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ジジババ軍団、大志を抱け!

ジジババ軍団、大志を抱け!

作:杉本未歩

【あらすじ】

 市民劇団ジジババ軍団の劇団員2人と担当の市職員が、次回作の台本を書くために大阪へ旅に出た。新幹線の中でもおかまいなしに自由に過ごす3人。はたしてどんな旅になるのか。
 半分本当で半分嘘の東海道新幹線ワンシチュエーション劇。

 【登場人物】

蔵元 80代男性
神崎 70代女性
広野 50代女性

 ***

 ♪新幹線の発車ベル

 

【新幹線車内】

 

座席を探しながら神崎、広野、倉本の順で入ってくる。

 

神崎 「14番14番……あった、ここだここだ。ふー。ここに来るだけで一苦労。あ、後ろ倒しますね。すみません」

広野 「蔵元さん気を付けて」

蔵元 「あぁ…大丈夫」

神崎 「あ、そうだそうだ。はい、のど飴あげる。新幹線って乾燥するから」

広野 「ありがとうございます」

神崎 「広野さん、悪いけど荷物上にあげてくれる?私の背じゃ届かなくて」

広野 「もちろん、やりますやります。よいしょ。蔵元さんは?」

蔵元 「私は大丈夫。自分であげられるから」

神崎 「ありがとね。さてと、お弁当お弁当」

広野 「旅慣れてらっしゃいますね」

神崎 「新幹線乗ったら駅弁食べなきゃね~。今回は食い倒れの旅よ」(途中から食べ始める)

広野 「ちがいますよ。今回は、舞台用の台本を書くための合宿です!」

神崎 「…ねぇ、それやっぱり本気なの?私たちが舞台の台本書くなんて無理よ」

広野 「無理じゃないですよ!絶対書けます!…実は私、読書感想文とか作文とか、そういう文章書くの得意だったんですよね。それに、元学校の先生の蔵元さんもいるし!なんてったって、舞台経験豊富な看板女優の神崎さんがいるんだから!ね!」

蔵元 「一番楽観的なんだよなぁ」

神崎 「本当に」

広野 「大丈夫ですって!それに、鈴木さんには今回お断りされてしまったんですから、自分たちで書くほか道はないんですよ」

神崎 「おもしろくなかったら私出ないからね」

広野 「お二人がいるだけでおもしろいですよ。大阪でお笑いをたくさん見て、いいものを作りましょう」

神崎 「コメディの舞台だから大阪でお笑い見ようだなんて、そんな簡単に考えていいものなの?」

広野 「おもしろいものを書くためには、おもしろいものをたくさん見て、真似して盗まなくちゃ!」

蔵元 「盗作はだめでしょう」

広野 「もちろん、ちゃんとお話しは自分たちで考えますよ。参考に、ですよ!」

蔵元 「ずいぶん気合入ってるねえ」

広野 「もちろんですよ!舞台の台本書くために大阪に行くなんて!私も劇団員になったみたいじゃないですか」

神崎 「劇団員になりたいならすぐ入れるわよ。私もコネで入ったから」

蔵元 「あれ、オーディション受けなかったの?」

神崎 「受けてないわよ。あの難しそうなの。やってみてなんて言われたらどうしようってヒヤヒヤしながら他の人の見てたんだから」

広野 「オーディションってどんなことするんですか?」

神崎 「トムハンクスもやってる訓練みたいなんだけどね。なんて言ったっけ、あのー」

蔵元 「スタニスラフスキー」

神崎 「そうそう。ライオンが100m先から走ってくるとか、そういうのを想像して実際に怒ったり、泣いたりするの。トムハンクスはその訓練が好きだったらしいんだけどね」

