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銀杏の季節

皆さん、銀杏の美味しい季節です。
と言ったものの、僕は銀杏がいつが旬なのかはいまいちわかってない。年中茶碗蒸しや焼き鳥屋、友達の家のおつまみで「あ、どうも。この前はお世話になりました」みたいな感じで会う機会が割と多いからだ。
皆さんは銀杏とどこでどのようにして出会っていますか?
僕が銀杏を初めて意識し始めたのは中1の秋、ちょうどこの頃だ。まるで銀杏に恋しているような文章だね。

僕と友人数人は小学校の頃と通学路が変わり、銀杏がたくさん落ちてる道を通うようになった。
それまで僕は銀杏があんなに臭いものと知らなかった。
「うわっ、なんか臭くない?これ何よ?」
「これ銀杏だよ、イチョウの木の実だよ理科の授業のやつだよ」
絶対踏んだら臭い、触ったら臭いと騒ぎながら帰る。

こういう時中学生というのは馬鹿真っ盛りで特にこれといって理由もないがわざと銀杏を踏んでゾンビウィルス感染者のような真似をしながら他のやつを追いかけ始める。さぁ、始まりました。銀杏鬼ごっこが。
「こっちくんな!銀杏になる!」
「うわあああ!触られた!臭くなった!」
そんな事をキャアキャア騒ぎながらしていると、一人が銀杏ゾンビ(もう名前つけるのが面倒になったのでそう呼ぶ)に向かって拾った銀杏を投げつけ始めた。銀杏ゾンビも制服に銀杏の臭い汁がつくのは流石に勘弁と思ったのだろう、ゾンビらしくない俊敏なステップで避ける。ただ、役から抜けるのは悪いと感じたのか避ける時以外はゾンビ然としている。彼の中で役者魂が燃えている。

そして銀杏ゾンビも銀杏を投げ始めた。
もうこうなってくると銀杏ゾンビごっこ云々ではなく、ただの銀杏戦争である。
何となしに仲間をその場で作りお互いに投げつけ合う。
通りすがりの同じ中学の女子生徒達がドン引きして遠回りしながら帰っていく。知ったこっちゃない。こちらは戦争だ。今を楽しんでいるのよ。

僕も思い切り投げていたがうっかり仲間のペキン(苗字に「北」と付いていただけでペキンと呼ばれるようになった)に当ててしまった。フレンドリーファイアだ。ペキンのシャツの一部が黄に染まり項垂れる。仲間達が叫ぶ「ペキン‼︎ペキンが臭くなった‼︎おのれ許さん!」そう言うとペキンに当てた僕じゃなくて敵側にまた銀杏を投げ始めた。もしかして戦争もこうやって激化していったんじゃないか?

うっかり味方を撃ったのも相手の所為にして士気を上げていく、こうやって事が荒れていくのではないか?人類は遺伝子レベルでこういった状況になった時に有耶無耶にして相手の所為にすると言う流れを進めていった所あるんじゃないか?

そんな事を今になって思うが(僕はしょうもない話を真面目に考えるのが好きだ)、その頃はみんな何も考えていなかったから結果皆平等に銀杏に染まった。家に帰ると母から「何で制服から変な匂いするの?凄く臭いよ」と言われ、何故か「銀杏を投げ合ったんだよ」と正直に答えると「自分でどうにかしなさい‼︎」とピシャリと怒られた。そりゃそうだ。

銀杏戦争はあれ以来起きなかった。各々靴や制服が臭くなった事で叱られたり、学校で匂いを気にしなくちゃならなくなったからだ。女子に「ミゲル臭くね?」とか言われたら、普段女子と関わらない僕でも普通に傷付く。自業自得だけども。

数日後、家に遊びに来た祖母と銀杏を拾った。「この前これを投げつけあったんだ」と話しながら拾っていると、「あんた手がほげるよ、皮が剥けて手がほげるよ(穴が開くという意味)箸で拾いなさい」と言われた。

そんな危ないものを僕らは互いに投げつけていたのか。やっぱり戦争だったんだ。僕らは兵士だったのか。などと厨二病真っ盛りだった僕は感心しつつ、自宅に帰って祖母が焼いて塩胡椒で味付けしてくれた銀杏を食べた。数日前に戦いの道具だったものはとても美味しかった。

これを書いてるうちに銀杏が食べたくなって来た。
近々祖母と会う機会があるので一緒に拾いに行って作って貰おうかしら。

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