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オルレアン国際ピアノコンクールに挑戦したお話〜どんなコンクール?【前編】

今回は、私の音楽人生におけるターニングポイントとなった、オルレアン国際ピアノコンクールについて、前編・後編に分けてお話ししていこうと思います。

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1. 挑戦のきっかけ


私が挑戦したのは大学3年生だった2018年、第13回目でしたが、このコンクール自体を知ったのは、高校生のときだったでしょうか。
トーマス・ヘルさん永野英樹さん、藤原亜美さんといった、特に現代音楽で活躍なさっているピアニストのプロフィールで、よく見かけるコンクールの名前だなぁと興味を持ち始めました。
直接コンクールへの意識を持ったきっかけは、大学1年生だった2015年、ミュンヘンで行われた、ピエール=ロラン・エマールさんとタマラ・ステファノヴィチさんのシュトックハウゼン・アカデミーにて、受講生のAndrewから「とても良いコンクールだよ」と勧められたこと。彼自身、2012年第10回目のコンクールでファイナリストに残っており、順位付けに留まらず様々な賞が用意されていること、コンクール後のサポートも手厚いこと、などを教えてくれました。
そして大学1年生も終わろうとする2016年3月頃、私はちょうど開催されていた第12回のオルレアン国際ピアノコンクールの様子を、Facebookで追っていました。ラウンドが進むごとに…あれ、日本人の方が残っているなぁ。あ、優勝しちゃった、すごい!…それが、大瀧拓哉さんでした。先に出たトーマス・ヘルさんのお弟子さんでもあり、私の師匠廻由美子先生とヘルさんが親しいことも重なって、「さぁ、2年後は私が頑張るんだ!」と(勝手に)勇気が湧いてきたのを覚えています。そうして、私のオルレアンに向けた挑戦が始まるのです。

2. そもそもどんなコンクール?

オルレアン国際ピアノコンクールは、簡単に言ってしまえば「現代音楽ばっかりのコンクール」です。1989年にピアニストのフランソワ・ティナさんによって設立され、2004年以降は、「一般部門」と「ジュニア部門」が隔年で開催されています。現在は、イザベラ・ヴァジロッタさんによって率いられているこのコンクール、入賞者に対するサポートが手厚いことで有名です。コンサートで弾いたりマスタークラスで教えたり、CDを作る機会、レジデンスの機会…公式Youtubeからも、素敵な紹介動画が出されていますので、ぜひご覧ください。

3. 課題曲〜どうやってプログラミングするの?

私が受けた2018年、第13回のコンクールは、以下のような課題曲でした。

一次予選:25分以内
1) 1900~1950年に作曲されたエチュード1曲。
2) W. Bolcom, P. Burgan, J. Charpentier, U. Chin, P. Dusapin, I. Fedele, J. Lenot, M. Lindberg, P. Manoury, E. Tanguy...などの(つまり新しめな)作曲家からのエチュード1曲。
3) 世界初演(このコンクールの大きな特徴。自作、あるいはどなたか作曲家さんにお願いして、新作を演奏する。作品は、André Chevillion – Yvonne Bonnaud作曲賞の対象になる)
4) ドビュッシー『エチュード』『映像』『前奏曲集』から1曲ないし数曲。

