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ロックダウン(都市封鎖)中のニューヨークから、ご報告。

新型コロナウイルスが人類に脅威を振るう中、昨年6月から一年間の予定で始まった私たち夫婦の世界一周の旅は、道半ばで静かに終わりを迎えることになりました。

一生に一度の卒業式や入学式、結婚式、長年かけて準備をしてきたイベントや留学…
世界中の人がそれぞれの人生にとって大切なことを諦め、我慢し、自粛している中で、旅なんて言っている場合じゃない。

…そんなこと、頭だけじゃなくて全身で理解しているつもりでも、私にとってこれまでの半生をかけたつもりの一年の旅路の途中だったので、ショックで悲しくてしばらく脱力していました。


物心がついた頃からの夢だった世界一周の旅。

24歳でがんになった時に、死ぬ前にどうしても行っておきたかったと後悔して、10年越しでようやく主治医に「もう行っても大丈夫」とお墨付きをもらえた年に結婚できることになった夫が一緒に行こうと言ってくれる奇跡が起きて、大好きだった12年勤めた会社を辞めて、会社員をしながら立ち上げたNPOの運営を託して、たくさんのものを日本に残して、昨年6月、出発しました。

世界を一年間かけてまわると決め、途中で一時帰国したら世界一周と思えない気がして、そのこだわりも含めて後悔したくないと、「この一年だけはワガママを言わせてもらってごめんなさい」と、ほかのどんな予定よりも優先させてもらって、周りの人たちにご迷惑としわ寄せをかけながら、ものすごく力を貸してもらってきました。
自らが言い出しっぺのカンファレンスも今年は無理言って遠隔でできる範囲の参加にさせてもらったし、ありがたすぎるお仕事の依頼も遠隔でできないものは全て見送らせてもらってきたし、夫の一時帰国も北欧で見送って、世界のどこにも足を向けて寝られないほど世界中の人たちに大変大変お世話になりながら旅を続けてきました。

この旅は単なる趣味の旅行や新婚旅行のつもりではなく、一連で同じ時期の世界を訪れることで見える課題、トレンドやアイディアから、できることを私たちなりに全力で見つけ、日本に持ち帰って活かしたいという目標があったので、時に会社員として仕事をしていた時以上に苦しい思いをしながら、計画を練り、アポを取り、進んでいました。

時期についても、がんが10年経って完治したとみなされたタイミングだっただけでなく、ただでさえがん治療を経験していてどうなるかわからない私の出産の可能性を考えると、もうタイムリミットに近い、というか、もしかしたら過ぎているかもしれない。

そんなギリギリのタイミングで覚悟を決めて始めた旅が途中で終わるのは、自分たちか家族の身が危険に晒されたときだけだと思っていたのですが、まさかこんな風に人類が危険に晒されるときがくるなるなんて、つい最近までほんの一ミリも想像できませんでした。

しかも、約9ヶ月かけてアジア、ヨーロッパ、アフリカ、南米、中米を巡り終え、3月からは北米、5月からはオセアニアと世界の中でも先進的な事例や日本に持ち帰れるアイデアが多いだろうと期待して、友人知人からもたくさんアドバイスやご紹介をいただいていた大陸を巡る予定でした。

それが、世界一周を完遂して帰国するつもりだった6月までもう少しで手が届きそうなタイミングで、世界情勢が、コロナウイルスによってみるみるうちに変化していきました。

振り返って自らの甘さを猛反省しているのですが、中米からアメリカに入った頃は、まだ「アジア人が差別される」というリスクを多少感じるくらいでした。

でも、一気に波は押し寄せてきました。

その波にのるかのように、3月15日、アメリカのフロリダからニューヨークに着いた頃から私は体調を崩し、咳が止まらず、悪寒がして熱っぽくなりました。

本当は、ニューヨークを経由して翌々日には妹家族の暮らすカナダのトロントに行き、落ち着くまでしばらく一緒に暮らさせてもらう計画を立てていました。

でも、体調不良のまま移動して感染源になるわけにはいかず、リスクを限りなく減らしてから…と延期してニューヨークのホテルにこもりながら療養をすることに決め、まずは加入していた海外旅行保険の提携病院に相談してみたところ、あっという間にコロナウイルス検査を受けることになりました。

そして、検査を受けたその当日(3月18日)、カナダのトルドー首相が米国との国境を封鎖を発表。
私たちが世界一周に旅立つ2ヶ月前にカナダに出発した妹家族との念願の再会は叶わなくなってしまいました。

検査から2日後(3月20日)にはニューヨークのクオモ知事がその2日後(3月22日)からのロックダウン(都市封鎖)を発表し、ついにニューヨークで会いたかった人たちに誰とも会わぬまま、どこにも行かぬまま、街はロックダウン。
ホテルの窓から見える人がみるみるうちに激減し、急激に感染者数、死者数が増えていく中で検査結果を待つ日々は、地獄のようでした。