広野 「難しそうですね」

神崎 「そう。私なんて絶対できない。でも、私トムハンクス大好きだからさあ」

広野 「あら、そうなんですね」

神崎 「その難しい訓練をオーディションでやるの。でも私はコネだから…もう劇団に入ってた人の紹介があったから、オーディションは無し。広野さんもコネで入る?」

広野 「いやいやいや、お芝居がしたい訳じゃないんです。私は市の職員ですし。なんて言ったらいいのかしら。会場を抑えたり、皆さんに連絡したりだけじゃなくて、一緒にこう…作品作りの気分を味わえるのが嬉しいなって思って」

蔵元 「ようこそ劇団ジジババ軍団へ」

広野 「わ、ありがとうございます」

 

  間 (各々、食べたり飲んだり景色を見たりする)

 

神崎 「あらやだ曇ってない?」

広野 「え?あら…天気予報は晴れでしたけどねぇ」

神崎 「ちょっとくーちゃん雨男?」

蔵元 「なんで私が…」

神崎 「富士山見えるかなぁ」

蔵元 「平塚の家は見えたけど」

神崎 「え?もう通ったの?」

蔵元 「さっき通ってたじゃない」

神崎 「なんで言ってくれなかったの…もー、1つ見逃したじゃない。自分だけ見て~」

蔵元 「見てると思ったんだよ」

神崎 「こっちからだと何も見えないの!広野さんの方へ体をぐーっと伸ばさなきゃ反対の窓は見えないんだから」(体を広野の方へ伸ばしながら)

蔵元 「ははは」(笑いながら神崎・広野とは逆方向の窓へ顔を向ける)

神崎 「もー笑ってないで富士山は絶対言ってよ」

蔵元 「今」

神崎 「え?」

蔵元 「今、ほら」

広野 「あ、本当、富士山!」

神崎 「ちょっとちょっと写真!…全然見えないじゃないビルと前の山で!…あぁ、もう終わっちゃった」

蔵元 「また新富士のあたりで見られるから」

神崎 「もー」

蔵元 「だからね、おにぎりかサンドウィッチにしたらって、言ったんだよ」

神崎 「えー?」

広野 「あぁ、お弁当買うときに言ってましたね。何でなんですか?」

蔵元 「お弁当だと下ばかり見て景色をちっとも見られないでしょう」

広野 「あぁ!だから蔵元さんおにぎりなんですね」

神崎 「そういうのは先に言ってよ!もー、じゃあ私はお弁当持ち上げて食べよう!」

 

お弁当を持ち上げて食べようとするが、大きくて片手でうまく持ち上げられない。

 

神崎 「食べにくい…。くーちゃん、富士山が見えたら教えてね!…あ、トンネルは安心して食べられるわね」

蔵元 「ずっと安心して食べてたじゃない」

 

3人前方を見る(小学生くらいの3姉妹「あのー、席倒していいですか?」)(3姉妹の声は入れない)
 

広野 「席?どうぞどうぞ!」

神崎 「やだ、もしかして今まで我慢してたの?うるさいジジババでごめんね~いくらでも倒して!3姉妹なの?(間)そう。いい子たちね~」

広野 「何も言わずに倒す人も多いですからね」

神崎 「驚くけど若い人たちにとっては、それが当たり前なのかしらね」

広野 「まぁ…突然話しかけられてびっくりすることもあるし、何も言わずにそっと倒すのもスマートというか…。でも、一言かわすのも旅ならではで嬉しいですね」

神崎 「若い人と話すこともそうそうないしね」

 
♪パシャッ(シャッター音)

蔵元  2人と反対側の窓の写真を撮る。

 

神崎 「何撮って……富士山!!」

広野 「え!?」

 

神崎・広野 慌てて写真を撮ろうとする。

 

(車内アナウンス「お休み中失礼します。ただいま進行方向右側に富士山がご覧いただけます。どうぞご覧ください」)(影声入れる)

 