二次予選:50分以内
1) A. Boucourechliev, A. Ginastera, O.Greif, A. Jolivet, M. Ohana, E. Denisov, I. Yun, A. Rousselの各作曲家の名前を冠した賞が設定されている。これらの作曲家作品から1曲または2曲。作曲家によって作品が指定されていることもあるし、全てのピアノ曲から自由に選べる作曲家もある。
2) I. Albeniz, S. Barber, B. Bartók, A. Berg, F. Busoni, A. Casella, D. Chostakovitch, H. Cowell, L. Dallapiccola, G. Enesco, M. de Falla, G. Fauré, E. Granados, P. Hindemith, A. Honegger, Ch. Ives, L. Janáček, G.-F. Malipiero, F. Martin, F. Mompou, S. Prokofiev, S. Rachmaninov, M. Ravel, A. Schoenberg, A. Scriabine, D. de Séverac, I. Stravinsky, K. Szymanowski, H. Villa-Lobos, A. Webernの作品から(=近代)。
3) J. Baraqué, L. Berio, H. Birtwistle, P. Boulez, B. Britten, S. Bussotti, J. Cage, E. Carter, A. Copland, G. Crumb, H. Dutilleux, M. Feldman, B. Ferneyhough L. Ferrari, P. Glass, S. Gubaidulina, H.-W. Henze, M. Kagel, E. Krenek, G. Kurtág, B. Jolas, G. Ligeti, W. Lutosławski, O. Messiaen, L. Nono, P. Nørgård, F. Poulenc, H. Pousseur, G. Scelsi, A. Schnittke, K. Stockhausen, T. Takemitsu, G. Ustvolskaïa, I. Xenakisの作品から(=現代の古典)。
4) T. Adès, G. Aperghis, G. Amy, V. Baltakas, I. Bellocq, G. Benjamin, E. Benzecry, W. Bolcom, P. Burgan, R. Campo, E. Canat de Chizy, A. Cattaneo, U. Chin, J. Combier, J. Dillon, B. Dubedout, H.Dufourt, M. Dûrrûoglu-Demiriz, P. Dusapin, P. Eötvös, T. Escaich, I. Fedele, B. Ferneyhough, F. Filidei, L. Francesconi, D. Fujikura, M. Fukami, B. Furrer, S. Gervasoni, S. Giraud, J. Harvey, K. Hesketh, M. Jarrell, P. Jodlowski, P. Hattat, P. Hersant, A. Ho, H. Holliger, T. Hosokawa, T. Huillet, V. Ivanova, F. Krawczyk, M. Krüger, H. Lachenmann, E. Lejet, J. Lenot, M. Levinas, M. Lindberg, P. Manoury, B. Mantovani, C. Mason, M. Matalon, M. Merlet, N. Mondon, T. Murail, I. Nodaïra, L. de Pablo, G. Pesson, M. Pintscher, R. HP Platz, D. Rakowski, W. Rihm, J. C. Risset, A. Roberts, K. Saariaho, E.-P. Salonen, P. Schoeller, S. Sciarrino, A. Solbiati, C. Stark, O. Strasnoy, M. Stroppa, E. Tanguy, R.Tessier, M. Traversa, G. Verrando, J. Widmann ...などの作品から(=より現在に近い作曲家たち)。

三次予選:40分以内
1)  A. Boucourechliev, A. Ginastera, O.Greif, A. Jolivet, M. Ohana, E. Denisov, I. Yun, A. Rousselの各作曲家の名前を冠した賞が設定されている。これらの作曲家作品から1曲または2曲。
2) 1900~2018年に書かれた作品。

本選
1) F. Donatoni : Arpège for 6 instruments
    杉山洋一先生・mdiアンサンブルと共演。
2) H. Parra : Au Cœur de l’Oblique (コンクール委嘱作品)
3) 以下の3曲より1曲を選択。
    ・グラナドス:組曲『ゴイェスカス』より『愛と死』
    ・ショスタコーヴィッチ:24の前奏曲とフーガ 作品87より 第24番
    ・デュカス:ソナタ変ホ長調より 第3楽章

かなり幅のある、逆に言ってしまえば、プログラミングの際「独自性」が問われる課題曲リストだと、お判りいただけると思います。
私が実際どのようなプログラムを組んだかはまた後ほど、今後このコンクールを受けようと思っていらっしゃる方に、準備段階で少しお役に立てるかな…というお話をしていきます。

