?もう夏で引退かもでしょ?私たち。

谷山 そーだよな。音響もそう。次があるかは、まだ結果次第だかんな。

みずき 次って言ったって、複雑だよね?地区大会?もし最優秀取れたら、引退できないもんね!…そりゃあ、嬉しいけどさ、、、。

すず 、、、。
ね。嬉しいよね、そりゃ。

でもさ、私たち、受験もあるし、ね。

谷山そーだよなあ。
酒井は私立?桐山学園だっけ??
あそこ偏差値、高いよな?


みずき 一応、そのつもり。
でも志望校、このままでいいのかな。って

すず え、みずき、桐学から志望校変えるの?

みずき だから、今、悩でんだって。

谷本 どして?ずっと桐山学園が第一志望って、一年の頃から言ってたよな。

みずき そーなんだけどさ。
地区、残れる可能性、なくはないでしょ?

てか、残れる!って私は信じてんの。

そしたら12月まで部活だよ?
県大会まで、部活と勉強、どっちも全力で!

関東大会出場も目指すし、第一志望も目指します!!

んなこと、できると思う??


そりゃ、理想は、どっちもだよ?

、、、。だけどさ。
ムリじゃない?正直。

すず でも、みずき。桐学どーしても行きたいって。大学と連携とかしてるし、教員目指すのにベストだからって、、、。

みずき そうだよ!それは百も承知!!
でも受験は1人だけど、部活はみんなもいるんだよ。

すずだって、ピアノの大会も出たいんでしょ?

でも迷ってんじゃん。最悪、今年は出ないかもって言ってたじゃん。

それと、同じ。

谷本 花岡、練習中も指、怪我しないように、いつも気をつけてるもんな。

すず そうだよね。みずきも悩んでんだ。

ごめん。

みずき いや、別にすずには怒ってないって。
ただ、難しいよね。って話。

だって、どっちも今だけなの。
大事なの。

どっちが優先事項か、なんて、選べないよ。

すず そーだよね。

谷山 そーだよな。なんだかな、俺ら結構頑張ってんのにな。

みずき 頑張ってるよ!
頑張ってるから余計だよね。

悩むよね。

すず 、、、。うん。


場面4
空き教室 みんなそれぞれ打ち合わせ中

大道具・小道具
音響
照明

それぞれの役割が小さな円になり、話し合いをしている。3年の5人は、それぞれの役割に固まらず、散らばっている。

舞台監督のみずきは、全体を見て何かを考えてる。

照明リーダーのすずのもとに2年生が走ってくる。

りん 花岡先輩!
ここの、照明ってなんでしたっけ。

ホリゾントは夕焼けのオレンジ、あれ、赤っぽい方がよかったんでしたっけ。

シーン4のサスの位置って、、、あれ?

すず あれ、それってこの前、全部伝えたよね?

打ち合わせの前、余裕もって、照明の指示計画書作っておいてねって、手順説明したよね?今までも一緒作成したこともあるし。

りん はい。そうなんですけど。
なんかよく分からなくなっちゃって。

2年生の照明担当同士で考えたんですけど、、、。

途中でよく分かんなくなっちゃって。

すず よく分かんなくなった!?

ねえ、分かんなくなったら、私に聞いてって話したよね。

どうすんの?戸森先生、明日には照明計画書見せてほしいって言ってたよ。

まだ何もできてないってこと??
なんで私に聞いてくれないの?

りん だって、花岡先輩、ピアノとかあって、早退もする日とかあったし。なかなか相談出来なくて。

すみません。今から急いで2年で作ります!

すず もういいよ!間に合わないって。
2年生とイチからやる暇ない。

私1人でやるから。

〈すず走ってどこかへ行ってしまう

他の部員も打ち合わせしつつ、りんの立つ場所をちらちらと見ている。

照明係の中の何人かがりんに駆け寄り、なにか励ますように話しかけてる。


場面5

すず1人で舞台に立っている
戸森先生と話しているように。

すず これです。照明計画書。
結構、ページ数多くなっちゃって。

戸森先生声 はい。受け取ります。
あれ?なんで花岡が持ってきたの?