薬を飲んでひたすら眠り、起きてもコロナのニュースしか目に入らず、また眠り。
ロックダウン前から夫も誰とも会わずにせっせと食料を調達して看病をしてくれたおかげで体調は日に日に回復していったのですが、気づいたら20時間近く眠り続けた日もあって、日にちの感覚すらなくなっていました。

検査をしてから5日後(3月23日)、検査をしてくれた女医さんから電話がありました。
結果は「陰性」で、ひとまずほっとしました。

今後の行動について相談すると、そもそもロックダウンしているニューヨーク、そのルールを守った範囲で散歩したりスーパーに行くことはもう問題ないということでしたが、飛行機に乗るのはまだ早いということで、ニューヨークに着いた日からほとんどの時間をホテルの部屋に引きこもることまもなく2週間になります。

今はもう既に旅の最中という感覚ではなく、旅は休止して、ここで静かに暮らしている感覚です。

東京の自宅は5月末まで貸していて戻れない中、同じ場所に引きこもる生活を送る分にはどこにいてもあまり変わらず、今は移動する方が周りにとっても自分たちにとってもリスクだと感じるので、もうしばらくの間ここにいて、頃合いを見計らって日本に帰国することになりそうです。
(またそこから2週間の隔離生活なので、かなりの時間、引きこもりになります。)

世界一周中のはずだったのに世界がどんどん閉じていく異様な日々。
この数ヶ月の間に訪れたばかりの国々が様変わりし、悲痛の声が聞こえてくる。

最初は本当に受け入れ難くて心身ともに弱りまくっていたのですが、日を追うごとに、私の心境は変化していきました。

そして今はホテルに引きこもりながらも、毎日飛び回って旅をしていたときとはまた違う角度で世界が見える、学べる、とても貴重な機会だと思えています。

こんなに世界が共通の敵に挑んでいることはないし、こんなに世界のリーダーのリーダーシップのあり方を見られ、考えさせられることもなかなかない。
世界一周を始めるまではどうしても情報の入手先が日本語ばかりだったのですが、旅をする中で嫌でも英語の情報も読むようになったら、そこにはものすごく広い世界が広がっていました。
一方で、これまで携わってきた日本のメディアのあり方や課題が怖いくらい見えるようにもなりました。

そして、食料品など生活に必要なものの買い物と運動と医療を受ける目的以外で外出できない生活は、一見不自由ではあるけれども、誘惑が一切ないので、これまでの人生で一番考えごとやリサーチ、企画や読書に集中できて、夢中になっています。

そして、運動するための外出はOKな上、美味しいレストランが全て閉まっているので、世界一周で増えすぎた体重を元に戻すダイエットにも超最適。
そう気付いたのは今日なのですが、思い立ったが吉日、ジョギングをして、とりあえず空腹を満たするためだけの惰性のデリバリーやテイクアウトはやめて、自炊してダイエットモードに入りました。
自宅にいても料理を全然しなかった私がキッチンのないホテルで自炊するため、今日は気合を入れてスーパーで電気鍋まで買ってしまいましたが、それでも自炊した方が圧倒的に健康的だし節約になることもわかりました。
(ちなみに今夜の夕食は、ゆでたブロッコリーとアスパラガスとゆで卵で、これを堂々と「自炊」と言っていいのかは微妙なところです。)

とにかく、「いつか」と思っていたことをやるなら今でしょ!という時間。

読みたい本が山のようにあるし、見たい動画もたくさんあるし、世界一周中とり続けたメモや撮り溜めっぱなしになっている動画や写真も整理しなくちゃだし、これからやろうとしていることもちゃんとまとめたいし…
長らくそう思っていましたが、このまま旅を続けて世界一周を完遂して帰国していたら、帰国する予定だった6月以降すでに日本でたくさんの仕事や予定を詰めてしまっていたので(多くは中止や延期になってしまうと思いますが…)、もれなく次の生活に爆走して忙殺されて、そのままになっていたこと間違いなし。

12年前の闘病の時以降一度も止まることをしてこなかった私にはこういう時間が必要だったのだと気づかせてもらえて、今はありがたみさえ感じて驚くほど心穏やかです。

検査の結果が出た日、初めて外に散歩に出ると、ニューヨークの桜が咲き誇ってお日さまにキラキラと照らされていました。
そこで思い出して噛み締めた言葉があります。

「何も咲かない寒い日は下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」

高橋尚子選手が恩師から贈られて座右の銘にしているという、私も大好きな言葉。

世界中の人が一致団結して見えない敵と戦い、困難を乗り越え、人々の生き方を変え、世界を発展させ、新たな歴史をつくっていく…
そんな先の見えないものすごい変化の時代を生き抜くには悔しい思いもするけれど、しばらくは前に進もうとしたり飛び回ったりしたりするのではなく、下へ下へと根を伸ばす時間にしたいと思っています。


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認定NPO法人マギーズ東京共同代表。 2006年〜2018年、日本テレビ記者(兼)キャスター。 2019年2月、著書「もしすべてのことに意味があるなら(ダイヤモンド社)」、10月「7つの習慣 鈴木美穂ver.(FCE社)」出版。 2019年6月〜、夫と一年間の世界一周へ。