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ともに生きるためのネットワーク構築のとりくみ―コロナ禍の「緊急支援基金」から「アウトリーチ支援事業」へ

移住者と連帯する全国ネットワーク安藤真起子

M-netの2024年4月号の第一特集は「相談支援事業」です。noteでは安藤さんの記事を紹介します。M-net本誌では、本特集の記事が他に7本掲載されています。本号全体の目次と購入方法はページ末尾のリンクをご覧ください。(編集記)

1.コロナ禍で立ち上がった支援事業

(1)コロナ禍をともに生き抜くための「新型コロナ移民・難民緊急支援基金」(2020年5月-10月)

移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は、2020年5月から5ヶ月間、公的支援が受けられず生活に困窮する移民・難民に対して一人につき3万円の現金を支援する「新型コロナ移民・難民緊急支援基金」を実施した。政府による特別定額給付金の発表を受け、給付の対象とされなかった難民申請者や仮放免者の方たちの生活を市民の力でなんとか支え、ともに生き抜こうと立ち上げられた事業である。

移住連の呼びかけに応じ、市民社会から5ヶ月間で49,794,564円の支援金(助成金1,4150,000円を含む)が寄せられ、支援金は1,645名の移民・難民に送られた(Mネット213号:2020年12月)。

「新型コロナ移民・難民緊急支援基金」を通じた取り組みは、特別定額給付金の対象にされない非正規滞在者や、給付金の対象にはなってもなお困窮状態に置かれた移民・難民の状況を可視化させた。さらに、コロナ禍という緊急事態のなかで挙げられ声を根拠にして、移住連は、基金終了後に、コロナ禍で苦境にある難民申請者や移民への緊急支援を日本政府に対して要請した。しかし、いずれの要請もこちらが求める回答は得られなかった。

(2)公的支援へつないでいくための「新型コロナ移民・難民相談支援事業」(2021年5月〜2022年2月)

「新型コロナ移民・難民緊急支援基金」により多くの移民・難民への緊急支援を実施できた一方で、彼らが直面する困難の解決が引き続きの課題となった。そこで2021年5月からは、休眠預金等交付金を活用した「在留外国人への緊急支援と持続的な体制構築」(SAFOR)事業(ジャパン・プラットフォーム、日本国際交流センター)に参加し、「新型コロナ移民・難民相談支援事業」を開始した。この事業では、各地の相談対応の底上げや支援連携の構築を図りながら相談支援にとりくみ、困難な状況に置かれた移民・難民延べ714名に対する同行・通訳支援と、延べ122名に対する緊急支援を実施した。2021年度の事業は移住連にとってはじめての相談支援事業であった。

同行・通訳支援は、移住連のネットワークにつながる支援者・支援団体により担われ、移住連側では、同行・通訳支援費のサポートやケースワークに必要な情報提供等の後方支援を行った。また、コロナ禍において住まいや食糧など生存の手段が確保できない状況に置かれた移民・難民に対しては緊急支援も行った。

事業により、移民・難民が直面する課題は、公的機関の窓口での助言や情報提供だけで解決されず、民間支援があってはじめて解決に至る状況が多くのケースから確認された。その背景には、ことばの壁や外国人に対する差別に加え、多くの場合、労働、医療・福祉、家族、在留資格など複数の課題が絡まり合い、複雑化している複合的課題が見られた。

(3)複合的課題の解決をめざした「新型コロナ移民・難民緊急伴走支援事業」(2022年5月〜2023年2月)

2022年5月からは、前年度の事業の枠組みを引き継ぎ、伴走支援体制の構築に取り組みながら、コロナ禍で移民・難民が直面する複合的課題の解決を支援する「新型コロナ移民・難民緊急伴走支援事業」を展開した。具体的な取り組みとしては、
①移民・難民の公的制度への実質的アクセスを保障するための行政機関等への同行・通訳、伴走支援の拡充
②伴走支援を行う支援者(伴走者)の養成、ケース共有・情報提供を通じた支援体制の強化
③伴走ネットを通して認識された課題に関する政策提言
などである。

