見出し画像

文章に動きをつけるオノマトペ

私の仕事のひとつに、4コマ漫画のディレクションがある。ひらがな、カタカナを覚えた海外の人向けに、やさしい日本語で書かれた漫画だ。

ネタやイラストは日本語教師の方が担当していて、実際の授業で生徒から出た質問や間違いをもとに描いている。その中で上がった題材のひとつに、「日本語はオノマトペが多くて難しい」というものがあった。

粘り気があるものが“もちもち”と表現するとか、雷の音と、大きな何かを転がすときの音は違うのに、同じ“ゴロゴロ”で表せるとか、「なんで?」と聞かれるとうまく答えられない。けれど認識として日本人がみんな持っているのがオノマトペだ。そして、そのオノマトペで独特な文章表現がかなうこともある。

分厚い粘膜がきゅっと絞られて声はひゅんと肺に戻る。
(アパートメント『きみに生きてほしいから、きみの命に理由をつけない』より)

この文章にオノマトペがなかったら。

「分厚い鼓膜が絞られて、声は肺に戻る」だったら、記憶に残ることなく読み流していただろう。

鼓膜がきゅっと絞られるから、意識よりも本能がそうしたように思える。声がひゅんと肺に戻るから、とっさの出来事のような、行動に勢いがみられる。文章に色をつけ、想像を巡らせてくれるのがオノマトペなのだろう。

誰もが明確にわかるよう、具体的に説明することは、もしかしたら日本人は苦手なのかもしれないな、と思った。だから、雰囲気を伝えるオノマトペを多用して、なんとなくの共通認識で言葉をつないでいるのかもしれない。


気になる言葉、魅力的な言葉を集める共同マガジン「コトバツムギ」。共同運営者は以前ライティングスクールで一緒に学んだスミヨ。さん。月~金までのうち、私は月・木を担当しています。


去年の毎日note


最後までありがとうございます!いただいたサポートは、元気がない時のご褒美代にします。