今回は2年主体で回すっていうことになったよね。

すず そうなんですけど。あの。ちょっと2年生、まだ難しかったみたいで。

戸森声 難しかった?
そりゃ、簡単じゃないよね。だから花岡がいるんじゃないの?

3年はもういなくなるんだよ。全部花岡が自分でやればいいんじゃないんだよ?

2年生はこれから自分たちで出来るようにならなくちゃいけないんだから。

すず はい。指示はしたんですけど、、、。

それでも、、、、それでも上手くいかなくて。私が最終的にやりました。

戸森声 いい?花岡。花岡は全て抱え込みすぎ。
花岡は出来るよ。

だから自分がやればいいって思うんだろうけど、それでいいの?それって、リーダーなの?

すず え?

戸森声 それじゃ、花岡がいないと回らなくなるんだよ。もし、花岡がダウンしたら?そうでなくても、あなたはもう引退するの。

自分一人が出来ても意味ないの。抱え込んでもいけない。

人を頼りなさい。育てなさい。
このままでは、あなたも潰れる。
部活もダメになる。

(すず  一人舞台で。

そんなこと言ったって、、、。

場面6

夕焼け

はるか、まさはる下校中

はるか はー、今日も疲れちゃったなぁ。

まさはる だなー。まあ俺はまだまだ元気100倍、マサマサマン!って感じだけどな。

はるか なにそれ笑?岸はいつも元気だね。

まさはる まあな。

でもさ、花岡は昨日の打ち合わせ飛び出してったとこから、ずっと様子変だし。

酒井はいつものことながら、ピリピリしてるし。

なんか大変そうだよな。

はるか うーん、そうだよね。

すずは多分いつも一人で抱え込みがちなんだよね。辛くなってないかな、心配。

みずきは責任感が誰よりも強くて、だからこそあんな風になるんだと思うの。

まさはる ふーん、なるほどな。

はるか それに比べて、私はなぁ。
なんかできてるかな。

まさはる ん?

はるか いや役もちょい役でしょ?それにみんなみたいに何かのリーダーってわけでもないし。

あ、違うの。今の役が気に入らないとか、少ししか出ないから、ダメとか、そういうんじゃなくて。

そうじゃなくて、なんていうんだろ、、、。

まさはる ん。なんか言いたいことわかる。なんつーのかな、これでいいのかな?ってふと考えちゃうよな。

はるか え?
岸はさ、いつも舞台上で目立ってるじゃん。

まさはる そーなんだけどさ!!

んーーー、

まあそうだよな、たしかにオモロキャラやっとけばいいみたいなとこ、あるよな?笑

はるか そうそう。
なんかいいよね、そういうの。

自分にしか、出来ないなにかがあるって。

すごい、いいよね。
素敵だよね。

まさはる んー、そうかな。どうなんだろ、あんま深く考えたことないや。

はるか そうだよね。なんかごめんね。
話聞いてくれて、ありがと!!

まさはる ぜんっぜん!

マサマサマンはいつでも君からの相談待ってるぞ!(ポーズキメキメで

はるか なにそれ笑笑。ほんと岸はおもしろいね。

あっ!

じゃあ、ここで。

また明日ね。

はるか走ってはける。まさはる走り去るはるかを手を振りながら見守る。


場面6
演劇部 空き教室で練習中

まさはる中心で、はっちゃけてる演技を全力で。

戸森先生声 おっけー。じゃ、あのシーン、最後に親に思ってることを伝えるシーンで。

まさはる はい!
部員全員 はい!

まさはる 俺さ、どーしても続けたいんだよ。
サッカー。何やっても、続かなくて。すぐ辞めて。それでもいいやって思ってたんだ。

今、楽しけりゃ。でもさ、そうじゃなくて。
苦しくてもいいから、続けたいんだよ。

初めて、そう思えたんだ。

(まさはるのこのセリフはあまり心がこもっていないように、決して下手ではないが微妙

戸森声 ストップ!
まさはる、だめだな。全然だめ。

まさはるはキャラクターがすごいいい。
出てくるだけで面白い。

でも、今はそれだけだよ。

キャラで押してれば、いいやって。
そう見えちゃう。

それじゃ、響かないよ。

面白いだけの人間なんて、いないんだから。

まさはる はい。
(なにかに気づいたかのように、戸森の台詞の途中でハッとする。少し顔が曇るが、それを隠すようにかすかに笑う。

場面7
演劇部 空き教室で練習中

台にのぼったり、降りたりしている。

みずき はい。では、シーン2からやります!
台を大道具担当の人たち中心で用意してくれてます。

これで、舞台を横だけでなくて、縦にも広がりを持たせることができる!