神崎 「あー、写真撮れない!くーちゃん私のでも写真撮って!」

蔵元 「えぇ…」

神崎 「向こうの人と重なって撮れない!!あ…、ごめんなさいね。ありがとう。(写真を撮って)やだ、聞こえちゃってた…」

広野 「親切な人でよかったですね。ばっちり写せましたか?」

神崎 「あら頭がちょっと切れちゃった。広野さんは?」

広野 「私もちょっと頭が…。こちら側からだと難しいですね」

神崎 「くーちゃんは?」

蔵元 「ばっちり」

神崎 「自分ばっかり抜け駆けして!その写真あとでちょうだいよ」

蔵元 「ほら、2人に知らせるより先にベストショットを押さえておいてよかったでしょう」

神崎 「あーいえばこういうなんだから。ねー?」

広野 「蔵元さんってもっと渋い方かと思ってたんですけど、こういうところもあるんですね」

神崎 「こういうところばっかりよ!ダジャレとかも言っちゃって全然渋くないの。あのお父さんと同じよ。ひじかけに座っちゃって、ずいぶん浮かれちゃってねえ?」

広野 「娘さんたちより大人がはしゃいでますね」

神崎 「あら…こっちの窓から何か見えるの?あ、あれ?え、船なの??有名なのかしら?」(神崎側の窓を見る)

蔵元 「あ、あれは「ちきゅう」だよ。世界中の地震とか火山とか調査している船」

広野 「世界中の?だとしたら、見られてかなりラッキーってことですか?」

蔵元 「うーん…まあ、ラッキーなんじゃないかな」

神崎 「はっきりしないわね~。でもやっと一ついいものがちゃんと見れた。はーあ、若い人はいいわね~活気があって、ちゃんと船があるって教えてくれて」

広野 「蔵元さんの知識もすごいですよね」

神崎 「うんちくはいいのよ。話知ってたって本物見なきゃ意味ないでしょ。劇団でなんか余談の蔵元って言われてるんだから」

広野 「あ、じゃあ劇の中で蔵元さんの豆知識コーナー作ります?ずっと人が喋ってるの聞いてるだけだとお客さん飽きちゃうでしょ。それとも、クイズ大会の方がいい?」

神崎 「劇なんだからお芝居しないと!それにくーちゃんの長い話聞いてる方が飽きるわよ」

広野 「ご長寿クイズみたいな面白いことできそうなのに」

蔵元 「まだあそこまでボケちゃいないよ」

神崎 「はいはい。どっちにしたってやりません。あー、おいしかった。ごちそうさま」(片付けはじめる)

蔵元 「随分とゆっくり食べて。もう静岡も越えたよ」

神崎 「味わってたの」

広野 「おいしかったですもんね」

蔵元 「喋ってたからでしょう」

神崎 「喋ってたのはくーちゃんでしょ?船の話なんか誰も知らないわよ」

広野 「ねえ。そういう知識ってどうやって知るんですか?」

蔵元 「どうしてって…私くらいの年代の人は…」

神崎 「ない!」

 

広野、蔵元は神崎を見る

 

