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私がリサーチカンファレンスをやる理由

2022年、リサーチカンファレンスを立ち上げました。デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としており、初開催にも関わらずオンラインで2500名超の方にご参加いただきました。

今年はオフライン・オンラインでのハイブリッドで5/27に開催を予定しています。テーマは「SPREAD 広げる」。リサーチの領域を広げる、取り組みを周囲に広げる、実践者同士のつながりを広げる…そういった意味を込めています。サイトのデザインも広がりを感じてもらえるものになっているので、ぜひご覧ください。

このnoteでは、私の個人的な想いやカンファレンスに秘めた野望について語りたいと思います。

立ち上げた経緯

リサーチカンファレンスは、「デザインリサーチの教科書」の著者・木浦さんと「はじめてのUXリサーチ」の共著者・草野さんと共に始めました。

きっかけはリサーチのイベントを共同開催したこと。900名弱の方が参加くださって反響に驚くともに、「これはもうカンファレンスにできるんじゃない?」と盛り上がり、この木浦さんの一言から始まりました。

カンファレンスの思い出

では、なぜカンファレンスという形式なのか。私は前職時代に、SXSW、サービスデザイナーが集まるService Design Global Conference、リサーチャーのカンファレンスESOMARなどの海外カンファレンスに参加させてもらう機会がありました。

2017年のService Design Global Conferenceの様子

中でもService Design Global Conferenceはとても印象的で、「サービスデザインの仕事をしている人って、世界にはこんなにもたくさんいるのだ…!」と驚いたものです。海外ではサービスデザインで扱う領域がビジネスだけではなく行政やNPOなどに広がっており、社会課題に取り組んでいる事例にもとても刺激を受けました。

また、現地でお会いした業界の先輩方とはその後も交流が続いており、今でも研究やキャリアの相談に乗っていただいたりととてもお世話になっています。こうして、社外にコミュニティをつくることの大切さを教えてくれたのはカンファレンスという場でした。

このように、自分の視野を広げてくれる事例に出会えたり、新たなコミュニティに出会えるカンファレンスっていいなと思っていたのです。

リサーチコミュニティを作りたい

これからリサーチを始めたい人にとって、周囲の理解を得てリサーチの活動を広げ、文化を作っていくことは大変なことです。著書「はじめてのUXリサーチ」も、そうして一人でリサーチを頑張る人たちのメンターのような本でありたい。そういう気持ちから執筆しました。

出版後、数々の嬉しい感想もいただきましたが、やはり個別具体のお悩み全てに寄り添えるわけではありません。もちろん、私一人で解決できることもたかが知れています。それならば、会社や所属の枠組みを超えて、実践知を共有しあい、助け合えるようなリサーチコミュニティが作れないか?そう思うようになりました。

リサーチカンファレンスはボランティアスタッフによって運営しており、今年はなんと約50名もの方が参加してくれています。そしてこのスタッフこそが、まさにリサーチコミュニティの中心なのです。カンファレンス自体はたった1日のイベントですが、スタッフとともに創り上げるまでのプロセスで、新たなつながりが生まれていくのを日々感じています。

カンファレンス当日には参加者の皆さまも迎え入れ、さらにこのリサーチコミュニティが広がっていくことを期待しています。また、来年はスタッフとしてもっとコミュニティに深く関わってみたい!と思ってくれる方が出てくると嬉しいですね。

(ちなみに、スタッフ有志の部活なども生まれています。ボドゲ部では集まって楽しく遊んだり、自分たちでボドゲを作ったりもしています。カンファレンス当日、会場にて作ったボドゲをお披露目予定ですのでお楽しみに!)