たくさん動いて!

部員たち はい。

みずき じゃあ、準備いいー?

よーい、パン!(手拍子


台詞はじめていく。
それぞれが一言ずつくらいを短い間隔でバンバン言っていく。

その中で台を登ったり、降りたり。

少し経って、すずが立ちくらみで台から落ちそうになる。

みずき すずっ、あぶな

(すず倒れる

(みずき すずの元へ駆け寄る

みずき すずっ!大丈夫?

すず (力なく)
あ、うん。大丈夫。

(手をついて、立ちあがろうとする。
いたっ。

谷山 大丈夫か?ケガした?

すず そうみたい。手首、、、ひねったかも、、、、。

はるか え?手首?

みずき すぐ病院行かなきゃっ!

まさはる 俺、せんせー呼んでくるわ。

みずき お願いっ!

すず ごめんね。ちょっと疲れてたみたい。
立ちくらみで。

谷山 謝ることないよ。練習長くやりすぎたな。

みずき ご、ごめん。休憩取るべきだったよね。

すず ううん、みずきのせいじゃないよ。
それに手首だから、演劇はできるよ!!

みずき でも、、、、、。

すず みずき、大丈夫だから。すぐ治るって。
大したことないよ。

場面8

夕焼け 少しいつもより暗め。

後輩たち3人組

後輩1  花岡先輩、大丈夫かなぁ?

後輩2  ね、心配だよね!

後輩3 花岡先輩、大丈夫だよって言ってたけどさ、すごく痛そうだったよね。

後輩1 そうそう!無理して笑ってる感じ!

後輩2 それにさ、酒井先輩が、、、。

後輩3 みずき先輩?なんかあったっけ。

後輩2 うん。あの後、廊下で泣いてたんだよね。

後輩1  えー!あのみずき先輩が??

後輩2  うん、初めて見た。

後輩3 なんでみずき先輩が泣いてたの?

後輩2 自分のせいだっ、、、。って

自分が予定通りに練習進まないのに、イライラして、休憩取らずに練習させたから、すずが倒れたって。

後輩1 そんなこと言ってたんだ、、、。

後輩2  そう。はるか先輩と谷山先輩が、みずきのせいじゃない。大丈夫だから、おちつけ、って、言ってたんだけどね、、、。

後輩3 そっか、、、。

後輩2  それにね、すず先輩、演劇はできるって言ったでしょ?

後輩1  うん、言ってた。

後輩2 それって、よく考えると、演劇は出来るけど、ピアノはキツイって意味だと思うって、みずき先輩が、、、。

後輩3 え?!

でもすず先輩、中学最後の大会控えてるって、、、。

後輩2 そうなの。だから、みずき先輩、、、。
私のせいだって。すずの大好きなピアノ、奪っちゃった。って

後輩1  そんな、、、。

後輩2  辛いね。誰のせいでもないよね。

他2人 うん、、、。

後輩2 そのあとマサ先輩が、うるせー、みずきのせいじゃない!ちょっとアンラッキーが重なっただけだ!花岡ならすぐ治せる!ピアノも弾けるようになる!

って、言って、その話終わらせてたけどね。

後輩3 マサ先輩らしいね。

他2人 、、、うん。

後輩1 先輩たち、いろいろ大変そうだよね、

私たちもがんばんなきゃね。


後輩2 そーだね。がんばろ!

他2人 うん、、、。

暗転

場面9

暗転
演劇部 空き教室

端から端まで、雑巾掛け。
下手の方から、上手の方から。いろんな方から雑巾掛けしながら出てくる。

すずは雑巾掛けはせずに、少し離れたところで立ってる。手には包帯。

みずき 集合!