神崎 「えーなんでぇ。ここに入れたのに。えー」

広野 「何を探してるんです?」

蔵元 「切符じゃないの」

神崎 「そー。ちゃんとお財布に入れたのに入ってないの!なんで~」

広野 「あらそれは…。ポケットの中に入れちゃったとか?」

神崎 「(ポケットを探って)ない。だってお財布に入れたんだもん」

蔵元 「あれは…ほら、のど飴入れてた袋」

神崎 「やだ!そんなのに入れてる訳ないじゃない!お財布に入れたんだから」

広野 「お財布もう1回見てみましょ。小銭入れの方も」

神崎 「ん~お札の間にも無いし…小銭も…あ!……あら、いつのおみくじ~?…やだ凶じゃない~。なんで取ってあるの」

広野 「あらら。まあおみくじは仕舞っておいて。えっと切符は、お財布に入れて…鞄に入れたときに鞄の底に落ちちゃったのかしら…」

神崎 「鞄~?いっぱい入ってるから見るの大変よ…やんなっちゃう」

広野 「私も手伝いますから!ひとつずつ外に出してみましょう」

蔵元 「のど飴の袋は」

広野 「ごめんなさい蔵元さん、こちら持っててもらえます?神崎さん、たくさん持ってきて」

神崎 「あ!これ!……マイナンバーカード。怖いわよね、私紐づけてるの」

広野 「え?あぁ、色んな情報と?実は私まだ持ってなくて」

神崎 「あら、そんな人いるの?私、保険証と紐づけてるの。間違って他の人の情報が入ってるとか今色々問題になってるじゃない。よくわからないけど」

広野 「ニュースでやってましたねぇ。あ、あまりこういうところで出さない方がいいんじゃないですか」

神崎 「本当は持ち歩きたくないんだけどね。旅先で何があるかわからないじゃない?だから、お財布に入れてしっかり仕舞ってるの。はい、みんなも見たよね。…はい、仕舞いました。これは絶対なくしちゃいけないから、広野さん持ってて」

広野 「あら、責任重大」

蔵元 「切符は」

神崎 「あぁ、そうだそうだ」

蔵元 「のど飴の袋は」

神崎 「もうしつこいなぁ。そんなところには入れてないって!ほら、ないでしょ!私ちゃんとお財布に入れたんだ………あった」

広野 「えぇ!」

蔵元 「席に着いて、すぐにのど飴渡してきたでしょう」

広野 「蔵元さんすごい!よく覚えてらっしゃる!」

神崎 「もー、くーちゃん早く言ってよ~こんなに荷物出しちゃって。恥ずかしいじゃない」

蔵元 「聞かなかったでしょ」

神崎 「あら、ごめんなさい。失礼しました。はー、今度はこの荷物を仕舞わなくちゃ」

広野 「見つかってよかったですよ。はい、お財布」

神崎 「ありがとう。まあ、そうなんだけどね。あ、お財布出したついでにアイス食べたいわね。ワゴン販売通らないかな」

蔵元 「次から次へと。まだ食べるの」

神崎 「食い倒れの旅は新幹線から始まってるって言ったでしょ!」

広野 「台本作りの旅ですよ!」

神崎 「あぁ、もうすぐ名古屋に着くって!あのかったいアイス食べるの時間かかるのに。はやく来ないかな~」

広野 「こういうのって待ってると来ないですよね」

蔵元 「今日は混んでるからねえ。買う人が多いんでしょう」

神崎 「あぁ、また人が乗ってきて…。ちょっと見てこようかな」

蔵元 「じっとしてなさいよ。反対に歩いたらすれ違っちゃうよ」

神崎 「私トイレにも行きたいの。すれ違ったらそこで買えばいいし。もし私がいない間にワゴンが来たら、アイス買っておいて。広野さん、バニラアイスクリームね。はい、失礼失礼」(広野と蔵元の前を通り過ぎてトイレへ)

 

蔵元 「落ち着きのない人だなあ」

広野 「にぎやかでいいですよ。それにしても蔵元さんの観察力って言うんですか?びっくりしちゃいました」

蔵元 「広野さんも聞かなかったでしょ」

広野 「あ、それは…まあ見つかったんだからいいじゃないですか!物知りで人のことを良く見てる。やっぱり俳優さんってすごいんですね。あ、でもこういうのは学校の先生の資質なのかしら」

蔵元 「ははは、でも私は元々アナウンサーだったんですよ」

広野 「え?そうなんですか?小学校の先生は?」

蔵元 「アナウンサーのあと。私の時代は、アナウンサーと言ってもラジオだったからね。大学の放送研究会に所属していてそれでね。大学自体はで教育系のところだったから小学校で先生をして、長年そこで務めてから、やってみたいなと思ってお芝居やり始めたんですよ」

