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埼玉県議会の虐待禁止条例改正(案)についてどう思いますか?~子どもが育つまちには、禁止より支援が必要だ~

この記事でお伝えしたいこと

埼玉県議会の虐待禁止条例の改正案では、お留守番などを禁止する禁止事項が決められようとしています。
そもそも、親が子どもを一人にしなければならない環境改善が必要なのに、解が見えません。また子どもの成長段階によっては一人でいられる環境が必要なのに、その余白を無くしかねません。子育てしやすいまちづくりに必要なのは、子育て支援の視点です。
他の自治体のことですが、波及が怖いので発信することにしました。


埼玉県議会の虐待禁止条例改正(案)と問題点(こんなに待機学童がいて大丈夫??)

子どもだけでのお留守番などを禁止する埼玉県虐待禁止条例の改正(案)が県議会に提出されました(原文は「こちら」)。
こちら」の記事を見ると以下のようなことも禁止(9歳未満は義務、9~12歳未満は努力義務)されるようです。
・子ども同志で公園で遊ばせる
・子どもだけで登下校させる
・未成年の高校生に預けて買い物に出かける 等
罰則は無いようですが、学童年齢を含んでいるため、働きながら子育てをされる親御さんや、シングル家庭などが抱える問題がイメージできているのか疑問を感じます。

禁止事項が青色(北風政策)、支援がオレンジ(太陽政策)

待機児童対策についての記述(オレンジ)があるので、厚労省の放課後健全育成事業の実施状況「こちら」をみると、埼玉県は待機児童は1,554人(ワースト2位)でした。受け皿の責任を持つのは市町村ですが、県全域で禁止して大丈夫?と心配になります。

令和4年(2022年) 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(令和4年(2022年)5月1日現在)「こちら

現実問題、支援の方が100倍必要だ

当事者の視点①:子どもが学童に行きたくなくても、無理やり行かせるのか?

流山市は小学校3年生まで待機学童を作らない体制が整備されており、量の問題はクリアできているものの、「学童に行きたくない」と主張するお子さんは小学1年生からいるのが現実です。下表は流山市のとある学童の学年別の所属割合ですが、学年が上がる度に減っていくのは全学童に共通の傾向です。

 流山市のとある学童の所属割合:学年が上がる毎に減っていく(待機児童0)


放課後は自由な時間を担保することも健全育成の観点でも重要であることから、そういうお子さんに対しては、一人でいられる(鍵をなくさない、火の扱いを間違わない、宿題ができる等)ようサポートをし、自立を促していくことも重要です。しかしこの条例は、その可能性を絶つことになります。長期休み期間もあります。受け皿がない場合はもちろんのこと、たとえあったとしても毎日学童に行かせなければならない状況を行政が先導することは健全ではありません。

当事者の視点②:不登校のお子さんは?

 子どもが学校に行きたくないという背景には、本人が言語化できない「いじめ」などの理由も潜んでいることから、登校を強要しない寄り添いが求められます。
 不登校児童生徒が右肩上がりに増え、最新の調査(2022年度実績)では過去最高数になっています。学童が開所時間ではない昼間の時間をどう乗り切ればよいか、困る親御さんもたくさん発生するでしょう。

さらに踏み込んで申し上げれば、子ども自身が精神的な回復が必要になる時期、「ゆったりとした寄り添い」を求められるのに、家庭の中で子どもを始終見守ることを行政が強要すれば、監視を誘発しかねません。つまり子どもにストレスを与える状況を作りかねないのです。

当事者の視点③:シングル家庭は?

 子育ても家事も仕事も、場合によっては一人ですべてこなさなければならないシングル家庭では、例えば買い物に出なければならない状況も発生するでしょう。ベビーシッターなど子育て支援が手軽に利用できる日本でもない環境で、さらに、コロナで地域の助け合いがし難くなった環境で、日常をどのように乗り越えていけばよいでしょうか。

当事者の視点④:経済的に困難を抱えているご家庭は?