(すずもみんなと同じように真ん中へ。
他の5〜6人 はい!


みずき われわれー、ボランティア部は〜!

他のメンバー われわれー、ボランティア部は〜!


みずき パンっ!(手を叩く

一回区切るね!
いい感じ、劇のいっちばん最初、雑巾掛けで始まるっていうのなんか迫力ある!いいね!

すず、手大丈夫そ?

すず ん、大丈夫だよ。痛みとかはもうほとんどないかな。

はるか 良かった。じゃあ雑巾掛けは治るまでキツそうだからさ、すずは治るまで、最初窓拭きやってるパントマイムできそう?

みずき そうだね!ごめん、すず。つったったままだとなんか寂しいよね。はるかありがと。

すず あ、うん!それなら出来る。ありがと、2人とも。

みずき うん。

では、一回休憩挟みまーす!
10分後、ゆうかが後輩男子として初めてボランティア部に来るシーンから!!

部員たち はい!

ゆうか (まさはると谷山が水を飲んでるところへ走ってくる。

先輩っ!あの、休憩中すみません。
質問しても大丈夫ですか?

まさはる ぜんっぜんおーけーだよー。

谷山 もちろん。

ゆうか あの、私、男子役じゃないですか。なんかすごく難しくて、上手くいかなくて、、、。

まさはる そりゃ、そーだよなー。

谷山 性別超えて、演技しなきゃ、だもんな。

ごめんな。うちの部活、男子少ないからさ、木村に負担かけることになって。

まさはる 俺たち、引退したら、男子1人だしな。

ゆうか そうですよ。劇の幅、狭まる気がして、、、。だから男子役も頑張りたくて。

まさはる 木村、偉いな!俺たちが引退したあとのこともちゃんと考えてんだな。

ゆうか いちおう、、、。男子役って、どんなこと気をつけたら、男子に見えますかね、、、。

谷山 うーん。俺たちは男子だから、あんまり意識したことないけどなぁ笑。

でも、木村の演技見てて、気になることは、、、。

ゆうか はい、教えてください。

谷山 台詞、しゃべってないときかな。

ゆうか え?台詞の時じゃないんですか?

まさはる あー、それ、わかるかも。

谷山 ん。だよな。

木村さ、台詞の時、けっこー、いい線いってると思うんだよね。なんかマサとか俺が言うより、男子っぽいっていうか、違和感ないなって、本当なんかいもセリフ練してんだなって分かる。

だけど、台詞ない時、ちゃんと?女の子に戻っちゃってんだよね、、、。

まさはる だよな。まあ、実際女子なんだもん。仕方ないんだけどさ。でも男子役やるならそうは言ってらんないじゃん。

谷山 (歩く、駆け足、ふりむく、腕まくりする、ボール投げる動きする。いろんな動き試す。

ほら、いろいろ動きある舞台じゃん。
台詞ない時も、気を抜かずにさ、自然に男子に見えるように意識しないと、バレちゃうんだよ、お客さんに。

まさはる 難しいよな。ごめんな。

谷山 俺もバレリーナ?バレリーヌか。やるとき、台詞以上に動きを意識するようにしてる。

まさはる みずきもさ、ヤンキー役やるからって、ずっと鏡みて、歩く練習とかしてるよな。

ゆうか そうなんですね。

みずき はーい!そろそろ10分経つよー!
スタンバイしてね。

部員たち はい!

まさはる じゃあ、そろそろ練習もどっか。

谷山 だな。

ゆうか せんぱいっ!
ありがとうございますっ!

(頭下げる

まさはる ん!いいってことよ!

谷山 まあ、あと何回、1、2年と劇できるか、分かんないからな。あとすこしだけどさ、なんかあったら、いつでも聞いて。

ゆうか はい!

みずき はーい、じゃあ立ち位置ついてー!

一同自分のポジションへ。

みずき じゃ、ゆうか、いい?

ゆうか はいっ!

みずき ヨーイ、ぱんっ!