1. 現代もののエチュードを用意しておく

年によって差はあれど、一次予選ではエチュードを複数曲弾くことが多いように思います。ショパン、リスト、ドビュッシー、ラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフなどの、一般のコンクールでも使えるレパートリーだけでは、賄えないことが予測されます。もちろん、1つこれらのエチュードを混ぜても良いのですが、より独自性を出すためには、1900年以降現在まで、異なる時代区分のエチュードを用意しておくと、なお良いのではないでしょうか。以下、例を挙げてみます。

メシアン:4つのリズムのエチュード
リゲティ:エチュード(第1番『無秩序』第6番『ワルシャワの秋』第9番『眩暈』第10番『魔法使いの弟子』第13番『悪魔の階段』第15番『白の上の白』などを持ち駒にしておくと💮)
ウンスク・チン:エチュード(第5番はよく弾かれますね)
パスカル・デュサパン:エチュード(こちらの定番は第2番)
イヴァン・フェデレ:エチュード(Etudes boréalesとEtudes australesがありますが、後者の方がヴィルティオーゾ性を見せられます)
Beat Furrer:Studie

2. プログラム構成上、特別賞をどのように扱うか

二次予選と三次予選に出てくる「特別賞」の作品を、どのように考えるかもポイントです。

1. コンテスタントがあまり演奏しない作曲家を選んで、特別賞にフォーカスする方法
…なんといってもブクレシュリエフ!どの作品も難解なので、きちんと演奏すればかなり強烈な印象を与えることができます。

2. 特別賞の大きな作品を、プログラムのメインにする方法
…ジョリヴェ:『マナー』『5つの典礼舞曲』、ヒナステラ:ソナタなどが挙げられるでしょうか。

3. プログラムの残りに大きな曲を持ってくるため、特別賞の部分は小さめに設定する方法
…オアナ:プレリュード、デニソフ:プレリュード、pour Danielなど。

10分前後の作品、イサン・ユンの『Interludium A』『5つのピアノ小品』、デニソフ:『Signe en blanc』なども、組み合わせやすいでしょう。

3. 現代ものの大きめの曲を用意しておく

複数曲を組み合わせられるとはいえ、二次予選で50分、三次予選で40分のプログラムを、全て近代〜現代で構成するのは、なかなか大変なことです。小さな曲たちを積み上げていくのも、コンセプトによっては可能だと思いますが、20~30分程度の「コレ!」という作品を持っておくと、他に何を組み合わせたらいいのか、直感しやすくなる気がします。現代のレパートリーでは、大きいサイズの作品と出会うことより、10分程度の作品が乱立している印象が拭えません。普段から、作曲家・作品との出会いを求めて、色々と見ることが大事になってくると思います。

4. 一番大事なこと
〜自分が弾きたいと思う曲を選ぶ・自分の中で腑に落ちるプログラムを創る〜

これまで記してきたことは一旦横に置いて、最も大事なことは、「自分が弾きたい曲を弾く」こと。合計で2時間半程の、しかも全て近現代のプログラム、正直かなり大変です。譜読みが辛くなったとき、練習がしんどくなったときに救ってくれるのは、「それでもこの曲が好き!この曲を弾きたい!」という気持ちだと思います。そして、不思議とその気持ちは舞台上で伝わるものだと信じています。自分が心から弾きたいと思える曲に出会えることは、そう日常茶飯事というわけではありませんから、普段からインプットをして、多くの作品を聴くことが大事になってくるというのが、お分かりいただけるかと思います。
そしてプログラムを決めたら、演奏順番を含めて、自分の中でテーマやストーリーをつかめるようになること。これだけで、随分楽になる気がします。

実際に2018年の参加者がどのようなプログラムを提出したのかは、こちらをご覧ください。これを見ているだけでも、新たな作品との出会いがあって、ワクワクすること間違いなしです。

さぁ、このコンクールについて、少しイメージが湧くきっかけとなる記事でしたでしょうか。いよいよ後編では、私が実際に挑戦したときの様子を、どのようなプログラムを組んだのか・どのように準備したのかを交えながらお話していきます。

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