ボドゲ部でワイワイしている様子

リサーチ実践者を援護射撃したい

リサーチャーだけではなく、デザイナー、プロダクトマネージャー、エンジニア、経営層など多様な方々に関心を持っていただくことも大事だと考えています。カンファレンスの盛り上がりを通じて、「リサーチって大事なんだな」「なるほど、こうやって活用できるんだな」とちょっと印象に残るだけでも、その後のリサーチ活動を応援してもらい、一緒に広げていく助けとなるはずです。

以前、西口一希さんの「顧客起点マーケティング」という本が話題になった時、「たった一人の"N1"を分析する」というキーワードがムーブメントとなり、UXリサーチの活動に追い風が吹いたのを覚えています。こうして外からの動きによって、社内の動きが改めて注目されたり、評価されたりということは往々にしてあるものです。

いろんな現場で格闘しているリサーチ実践者たちを援護射撃するようなイメージで、カンファレンスを通して応援していけたらと思っています。そのためにも、もっともっと多くの方にリサーチカンファレンスを知ってもらい、関心を持っていただく必要があると感じています。

業界全体のナレッジマネジメントをしたい

私は「情報を発信するところに情報が集まる」という考え方がとても好きです。これまでUXリサーチに関するnoteをせっせと書いてきたのも、人前で話すのはあまり得意ではありませんが、カンファレンスやセミナー等で登壇の機会をいただくとチャレンジしてきたのも、この考え方によるものです。

とはいえ、情報発信はなかなかハードルも高いですよね。(私自身、「目立ちたがり屋だと思われていそうだな…」「炎上したら嫌だな…」などビビりながら日々発信しています)

しかし、素晴らしい実践知があちこちで眠ったまま忘れ去られていくのはとてももったいない…!そこで、業界全体のナレッジマネジメントの仕組みとして、カンファレンスはとても有用なのではと考えています。登壇をきっかけに、色んな方に暗黙知を形式知化していただく。そして参加者が学び実践し、翌年の登壇者側になっていく。そんな循環が作れたら面白そうですよね。

そのためにも、登壇内容を資産として残すべく、ナレッジマネジメントとしてのレポート制作に注力しています。昨年もたくさんの方にご協力いただき、レポートやアーカイブ動画を残すことができました。見逃してしまった…!という方は、こちらのマガジンをご参照くださいね。

リサーチカンファレンス立ち上げの背景については、designingにも丁寧に取材いただきました。ぜひあわせてお読みください。

今年の見どころ

さて、そんなリサーチカンファレンスですが、今年の見どころとして個人的に楽しみにしている視点を3つ紹介します。

「組織」の広がり

登壇者の中には、リサーチ組織を立ち上げて数年立っているところもあれば、つい最近立ち上げたばかりの企業もあります。また、事業会社だけではなく、デザイン会社での取り組みもあります。多様なリサーチ組織のあり方を知り、比較してみるときっと気づきがあるはずです。

「領域」の広がり

ゲーム、製薬会社、NPOなど、リサーチが活かされる領域の広がりも感じていただけるはずです。意外な領域での実践事例でも、実はお悩みポイントは似ていたりするのかもしれません。そうした共通点や差異にぜひ着目していただきたいです。

「人類学」への広がり

今年は人類学者の比嘉さんをお迎えしています。人類学の視点から、もっと奥深いリサーチの広がりを伝えてくださることと思います。登壇概要から素敵ですね。

そこに何かわかりたいことがあるとき、私たちはリサーチをする。得られたデータを分析し、一旦そのリサーチは「完了」する。しかし実際のところ、単体のリサーチでは「わからなかったこと」や、そのときの分析からは「こぼれ落ちてしまったデータ」が多くあることを、リサーチャーは経験的に知っている。そして人類学においては、こうした側面こそが、私たちを次の調査/フィールドワークへと駆動し、その思考をより根源的な形で先へと押しすすめているように思う。リサーチを一回性のものとするのではなく、持続的な営みとして捉えることの意味と可能性について、またそこでのリサーチャーの経験について、みなさんとともに考えてみたい

最後に

今年もリサーチカンファレンスを無料で開催できるのは、スポンサーの皆さまのおかげです。リサーチコミュニティの仲間としてサポートくださり、改めて感謝申し上げます。

そして、このリサーチコミュニティの中心たるスタッフの皆さんが楽しんでくれていることを願っています。いつか振り返った時に、リサーチカンファレンスでの繋がりから色んなことが始まったね、となっていたら嬉しいです。

さて、こうして多くの方のおかげで開催できるリサーチカンファレンス。オンラインでの参加は引き続き募集しておりますので、ぜひお申し込みください!



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