ゆうか歩いて登場。動きを意識している様子で。

暗転
場面10

夏の朝。
蝉の声。

みんなランニングしている。

後輩4 あちー。

後輩5 朝からこんな暑かったらさ、部室やばそうだよね。

後輩4 ほんとだよね。地区大近いしさ、倒れないようにしなきゃだよね。

後輩5 ほんと、ほんと。

後輩4 なんかさ、最近みずき先輩、変わったよね?

後輩5 分かる!なんかピリピリすること減ったよね!

後輩4 そうそう!なんか大事なところでさ、多分気を引き締めるためなんだろうけど、結構ピリついてたじゃん?

そーするとさ、特に1年生は萎縮しちゃうんだよね。

後輩5 わかる、わかる。2年のうちらでもけっこー怖いもんね。そーなると、なんかいつもしないようなミスしちゃって、余計ピリつくとかね笑!

後輩4 そーなのよ!でもさ、最近そういうの減ったよね。

後輩5 うんうん、減った。

後輩4 みずき先輩さ、意識してるんだろうね。

それにね、はるか先輩がいつも声かけてるの。

後輩5 はるか先輩?

後輩4 みずき先輩がね、ちょっとヤバそう。って時にね、はるか先輩、みずき、一旦深呼吸ー!とか、大丈夫、まだ時間あるから、一回休憩挟んでから、もう一回やろ。とか、ね。

後輩5 たしかに!そーいわれれば、そうかも。

後輩4 でしょ。

(ランニングから2人組ストレッチに

後輩5 すず先輩もさ、何か変わったよね。
1人で考え込んでること、少なくなったというか、表情が柔らかくなった!

後輩4 あーね!りんがさ、喜んでたのよ!

後輩5 え、りんが?

後輩4 すず先輩がね、私たちのことも頼ってくれるようになったって。

後輩5 そうなんだ!

後輩4 頑張り甲斐がある!期待を裏切らないように頑張る!って嬉しそうに話してた。

後輩5 いいね!ゆうかもなんかマサ先輩と谷山先輩と、よく自主練してるよね。

後輩4 そうそう。なんかね、どうしたら男らしく歩けるかとか走れるかとか、みんなで研究してんだって!

その代わりにね、マサ先輩は、台詞聞いて、ってゆうかに頼むんだって。

後輩5 へー、マサ先輩が??

後輩4 同じ台詞何回も、いろんなパターンで演じてみるんだって。あーじゃない、こーじゃない。って試行錯誤してるらしいよ。

後輩5 そうなんだ!マサ先輩も、いつもおちゃらけてるけど、やっぱ真面目だよね笑。

後輩4 ね。なんか本人はバレてないつもりでいると思うけどね。真面目だよね。

後輩5  ま、そこが先輩いいところなんだけどね。

2人笑いながら、暗転。

場面11
演劇部 本番前 みずきを中心に本番前最後の通し前

みずき 関東大会は3年生本当に本当に最後だからよろしく!最後だからね。役割、一人ひとり分かってるよね?

部員全員 はい!!

ちょっとピリピリするみずき。

はるか みずき、大丈夫。2年生、ちゃんと昨日話合いしてたし、ここは任せるとこ、任せてこ。

みずき ごめん、みんな!つい!いつもの癖で。笑
任せたぜ、2年生!

すず りん、もう大丈夫そ?全て確認できてる?

りん はい、大丈夫です!どのシーンから、リハーサル進めていくかも頭に入っています。何かあったら、すず先輩に質問します。でも昨日分からないことは、まとめて聞いたので、もうないとは思います!

すず 了解!頑張ろうね。
なんかあったら、私もいるから。

谷山 音響、大丈夫そうか。この前確認したとこも含めて。

音響後輩 はい、大丈夫そうです!いつでもオッケーです!

谷山 いいね、じゃあよろしく。

まさはる じゃあ、テンション上げて、最後の通し、いきましょーー!

部員全員 はい!!!

場面12
ラストシーン
K中演劇部同窓会に戻る

まさはる ほんっと、色々あったよな。
あのさ、俺、ともりんに言われたじゃん?

