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映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』を見て

森山直太朗と聞いて「ああ、さくらの」と思い浮かべる人は少なくないと思う。

日本テレビで放送中のドラマ『同期のサクラ』にて、今回新たにレコーディングされた『さくら(二〇一九)』が主題歌として使われている。これがまたイイところで流れてくるんだ。水曜の夜、まだまだ週の真ん中だっていうのに、泣かせにかかってくる。

そこで、改めて森山直太朗という人の歌声の素晴らしさを感じてくれている人がいたら、めちゃくちゃ嬉しい。高校生の時から、かれこれ15年も追いかけている一ファンとして。

そんな彼が、昨年10月から、元号をまたいで令和元年6月まで、全国を回った全51公演のコンサートツアー『人間の森』。この舞台裏を長期密着の中で捕らえられた映像をドキュメンタリーとして映画にしたのが『森山直太朗 人間の森をぬけて』。

※多少のネタバレを含むので、事前情報を一切なく見たい方はご注意ください。


今回の映画を語る上で欠かせない人物が森山直太朗ともう一人、詩人の御徒町凧氏である。高校時代からの友人であり、楽曲の共作者、またプロデュースや演出も担当しており今回の人間の森ツアーも彼が演出をしている。
現在はyoutuber オカチャンネルとして毎日詩の朗読なんかも配信してます。映画の中ではネタみたいに言われてるけども笑

それで、まあこのオカちゃん(ファンの間では御徒町氏はこう呼ばれている)が言う訳です。今回の人間の森は「詩と音楽と人間が、ただ舞台にあるようなものにしたい」と。

あー、うん。あ、音楽と詩と、人間ね。うんうん。わかるわかる......って、わかんねーよ!

思わずノリ突っ込みたくもなるくらい、曖昧でおぼろげなものですよね。これ、目指そうと言われても途方にくれると思う。だって正解なんて誰も、御徒町本人だってわからないのだから。イメージとして共通したものを掴んでるような部分もあったのかもしれないけど、非常に感覚的なものだから、そもそもわかるわからないの話でもないのかもしれない。

確かの特殊なツアーだったと思う。始まりからして、開演時間の少し前からバンドメンバーがポツリポツリと舞台上に表れて、それぞれの楽器を鳴らしてる。でもまだ開演はしていないから客席も明るいし、場内もざわめいているんだけれども、それが次第に一つの音の塊のようになって、気づいたら直太朗も登場して、ライブが始まっているような。それで、毎回違うんだよね。歌もトークも演奏も。もちろんセットリストはあるんだけどね。でも違う。私、数えたら7回行ってたけど、やっぱり違った。会場の雰囲気とか季節とか諸々。

得体の知れない何かを目指して、でもたどり着けない直太朗の苦悩と、もっとできるはずだとハッパをかける御徒町、そしてぶつかり合う二人。とある日のリハーサルシーンで二人が言い合う場面があるんだけど、別に怒鳴りあうとかそういうのではないけど、本当に見てると居心地が悪いというか居たたまれないというか、ヒリヒリします。とっても。

私たちには、楽しいライブの時間を提供してくれている裏側で、表現する人たちがどれだけ苦しんでいるかっていうのを、今回まざまざと見せつけられた気がしました。

映画の中で、今回目指すもののキーワードとして「主体性」という言葉がちょこちょこ出てくる。舞台上で、お前はどうしたいのか。お前は何者なのか。

途中、さらりと触れられているけど、音楽一家の中で育ち、母親は森山良子という偉大な歌い手で、忙しくて。困らせちゃいけない、こうしなきゃいけない、いつも誰かの期待に応えてきた人生だった。で、幸か不幸か、その期待に応えられるだけの才能と努力が、直太朗にはあったんだよね。

冒頭、人間の森ツアーを振り返るシーンの中で、「アイツ(御徒町)の期待に応えられなかった」と直太朗が言うんだけど。その時からずっと「もう期待に応えなくていいよ」って、一ファンの立場から思ってた。

だから、人間の森を抜けて、森山直太朗がたどり着いた一つの境地を、私は心から応援したい。もしかしたら、今までと変わってしまうところも出てくるかも知れないけど。でも、こっちはこっちで主体性持って楽しむからさ、大丈夫だよと言いたい。

とはいえ、それでもみんなの期待に応える稀代のエンターテイナー森山直太朗という側面も、私はあると思ってるけど笑


ごちゃごちゃ色々と書いてきたんですが、一番はなんと言っても彼の歌ですよ。もう本当、歌がうまい。それ聞くだけで価値のある映画です。ぜひ生のライブも見に行って欲しいけど、映画館の音響でこの歌声を何度も体感できるのはなかなかないことですよ。

私が今回見に行ったとき、上映後に本人のトークイベントがあったんですけど、その時のインタビュアーが音楽と人の樋口靖幸さん。今まで何度も直太朗のインタビューをしてくれてて、二人の信頼関係と相性の良さが伝わってくるトークだったな。その中で樋口さんが言っていた「あなたは音楽でケリをつける人だ」という言葉は首がもげるほど頷いた。

結局そうなのだ。家のベランダでずっと鬱々として(直太朗談)、ああでもないこうでもないと悩む面倒臭い人(樋口さん談)だけれど、最後は音楽でぜんぶ語ってくのが森山直太朗という人なのだ。

蓄えた筋肉も身につけた鎧も手にした武器も、全部ぜんぶ、置いて、脱ぎ捨て、手放して。軽やかに行ってくれ。歌ってくれ。いつまでも。



樋口さんのインタビューも事前に読むとよくわかるかもなので、ここまで飛ばして読んだ方もこっちは読んでみてください。



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