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目を開けるとそこは別の世界

初めて夜行バスを利用したのは、大学入学の直前。長かった浪人生活が終わり、受験勉強が一区切りしたので、どこかに出かけたいと強く思った。どのように決まったかは全然覚えていない。私たちは夜行バスに乗り、大阪へと向かった。

満席なのに誰一人話さないバスの中。何も考えずに手配した、普通の4列シートに座り、窓の方へよりかかった。エンジンの揺れが心地よく、すぐに眠りにつく。

ただ、問題なのは眠りについた後だ。座って長時間寝るなんてその時の私には経験が無く、味わったこともない首の痛みと、窓からもれる外の空気が寒すぎて何度も目を覚まし、けれどそのたびに眠気が襲ってはすぐに眠る。そんなバスの中を過ごした。お布団でしっかり眠りたい。何度そう思ったことか。

後悔を抱えて移動した夜行バスも、到着のアナウンスまで意地でも眠り続け、ふと目を覚ますといつもとは違う場所にいた。それが、妙に嬉しかったのを覚えている。街がまだ目を覚まさない、あの静けさ。ぽつりと降りて、新しい1日が始まる新鮮さ。目を開けると違う世界にいるって、なんてロマンチックなんだろう。

4列シートはあまりにも辛いと学び、それからは夜行バス専用のシートがあるものだけを選んだ。3列で幅が広く、ギリギリまで背もたれを倒せるのでいくらか快適になったので、行動範囲がうんと広がった。大学入学前のあの日を境に、私は日本のどこでも、世界のどこでも、夜行バスを使っていくようになった。

バス移動は好きなものの1つだ。街が移り変わる様子をぼんやり眺めたり、転寝したら全く違う場所にいたり。特に夜行バスは、夜から朝へ、何かがリセットされたような気分になるから格別だ。この乗り物が、私を別の世界へ連れて行ってくれるんだなぁと思うと、ちょっと安心するような、なんだかワクワクするような気分になる。


3列シートでもだんだん身体が大変になってきたからなぁ。ベッドのあるバスが今後現れてくれることを、ひっそりと願っています。

テーマ:夜行バスで行きます

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