覚えてるかな。

キャラだけで演技してるって。

はるか あー、そんなことあったよね。ちょっとあれは言い過ぎって正直思っちゃったかも、、、。

まさはる な!俺もさ、思ったんよ。
でもさ、そーいわれてみれば、そうかもなって。

はるかがさ、一言だけ、言う台詞あったじゃん。
その台詞をずっとさ、教室の裏で練習してんの、見ちゃって。

いろんなパターンで。

ともりんに言われたわけでもないのに。

それ見てさ、俺、そこまでしたことねーやって。

みずき はは。
はるかはいつもそうなのよ。
私も、はるかのそういうとこ見て、いつもそれに背筋を伸ばされる思いだった。

すず なんかね、はるか、ぼーっとしてるし、天然なのにね笑。

人一倍、努力家なのよね。

そしてみんなのことをすごくよく見てるの。

まさはる だよな。ほんとすごいよ。

今、俺、営業マンでさ。やっぱり?俺、こんなんだからさ、第一印象はけっこーええのよ。

谷山 そういうの自分で言うことなのか笑?

まさはる まあまあ。でもさ、いつも気をつけてんだ。
キャラだけじゃダメだぞ、自分って。

思いあがんな、俺。って

キャラでやれるのなんか、いっときなのよ。

やっぱ向こうも仕事だからさ、金が関わるからね。

いくらキャラよくても、中身がないやつは信頼してもらえないのよ。

だからさ、ともりんまじうぜえ。って中学時代思ってたんだけどさ、

なんだかんだ、タメになってんのよね笑。
笑っちゃうよ。


はるか 私もそうだな。

戸森先生にある日、呼び出されて。

すず はるかが!?

はるか そうなの。怒られたっていうんじゃないんだけどね。

みずき ともりん、なんて??

はるか 高畑は、なんで、いつも思いを言葉にせずに、しまいこんだままなの?って。

思ってること、伝えなきゃ意味ないよ。

気づいて頭で思ってても、伝わんないよ。

なんのための演劇部なの?

自分のことも表現できなくて、そんなんで舞台上で誰かになれるわけがないって。

まさはる ともりん、言うよなー。

谷山 たしかに、高畑3年の夏くらいかな。
なんか変わったよな。

みずき それまではなんかみんなを見て、にこにこしてることが多かったよね。

すず それはそれで癒されてたけどね。

でもたしかに、はるかは、ある時から、私たちにアドバイスとか、それは違うと思う。とかけっこーはっきり言ってくれるようになったよね。

はるか え、バレてた?変わらなきゃって意識してみたの。

それでも、みずきみたいにカッコよくは出来ないし、すずみたいにテキパキこなせるわけじゃなかったけどね。

まさはる そうなのか。

すず はるかはそこが素敵なの。ふんわりとやさしく伝えてくれるんだけど、ちゃんと芯はあって。

みずき そうそう、私たち、はるかみたいにやさしく強くなれたらいいなって密かに話してたんだからね。

(すず 微笑みながら大きくうなずく。

はるか え?そうなの?初耳。
なんか照れちゃう。

すず 照れろ、照れろー!

まさはる 顔、赤くなってんぞー。

はるか 違うの、これはお酒が回ってきただけ!

谷山 ほんとかなー??笑

はるか ほんとだってば!

谷山 わかった、わかった。落ち着けって。笑

でもさ、、、あるよなー。

今になってから、気づく って言うのかなあ。

すず ん?

谷山 うん。

俺、

演劇好きだったんだよ、結構。

でもさ、親に辞めろって、言われてさ。

俳優になれるわけでもないのに、何の意味があるんだ。勉強の方が遥かに人生の糧になるぞ。って


みずき え、谷山、そんなことあったん?
聞いたことないわー!!

すず たしかに!なんか谷山はずっと何だかんだともりんにも怒られることも少ないし、いつも卒なく何でもこなしてたってイメージ!

谷山 そうかな?でさ、俺、辞めるっていいに言ったのよ。戸森先生に。

谷山以外4人 え!!

まさはる そんなことあったのか!!

すず 全然知らなかった!

みずき 相談してよー!