広野 「色んなこと一遍に聞きすぎて全然覚えきれないです。…お歌も歌ってらっしゃいますよね?」

蔵元 「歌謡曲をね。有名なのは知ってると思うんだけど。教科書にも載っていたような」

広野 「えっと…たとえば…?」

蔵元 「えぇ?えーっと…。新幹線だけど、少しだけ」(「花は咲く」を小声で歌い始める)

広野 「…あぁ!聞いたことあります」

蔵元 (うなずきながら、歌い続ける。少しずつ声が大きくなる)

広野 「お上手です!…けど、ここ新幹線ですから…」

神崎 「そんな誰も知らない歌うたって!新幹線でうるさいでしょ」

蔵元 「花は咲くは、みんな知ってるでしょう」

神崎 「この曲だけはね。あとくーちゃんが歌う曲はみーんな誰も知らない歌」

広野 「あ!次のお芝居で歌を入れるのはどうですか?」

蔵元 「えー、私が歌うの?」

神崎 「誰も知らない歌なんていらないわよ。それより、私のマイケルジャクソンはどう?」

広野 「マイケルジャクソン?」

神崎 「そう。ジャズダンス習ってるの。そこの生徒はみな後期高齢者なんだけどね、かっこいいの」

 

神崎 席を立って踊ろうとするがよろけて座る。座ったまま踊る。

 

神崎 「ねえ?かっこいいでしょう?」

広野 「かっこいいです!すごい!」

神崎 「ほら、超かっこいいの。ダンスにしましょうよ」

蔵元 「私も前の舞台でヒップホップのヒの字も知らないのに踊らされたんですよ」

広野 「え!蔵元さんも踊れるんですか?じゃあ歌もダンスも入れられますね!」

蔵元 「広野さんは何かできないの?」

広野 「いえ、私はそんな何もないですよ」

神崎 「何もないってことはないでしょう」

広野 「そんなただの市の職員が大それたことできるわけないじゃないですか」

神崎 「はあ、それは知らないけど」

広野 「まぁでも…学生の時でしたら、早口言葉大会の関東地区の代表になったことがあります」

神崎 「そんなのあるの」

蔵元 「ちょっと話してみてよ。かえるぴょこぴょこむぴょこぴょことか」

広野 「やだもう、関東大会では優勝しましたけど、全国大会では3回戦までしか進めなかったんです。それも、うん十年前の学生のときの話ですよ。今できるわけないじゃないですか!全然練習もしてないですし、毎日、市役所で市民の皆さんとお話したり、職員と打合せしたり。ほら、お二人も何となく想像つくんじゃないですか?役所に来る方って高齢の方も多いでしょう?そうするとゆっくり話さなくちゃいけないから、もう昔とちがって全然口が回らなくてゆっくりしか話せないんですよ」

蔵元 「…すごいね」

神崎 「もう十分話してるわよ」

広野 「私のことはいいんです!やっぱりお2人はすごいんだわ~職業も特技もたくさんあって!」

蔵元 「いろんなことを経験して今の私がいるからね。何事も経験してみないとわからない」

広野 「うんうん、そうですよね~素敵です」

神崎 「…私そんな風に考えたことない」

蔵元 「え?」

神崎 「いろんなことやってみたけど、どれも中途半端で…。もっと若いときから、全部をかなぐり捨てて女優一本でやってたら、今頃朝ドラや大河ドラマに出てたかもしれないなーって」

広野 「あー、分かります!私も朝ドラのヒロインに憧れてた時期があります」

蔵元 「やっぱり劇出たいんじゃない」

広野 「え?」

神崎 「私ヒロインは目指してないけど」

広野 「え?」

神崎 「芸能界に入って、NHKのドラマに出て、バーンと売れたかったのに…。40歳で声優の養成所に入ってね。顔が出ないからいいかと思ってたのに、選ばれるのはいつも20歳とかそこらの子なのよ」

