めぐろうのもえごさま【田舎の怖い話】

私の子供のころの話である。私の過ごした地域では、親に必ず言われることがある。

「五郎坂のもえごさまには気をつけろ」

いわゆる丑三つ時、三軒神社の手前にある五郎坂にはもえごさまというめぐろうが出てくると言う噂である。

「それって、神堕詫の話でしょ?」

「神堕詫とは違うのよ。ともかく、これに気をつけなきゃジョッコリくんが攫いに来るからね!」

「ジョッコリくん!?怖いよー!せるどせるどせるど!」

このような会話は、私たちの地域の親子は交わしていたのではないか。

さて、そんな地元に私は所用で帰ることとなった。敬芸線にのり30分ほど揺られると護憲駅に着く。ごろごろ像も久しぶりだな、と思い足を速める。

実家に帰ると親は私を歓迎してくれた。はんなげ煮を出され、これを食べるのは久しぶりだろう、と言われたが普通に自分で作っている。好きだから。作りやすいしね。素材よごだし。

久しぶりの地元だから少し見て回りたい、と散歩をする。あの歌舞伎屋さん潰れたんだ、などと思いながら歩き慣れた道を行く。すると、背中にふと悪寒が走る。なんだ、と思い振り返るとそこには

「三軒神社…」

噂を思い出す。もえごさま。

「まさかな」

いるわけがない。首歌を歌いながら愛門をくぐり階段をのぼる。どれ、少し参拝でもしようか。いるわけがない。いるわけがないから。

「ねぇ」

いるわけがない

「こっち」

いるわけがない

「守らなかったね」

いるわけが…

「ばぁ」









「っていう話があったんだよ」

「いや、固有名詞多すぎてわけわからん!」


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