はるか たにやんも、悩んでたんだ。

谷山 やめろよ。そのあだ名。
もうアラサーなのにさ笑。

はるか あ、ごめん。つい。小学校からのくせで。

谷山 まあな笑。
でさ、そん時言われたの。ともりんに。

辞めてもいい。
だけど、それでいいんか?って、自分でやりたいこともやりたいと言えないやつが、勉強で何かを得られると思うのかって。

だよな。ただ勉強すればいいってもんじゃねえよな。
何のためにとか、どうしたいとか、そういうことがあってこその身がはいるっつーか。

で、今さ。
やりたい仕事やってるよ。

演劇とそんなに関係深いってわけではないんだけどさ。

それでもいいかなって。自分で選んだことだからさ。

まあ仕事、イヤになることもあるけどね。
もうやめてーなって時もあるし、、、。

まさはる 分かる、分かる。

みずき そーなのか。でもなんかいいね。

私も悩んだな、、、。部活か受験か。

すず みずき、桐学受けないかもって、一時期言ってたもんね。

みずき そう。それそれ。
でさ、もう一か八か、どっちも頑張ることにしたのよ。
無理やりね。

でさ、そしたら、本当に関東も行けたし、受験も受かっちゃった。

教員になりたくて、なりたくて、受験頑張って、大学でいっぱい授業とって、教員免許もらえて、なんとか採用試験も受かって、先生になれた。

でも、、、。
まあ、教員はもう辞めちゃったんだけどね、、、。

色々あって。

でも、悔いはないのよ。
頑張ったのよ、ぜんぶ。

もちろんその時は悲しかったけどね。

キツかったー。正直、中学時代、、、。
放課後練してさ、そのまま家に帰る暇もなく、塾に直行。塾へむかいながら、パンかじるの。ほんと忙しかった。

でもね、中学時代にね、あれだけ頑張れたんだもの。
私なら大丈夫。

大丈夫って。

一度折れたって、立ち上がれる。
なんか掴んでから、立ち上がってやる。

って。

なんかそう思えちゃうんだよね。

すず うん、わかる。

みずき 今はね、地元の小さな個別指導の塾で働いてるの。勉強ニガテな子とか、なかなか学校行けない子とかがよく来るの。

はるか そうなんだ。

みずき うん。給料は安いんだけどね。いつもカツカツよ。ほんと困っちゃう、、、。

でも、教えるだけじゃなくて。
生徒たちに、逆に私も色々と教えてもらってる感じ。
いろんなことをね。

すず いいね。なんかすごくみずきらしくて。

みずき そうなのかな。

すず うん、なんか今も、強くなれるよね。あの時の私たちのおかげで。

みずき はるか うん

谷山 まさはる うなずく


(みんな何かをそれぞれ思い出すようにして、お酒を飲んだり、何かをつまんだり。

すず なんか、、、大人になっちゃったね。
私たち。

はるか 本当だよね。

でもさ、意外と心は中学生のまんまなの。

谷山 分かる。成長してんだか、してねーんだか、わかんねーのよな。

すず そーそー。いくつになっても、こーなのかね笑。

はるか ね。ずっとこのままかも?笑

まさはる な!でもさ、いいよな。なんかこうやってさ、たまに集まって、あの頃の話なんかしちゃって。

いろいろ話聞いてたら、俺、思っちゃった!


、、、。みんな今でもそれぞれの場所で、スポットライトに当たってんのな。

みずき なにそれー??笑

まさはる あの日のつづきで、舞台に立ってるみたいだなって。もう、5人一緒の舞台ではないけど。

谷山 でもこうやって、友情出演する時もあるってかんじ?

はるか ふふ。なんかおもしろい。
ちょい役でもいいからさ、これからもたまにみんなの舞台に出演させてね。

すず そうだね。お互いにね。

みずき 変なのー。でもいいよね。

谷山 たしかに。

はるか みんながどこかにいると思うと、それだけで、心強いよね。

まさはる だよな。

みずき あらあら、お酒飲みながら、あごが少しずつあがっている子がいるけどね笑。

花岡、あご!(戸森先生のマネで

すず え!?あたし?!うっそー!


一同笑う 
少したわいもない話をする。


すず あ、そうそう、今度、私、仕事でリーダーやることになってね。

みんな、話、聞いてもらってもいい?



すず以外4人 それぞれの表情でうなづく。

すず 話し始める



幕下がる



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