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ふたつのりんご

先日、買い物をしようと自転車を止めたら、
懐かしい人に話しかけられた。

父を在宅介護していた時の、訪問ヘルパーさん。
元気で笑顔の絶えない彼女は、お料理も上手で、父のお気に入りだった。

父が施設に入居したのが7年前。
その後も近所に住んでいる彼女とたまにバッタリ会って、道端で近況報告などしていた。

今日も明るく話しかけてくれた彼女は、
私が先に買い物が終わって挨拶をし、駐輪していた場所に戻ると追いかけてきた。

「お父さんにお供えして〜」
彼女はリンゴを二つ持っていた。

父がリンゴが大好物だったのを、
覚えていてくれたかどうかはわからない。

でも、
その笑顔と、リンゴの香りにやられた。

商店街の真ん中で、
涙が出そうになるのをこらえながら、
お礼を言い、
父が繋げてくれた優しい人たちのご縁に感謝した。

父と母の介護に関わってくれた人達は、
いい人たちしかいない。
急に介護が始まって、
あの時、どうしたらいいかわからなかったあの頃の私に、
たくさんの人達が優しい手を差し伸べてくれた。

今度は、私が手を差し伸べる番。
人は一人では生きられないのだから。

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