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かしこくて疎まれる女の子の話 と 勇気ある男の子が賢者に会う話 女性性と男性性の統合1

● かしこくて疎まれる女の子の話

あるところに賢くて繊細でものをわかりすぎる女の子がいました。その子は賢いがゆえに親からは邪険に扱われ、大人からは疎まれました。
この世界では相手の本当の気持ちや真実を指摘するといやがられるものなのです。
ですから、女の子はたいていは森の中で過ごしました。森でならばイヤな顔をする大人やうるさく邪魔をしてくる兄弟もいません。女の子は星や水や大地、動物や植物とおしゃべりして過ごして成長していきました。

時がたって女の子は賢くて繊細でものがわかりすぎる綺麗な女の子になりました。女の子はやっぱり世間には馴染めません。本当のことばかり話す女の子の話す言葉は、ここでは違う国の言葉のように響くのです。みな、首を傾げて「君のいうことは分からないよ」と言ったり、「ここではそんな言葉は使わないんだ」と叱ります。
だから女の子は話さなくなりました。
本当の言葉が伝わる人が私に敬意を持って耳を傾けなければ私は口を開くことはない。女の子は心にそう決めました。

○ 勇気ある男の子が賢者に会う話

あるところに勇気があって熱意のある純粋な男の子がいました。その子はみんなの人気者でいつも人に囲まれています。男の子が思いつく遊びや催し物にみんなが参加したがります。
大人たちも男の子には期待していました。彼が立派なリーダーになってみんなを導くこと、お家をちゃんと継いでくれること、老人になった人たちも養ってくれること、自分たちが果たせなかった課題を解決してくれることが、彼ならきっと出来るんだといいます。
男の子はイヤな気持ちと嬉しい気持ちが混ざり合った不思議な気持ちになりました。
「そんなにたくさんのことを僕が出来るの?」
「出来るとも!」大人たちは言います。「君なら私たちを救ってくれる」
男の子は大人たちは自分ではそれが出来ないかわいそうな人たちなんだと思いました。
「わかった。やってみるよ」
「いい子だ」
大人たちはかわるがわる男の子を撫で、甘いお菓子を与えました。金の紙でできたメダルや王冠も被せました。
「君は本当にいい子だ! 立派なリーダーになるだろう」

男の子は意気揚々と胸を張って道を歩いていきます。
道の端っこにはボロ切れをまとった老人がうずくまっていました。老人が男の子に声をかけます。
「坊や、いいことを教えてあげよう」
「どんなこと?」
男の子は頭に載せた紙の王冠を直しながら尋ねました。
「坊やには対になる女の子がいる。その子の話を聞けるようになるまで君は決して成功することはないだろう」
「何だって?」
ボロ切れを脱ぎ捨てた老人が立ち上がると山のように大きく背が伸びていきます。男の子は紙の王冠を胸元でぎゅっと握り締めました。
「だが君はわからないだろう。失敗するだろう。女の子を探し求めるよりも先に愚かな世間の期待に応えてしまうから」
見上げる首が痛いくらい背が伸びた老人はいつの間にか厳しい顔をした銀髪の賢い人になっていました。
「おばさん、誰?」
男の子は震えながら言いました。ひざまづいた銀髪の賢い人は男の子の頬を撫でます。男の子の顔をじっと見つめたあと、賢い人はため息をつきます。
「私の言ったことを忘れないように。君が道を間違えた時、きっと役に立つ」
そうしてパッと風に乗って姿を消しました。
残された男の子はクシャクシャになった紙の王冠を片手に呆然としていました。
対になる女の子? その子の話を聞く? きっと失敗する……。男の子は悲しくなって泣き出しました。泣きながら家に帰りました。

次へ続く



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