伴走ネット イメージ

2022年度の事業を通して、729件の伴走支援を実施した。

報告されたケースはすべて移住連の運営委員を中心に構成されたワーキングチームにより確認され、課題について検証された。その結果、729件のうち6割以上が「ことば」、半数が「在留資格」、約半数が「生活困窮」、約3割が「医療」に関するものであった。また、7割以上のケースが2つ以上の課題を含むものであった。複合的課題が、時間が経つにつれ、さらに解決が困難になっていく状況は、仮放免者の支援に奔走する都留貴子氏の「連絡がきたときは、問題はすでに大きな『雪だるま』になっていた。」(本号P.12-13)という言葉にも象徴される。

支援対象者の類型で見ると、(a)病気や生活困窮に苦しむ非正規滞在者、(b)構造的な差別と労働搾取に直面する技能実習生等の労働者が7割ほどを占めた。いずれも「管理と排除」の政策から影響を受け問題に直面している人びとである。

緊急支援を必要としていたケースに対しては、家賃、シェルター費、食料費、医療費等で約730万円、226件の緊急支援を実施した。

この事業には、伴走支援の拡充に向けて支援者および支援に関心がある人びとが「伴走者」として登録できる「伴走ネット」があり、330名が登録した。このしくみは、支援団体の中で活動を担ってきたメンバーの高齢化(本号P.14-15岡田基実「静岡県東部で34年間続くカサ・デ・アミーゴスの支援活動」)や新たな支援者の参加などの変化を踏まえ、ネットワークを通じた支援体制をめざして立ち上げられた。

伴走者には登録時に支援経験や対応可能地域、得意な領域(課題)などを共有してもらい、ケース対応や支援連携に備えた。点在する伴走者の把握により、「支援空白地域」も確認できた。また、伴走できる人員が不足している状況を踏まえ、支援者の裾野の拡大を目指して伴走支援講座を開催し、ケースワークの基礎、在留資格、労働、医療・社会保障等9分野の支援に必要な知識やノウハウの共有をはかった。伴走支援を通して確認された課題については、省庁交渉や院内集会を通して政策提言に取り組んだ。

伴走ネットに登録された伴走者により対応可能な地域(340 件の回答)

2.アウトリーチ手法による「新移民時代型」支援ネットワーク構築事業(2023年7月〜現在)

コロナ禍における相談・伴走支援事業を実施した成果を踏まえて、2023年7月からは、休眠預金等交付金を活用した助成による通常枠(3年間)の事業として、孤立し困難な状況に置かれる移民・難民に対する支援を中心とする「アウトリーチ手法による「新移民時代型」支援ネットワーク構築事業」(アウトリーチ支援事業)を開始した。

過去2年に渡って実施した事業では、制度の狭間に置かれ、専門知識を持つ支援者との接点もなく、孤立・困窮する移民・難民の具体的な姿が明らかになっていた。その背景には、(1)支援団体空白地域という現状、(2)複合的な要因により支援につながらない当事者の存在、などの課題があった。2023年度からのアウトリーチ支援事業では、こうした課題を克服するため、緊急事態としてのコロナ禍が収束した以降も、困難に直面し続ける移民・難民への緊急支援・伴走支援を継続すると同時に、以下のアウトリーチ手法による「新移民時代型」支援ネットワークを構築に取り組んでいる。

(1)オンライン相談会と伴走支援の実施による支援空白地域における支援体制の構築

「支援空白地域」という課題

2022年度に実施した「新型コロナ移民・難民緊急伴走支援事業」では、伴走者に活動地域や支援に関する経験やスキルを共有してもらう「伴走ネット登録」のしくみを用いて、伴走者の分布状況を把握した。登録のあった330名の伴走者の回答により、全47都道府県においていずれかの伴走者が支援対応可能とのデータが抽出されたが、伴走者の居住地域からの距離(県をまたいだ移動)や支援経験等の条件を考慮すると、実際には、25都道府県が外国人支援経験の伴走者がいない地域であることが明らかになった。