広野 「NHKのドラマに出ていなくたって、神崎さんは立派な女優さんですよ!ねぇ、蔵元さん!」

蔵元 「そうだねぇ」

神崎 「くーちゃんに認められてもねえ」

広野 「蔵元さんだって立派な俳優さんですよ!」

神崎 「余談の蔵元だけどね。はあ、年取ってから夢を追いかけても遅いのよね。そもそも才能だってないし」

蔵元 「ナイチンゲールって知ってる?」

神崎・広野 「は?」

蔵元 「ナイチンゲール」

広野 「看護師のですか?」

蔵元 「そう。ナイチンゲールは何歳から看護の勉強はじめたか知ってる?」

神崎 「そんなの知らないよ。なんで今うんちく聞かなきゃいけないの」

広野 「えーと、勘で言っちゃいますけど、16歳ですか?」

蔵元 「31歳」

神崎・広野 「え?」

蔵元 「31歳で看護の学校に行き初めて、34歳で看護師になったの。(間)じゃあ次、カーネルサンダースがケンタッキー・フライド・チキンを作ったのは何歳?」

広野 「あ!40歳!」

神崎 「いや!あのおじいさんでしょ……50歳!」

蔵元 「65歳」

神崎・広野 「えぇー!?」

広野 「定年したのがじゃなくて?」

神崎 「うっそだー。なんでそんなおじいさんがフライドチキンの店なんて作るのよ。いくらアメリカだからって信じられない」

蔵元 「でも事実なんだよ。カーネルは若い頃から色々な仕事をしていてね。鉄道会社とかセールスマンとか軍隊も弁護士も40の職を経験したって。ケンタッキーフライドチキンも、自分が経営するガソリンスタンドでフライドチキンを出したのが始まりなんだ。しかも、そのフライドチキンのレシピはお母さんが教えてくれたもの。料理人でもなんでもないただのお母さんのレシピ」

神崎 「・・・・・」

蔵元 「65歳で1件1件、レストランに自分のフライドチキンを売り込みに行って成功したんだよ。千件以上断られたって。でも、今じゃ世界中の人が知っている。遅くから始めたって、才能がなくたってコツコツやっていけば、花は咲くんだよ」

神崎 「・・・・」

蔵元 「うんちくもいいもんでしょう」

神崎 「…今のは、覚えておくわ」

蔵元 「はは、もう一回歌おうかな」(花は咲くを歌い始める)

広野 「いやいやいや、倉本さん」

神崎 「もう十分!」

 広野 「いろんな職業を経験して、最後にたどり着いたのがお母さんの味っていうのがまた素敵ですよね。私も覚えておきます。東京に帰ったら職場の人たちに教えよう」

蔵元 「ははは。大器晩成で焦らずやっていけばいいじゃない」

神崎 「それもそうね。どの道もうここまで色々やってきたんだから。このままやってくしかないのよね」

広野 「あ、焦らずで思い出したんですけど…実は私ちょっとばかしミスをしてしまいまして…」

神崎 「ミス?やだやだ怖いこと言い出さないで。まさか劇場取れてなかったとか?」

広野 「いえいえ、それはバッチリ抑えてあります!実は…帰りの電車が、のぞみを取ったつもりだったんですけど…こだまを取ってしまっていて…。ごめんなさい!」

神崎 「えぇ?こだま???何時間かかるのよ」

広野 「…4時間です」

神崎 「4時間!?いやいやいや、無理よ腰もお尻も痛くてそんなに座ってられない。今だって腰が痛いのに」

広野 「ごめんなさい!でもほら、焦らずゆっくり大器晩成でね。台本の打合せをしながら帰ってきましょうよ。あ、今度こそ富士山の写真バッチリ撮りましょう!アイスもゆっくり食べられますよ。ねぇ、蔵元さん!」

神崎 「絶対いやよ、チケット取り直して!もう、くーちゃんからも言ってやって!…ねえ、何でさっきからずっと黙ってるの。くーちゃん!」

蔵元 「大器晩成で大志バンザイ!」

神崎・広野 「え?」

 

終わり


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