受け継がれる負の遺産。そして姉。


虐待は親から子へ受け継がれるとよく言うが、同じ閉じた環境のなかで暮らせば、価値観や考え方、家族への接し方が似るから当然だと思う。わたしの家族もまさにそう。祖母から母へ、母から姉に、着実に引き継がれている。これはそんな姉のはなし。 

 わたしには絶縁した家族がいる。95を迎える祖母と、70になる母、独身で45になる姉の3人だが、姉とは害のないやり取りに限り、年1回程連絡を取るようにしている。 

 害のあるやり取りとは、1つが「家族にかかわる話題」だ。徹底的に祖母と母を憎んでいる私と、そうではない姉とでは、家族に対する思いも立場も違う。険悪な空気になることが分かっているから、家族に関する話題については、お互いある程度で話題を逸らすようにしているのだ。

 そしてもう1つの害のある話が「金」である。これは一方的に姉が嫌がる話題だ。たまに金銭支援を妹に頼むことがあるという劣等感もあるかもしれないが、あの家では金銭の話は昔から「汚い」「下品」という括りになっており、まともに話した記憶が一度もない。

 昭和の考えか何か知らないが、固定観念から、金の話をすることが汚いことと本気で考えている世代の人たちだ。その弊害か、金融リテラシーの低い母は、昔から衝動買いによる借金を繰り返す人だった。そして、大抵その事実は返済計画が破綻するまで家族に告知されることは無かった。

 例えば、母は見栄を優先して身の丈に合わない暮らしを装う節があったが、離婚を家族にカミングアウトしたことをきっかけに、よく検討もせず二束三文で昔の家を売却し、どう考えても転売価値のない家をバブル後期に数十年ローンで購入している。もちろん、すぐに家計は自転車操業に陥ったのだが、その事実は、わたしの大学進学直前に「あんたは大学行かないと思ってたから貯金してない」という言葉にすり替えて告げられた。

 持ち家に執着のあった母は、返済が滞る度、娘のバイト代を巻き上げたり、娘にカードを作らせて金を引き出させる事を繰り返した。そのせいで姉もわたしも、20代で一度自己破産を強いられている。 

 なぜ今こんなことを書いてるかというと、自分の年齢的にそろそろ老後を真剣に考えようとすると、相続や葬式の話はどうしても付いて回るし、相続を放置して借金でも負わされた日には居ても立っても居られないので、一念発起して実家の家計状況を姉に聞いたのがきっかけだ。 

 住宅ローンの総額は?ローン残金は?加入している保険は?貰っている年金額は?その他の借金は?思った通りというか、残念な話しだが、姉は何1つ答えられなかった。 

 それどころか、質問すればするほど無口になり、姉は早く電話を切ろうとしたがった。こっちだって相当な覚悟で話題にしているのだ。家長となる姉はせめて知っておくべきだ。わたしも知らない借金を突然負わされるような事態を避けたいと伝えると、姉は「分からない」とは言わず「妹に迷惑かけるような事だけはしないから」と繰り返した。 

 「何とかなるから」「迷惑は掛けないから」という台詞は、暴言に次いで、あの家で何度も繰り返し祖母や母から聞かされたセリフだった。もちろんその言葉には何の根拠もない。苦しい立場から逃れたいが為の、自分を守るためだけの、その場しのぎで無責任な台詞だ。ましてや家計状況の1つも把握していない人が言う台詞ではない。自分の保身のための台詞を平然と口にしている姉に母が重なって見えた。

 わたしはこの「何とかなる」という台詞が昔から大嫌いだった。中学生になる頃には、面と向かって「そういう台詞は、準備や計画を綿密に立てて実行してる人だけが使っていい言葉だから。無計画な人間が言う何とかなるには信憑性がない」と言い返した。そのたび酷い平手打ちなどの暴力や暴言を受けたが、どうしても許容できなかった。何がどうしてどうなったらその回答になるのか説明できないなんて、全く論理的じゃないし、話の筋が通ってない。しかし、どうやら姉は親の思考回路を受け継ぐことにしたらしい。 

 祖母や母に対し同情心を持っている姉だが、彼女は、昔から口数が少なく、言い返さず、親の言うとおり行動する子どもだった。いつの頃からかは分からないが、彼女は自分で考えることを止めたんだと思う。わたしは昔から弁が立ったし、痛くても暴力は怖くなかったから、運よく考える力が残っていた。そして家族から離れる選択が出来た。ただ、姉はそうじゃなかった。だから洗脳され、考えるのを止めたのだろう。そうして今や彼らと同化してしまったようだった。 

 祖母と母はよく似ている。非論理的で自己中心的な価値観。根拠のないゴシップを信じ込み、何もかも他人のせいにして、子どもに対する虐待の仕方もよく似ていた。そして今、姉が同じ台詞を吐いている。祖母から母へ、母から姉に、着実に引き継がれている。負の遺産の引き継ぎ方を見せられているようで、電話が終わって酷く気分が悪くなってしまった。結局、聞きたい情報も聞き出せなかった。ひとまず請求書や契約書を探して写真を撮るよう指示だけ出したが、別の方法(開示請求など)を考えた方が早いかもしれない。 

 姉が悪い訳じゃないし不憫だとは思うが、無知は間違いなく罪だ。自分が何を回答すべきかも分からず、言い訳を口にしてることも自覚できないでは、相手に失礼かどうかも気付けないではないか。非論理的な思考回路は、決して次代に繋げるべきじゃない。意見を持ち、相手にロジカルに伝えることは、会社だけじゃない、家庭の中でこそ実践すべきだと思う。 この話に救いがあるとすれば、姉もわたしも家族を持っていないこと。これ以上、あの家の負の遺産が受け継がれることは無いということだ。

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