笑いに変える魔法の言葉

「彼氏に、元カノの名前と間違われたんだけど」

とある昼休みの食堂で投下された爆弾発言。カレーライスをふたくち口に運んだ頃だった。長いテーブルに座っていた5人が、一気にガタンと椅子を動かした。

「え、ヤバいねマジで」

「それはない」

「最悪最低」

彼氏への悪口が矢継ぎ早に飛び交う。当の本人は、もくもくとお昼ご飯をほおばっている。怒りきれていないような、ちょっと戸惑いがあるような、何か言いたそうで出てこない口をしながら。

悪口は気が済むまで続くかと思った。しかしちょっとの沈黙のあと、とある一人のセリフでその場に笑いが始まった。

「でも、逆に気持ちいいね」

逆に…? 気持ちいい…?

その子曰く「堂々と元カノの名前で呼び間違えるなんて、包み隠さないその様子がうざい通りこして気持ちいい」というのだ。どこをどう解釈して“気持ちいい”のかさっぱりわからなかったけれど、いつの間にか話題は「気持ちいい」の意味に移っていって、「ヤバいねマジで」の対象はその子に移っていった。目をやると、もくもくほおばっていたあの子もケラケラと笑っている。

ぶつけどころのない悪口大会が、「逆に」の手法で笑い話に変わった瞬間だった。

爆弾発言のあの子には、一緒に怒ってほしい気持ちもあったかもしれない。それとも、心の中に抱えていたモヤモヤを話したかっただけの可能性もある。どちらにしろ一緒に怒っても解決しない、男女間での繊細な問題だ。それならば、「逆に」で笑いに変えるのは、ベストな手段じゃなかろうか。

この手法、『スパルタ婚活塾』にもありました。

気になる言葉、魅力的な言葉を集める共同マガジン「コトバツムギ」。共同運営者は以前ライティングスクールで一緒に学んだスミヨ。さん。月~金までのうち、私は月・木を担当しています。

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