 経済的に困難な状況では、ダブルワーク、トリプルワークと変則的な時間で仕事をされる場合もあると思います。
 また経済的困難の背景が、親御さんの健康上の理由があるかもしれません。通院するときはどうすればよいでしょうか。
 メンタルダウンもあるかもしれません。メンタルダウンは本人が気づかずに進行する場合も多い(出産後は産後うつのリスクがホルモンの関係で高まるため、誰でもメンタルダウンする可能性がある)。メンタルダウンがきかっけで結果的にネグレクトに発展するとしたら、それを未然に防ぐために何が必要でしょうか。
 禁止・通報策だけで問題を解決できるでしょうか。

必要なのは、子育て支援の具体策

 禁止「〇〇してはならない」という社会の目が、助けを求めたくても求められない状況を作りはしないか。市民の方からは「危険な状況を家庭に押し込め、逆に深刻なケースが隠されてしまうのではという恐怖すら感じます」という声もいただきました。
 大阪市では「子育てを追いつめて虐待リスクを高めるのではなく、子育てを応援して予防しよう」と家事・育児訪問支援事業を始めたようです(辻由起子氏の投稿から)。そうです、必要なのは子育て支援の具体策です。

目的は以下

子育てに対して不安や負担を抱えており、継続的な見守り支援が必要な家庭やヤングケアラー等のいる家庭の居宅に訪問支援員を派遣し、家事・育児を支援する。その後、支援の進捗管理を行い、既存の福祉サービスにつなげることなどにより、虐待リスク等の高まりを未然に防止し、既に発生しているネグレクト等の虐待事案の解消とヤングケアラーの負担の軽減を図る。

辻由起子氏の投稿「こちら

詳細は https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000605048.html

さらに大阪市は子どもたちへの教育にも力を入れています。禁止する前にやれることは沢山ある。

私は議員をどう両立してきたのか?

 私も、子どもが学校に足が向かない時期(小3、4の一部)子どもを一人を自宅に残し登庁する日がありました。
 小1の時から、私の仕事を理解していただける民間学童と一緒に育てました。すると自然と身の回りのことは一通りできるようになりました。地域で通える場があり、ほどよい距離で見守っていただける地域の方がいました。綱渡りですが、多くの方々に助けられ、学校に行けない状況を乗り切ることができました。
 私は恵まれていたと思います。当時のことを、子どもと話すことがありますが、乗り越えられた経験が成長の機会なっています。
 禁止するだけでは子どもは育ちません。また親だけが関われば育つわけでもありません。こんな保護者の責任だけを重くする条例が制定されたら、いろんな方々と手をつないでいけません。いろんな人の手を借りて多様な経験をして子どもは自立するし、親も一緒に成長していくものなのです。

この改正(案)の原点と目指したい社会は?

 県管轄である警察が児童虐待の末に命を失う時点の子どもが置かれた現場を詳細に知ることができるので、そこが原点となっているのかもしれません。児童が死に至る以前のプロセス「ネグレクト的に子どもだけが自宅に放置された状況」や「車に子どもを放置してしまった状況」に直面することから、その状況を禁止し通報されるようにすれば、警察が介入し防止できるのでは?という理屈なのだ思います。
 しかし、多くの子どもは「健全にお留守番をしている」、もしくは「せざるを得ない」状況なのに、その視点が欠けているがゆえに子育て当事者の間で不安の声が広がるのだと思います。
千葉県では絶対にやめていただきたいです。

児童虐待防止には当事者・現場の視点を

政治は、様々な視点から「あるべき理想」を主張し、議論しながらよりよい方向にしていくものです。今回の提案には当事者の視点が薄いと感じます。より多くの方が議論に参画いただき、日本が子どもにとってよい環境になることを望みます。


応援頂けると、他自治体への視察や研修費、専門家にアドバイスを求める、同じ思いを持つ議員さんに直接会いに行き対談する等、活動量を増やすことが出来ます。まっとうな政治を行うためのサポートよろしくお願いいたします。