対になる女の子を探す男の子の話
勇気があって純粋な男の子は対になる女の子を探し始めました。でもいったい対になる女の子はどこにいるんでしょうか?
物乞いから姿を変えた銀髪の賢者にもう一度会えば教えてもらえるかもしれない。そう思った男の子は道端の物乞いの顔をいちいち確かめます。
物乞いは埃まみれで膝に穴が空いたズボンを履いた男の子を、かつての国のリーダーだとは思わず、新入りの乞食がきたのだと思いました。
「おい、新入り。そんなに元気にウロウロしてないで哀れっぽくうずくまってろ」
「おお! うずくまればいいのか」
男の子は嬉しそうに笑うと直接道の端にうずくまります。
「おじさん、僕の対になる女の子を知りませんか?」
古株の物乞いは男の子のことを少し頭が足りないのだと思いました。男の子は道行く人を見るキラキラした瞳で見つめます。古株の物乞いは故郷に置いてきた末の息子を思い出しました。
「新入り、十字路にあるゴミ捨て場からズダ袋を拾ってきて尻の下に引け。地面に直に座ってると大地の気で体が悪くなるぞ」
「ご親切にどうもありがとう!」
男の子は意気揚々と十字路まで歩いて行き、ゴミ捨て場を漁ります。
「なんだ、直せば使えそうなものがいろいろあるじゃないか」
男の子は底が抜けた背負い籠を捨てられた苗の袋を裂いて作った紐で手早く編み直しました。
両手にたくさんのリンゴを抱えたお婆さんが通りかかり、男の子が手に持った背負い籠を見て声を上げました。
「なんとまあ、ちょうどいい籠があったもんだよ!」
「お婆さん、どうぞ使ってください」
男の子は籠を差し出します。お婆さんは艶々光るリンゴを背負い籠に入れ、リンゴ3個を男の子に寄越しました。「お礼だよ、食べとくれ」
男の子はリンゴを受け取りながら聞きました。「お婆さん、僕の対になる女の子を知りませんか?」
お婆さんは首を傾げます。
「知らないねえ。でもあんたに似た女の子なら市場で見たことがある」
「ありがとう! 市場へ行ってみます」
お婆さんは男の子を引き止めます。「ちょっとあんた、そんな汚い格好で市場へ行くつもりかい? 身綺麗にしなきゃ追んだされるよ」
男の子は自分の格好を見下ろします。確かに埃だらけで穴が空き、おまけに臭いもします。ここ何日も夢中で女の子を探していて格好のことなど構っていませんでした。
「わたしのリンゴを運んでくれるなら、石鹸とお湯を使わせてあげてもいいよ」
お婆さんは言いました。男の子は喜んでリンゴを運びました。
服も体も綺麗にした男の子は市場へ向かいます。
市場は以前のような活気はありません。ですがそれでも人々は色の悪い果物を売り、欠けた壺を売り、小石混じりの米を売ります。艶々のリンゴを持った男の子は対になる女の子がいないか探して歩きます。
「おい、君の持ってるリンゴを譲ってくれないか? 病気の妹の好物なんだ」
身なりの良い紳士が男の子に声をかけました。男の子は快く頷くとリンゴを渡します。そして紳士に尋ねました。
「僕の対になる女の子を知りませんか?」
紳士は首を傾げます。「残念ながら私は知らないが、東の果ての森に住む賢い人ならご存知だろう」
「東の果ての森?」
「川沿いに何週間も歩いて行くと着く森だ。そこに住む賢い人に運良く会えれば良きアドバイスをもらえるだろう」
男の子は東の果ての森を目指して歩き出しました。何日かかろうが、どれだけ足が痛くなろうが対になる女の子の手がかりを得られるのなら行かなくてはなりません。
途中山賊に襲われる裕福な商人を助けることになりました。「娘の婿にならないか?君のような人に財産を継いで欲しい」と請われましたが男の子は逃げ出しました。人食いクマが出る里では里の人と協力して罠を仕掛けて退治しました。隣の国へ商品を運ぶ商隊に護衛として雇われたときも仲間になれと誘われましたが男の子は首を横に振りました。
「何を置いても僕は対になる女の子に会わなくちゃいけないんだ」
男の子の星のように輝く瞳を見て護衛仲間は肩をすくめました。
「お前にはその夢が本当に大事なんだな」
「会わなくちゃいけない。どこかに彼女がいるのは小さい頃からわかっていた。まず彼女を探さなくてはいけなかった。でも僕は周りの人に必要とされる誘惑に抗えなかった」
男の子は旅を続けます。東の果ての森へ行かなくてはなりません。
続く。
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