これにより、2023年度からのアウトリーチ支援事業では、これらの地域を「支援空白地域」と定義し、SNSを活用したオンライン相談会の開催や伴走支援を通じた連携・経験の共有により、新たな支援者を迎え、ネットワーク体制の構築をめざした。オンライン相談会は、過去2年間の事業において、ベトナム人技能実習生の労働相談を対象として開催してきた(本号P.20-21巣内尚子「インターネットと相談活動―ベトナム人支援の現場から」)。

相談会は、今後、支援空白地域を含む全国8箇所程度の地域拠点に会場を設置し、対応言語数を増やして開催する予定である。また、相談会から引き継がれたケースは、地域・領域・言語間の横断的な対応を考慮しつつ伴走支援を実施していくが、支援体制が脆弱な拠点を全体でサポートしながら取り組んでいく。

オンライン相談会にて対応中の NPO センターコモンズの事務所風景

(2)外国ルーツの支援者との連携に向けて

支援空白地域では、外国ルーツの人が個人的に支援を担っていた。コミュニティや対象者の状況をつぶさに把握し、DV被害者、服役経験者、精神疾患のある人、性的マイノリティ、在留資格がない人など、支援団体や日本人支援者には十分リーチできなかった層とつながり、精神的支援を提供していた。

しかし、人的資源や制度的資源を持ち合わせず、必要な支援が提供できていない。そこで本事業では、今後、外国ルーツの支援者を対象にしたスキルアッププログラムを企画し、やさしい日本語を使用したオンデマンド講座の開講する予定である。外国ルーツの支援者に移住連のネットワークで蓄積された支援スキルやノウハウを共有することにより、より多くの支援対象者を移住連のネットワークにつなげることをめざす。

3.アウトリーチ支援事業の意義と今後に向けて


コロナ禍以降、移住連が実施してきた支援事業を通じて、コロナ禍の緊急事態後もなお苦境に置かれる移民・難民の状況があらためて浮き彫りにされた。それは、在留資格を筆頭にさまざまな問題が絡み合い複雑化した、複合的な課題に直面している状況である。

と同時に、出口があろうがなかろうが、彼らに寄り添い、ともに課題に向き合う伴走者の存在も照らし出された。ホームレス状態に置かれた難民のために住まい探しに奔走する人、健康保険がない非正規滞在者の医療費を肩代わりする人、問題の解決までの間、団体交渉に留まらず入管での手続きから生活まで技能実習生の一切の面倒を見る労働組合、在留許可が認められないために進路が見出せない子どもの将来について話を聞いて励まし続ける人・・・。相談者の状況が多種多様であるように、その支援や関わり方も多種多様であった。


移住連のネットワークは、約30年間に渡り、人間としての権利が侵害されたり尊厳を傷つけられた移民・難民に寄り添いながら、制度の狭間を縫うようにして取り組まれた支援活動の営みにより形成されてきた。それは、「公」に対して、人権に礎を置く社会規範を求める運動でもあった。

この間、移住連が取り組んでいる「支援事業」も、支援者の間に温度差やスタイルの違いこそあれ、現行制度下で移民・難民が置かれた状況に理不尽さを覚え、少しでも目の前の人の状況を改善しようと自ら動く人びとの活動により牽引されている。「伴走者」たちは、自分たちが地域社会で出会う移民・難民に正面から向き合い、彼らがここで生き抜くための「支援」を提供する。在留管理と排除が一層強まる体制のなかにあって、移民・難民たちは追い詰められている。しかし、その力が強まれば強まるほど、彼らに寄り添い、生き伸びるための手段を提供し、「共生」を求める市民社会の力も強まるのだ。移住連もひきつづき「伴走者」たちに伴走しながら、孤立や困難な状況にある移民・難民につながり、ともに生きるための方策を提案し、連帯を呼びかけていきたい。

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