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特集「移民・難民とアート」について

First International Dada Fair, Galerie Otto Burchard, Berlin, 1920 (Bildarchiv Preussischer Kulturbesitz, Berlin)

M-netの2023年10月号の特集は「移民とアート」です。noteでは 川上幸之介さんによる総論記事を紹介します。M-net本誌では、本特集の記事が他に6本掲載されています。目次と購入方法はページ末尾のリンクをご覧ください。(編集記)

倉敷芸術科学大学  川上幸之介

移民、難民とアートという組み合わせを聞くと、一般的には繋がりが想像しづらいかもしれません。この接点を振り返ると、絶対王政に対して新興の産業資本家を中心とする市民階級が政治的・経済的な権利を獲得し、近代資本主義社会への道を開いた市民革命と、植民地拡張と紡績工場を基盤とした経済の中で胎動し、商品の大量生産を可能にした産業革命へと遡ります。それは、この二重革命によってもたらされた階級、性差といった問題、それ以前に資本主義の勃興と共に始まった奴隷制による人種問題、近代化によってパトロンから自律し、現実の世界をありのままに写し取ろうとしたアーティストとの交差を起点としています。このアヴァンギャルドと呼ばれたアートの中には、視覚的な美しさを求めるのではなく、社会的・政治的なカウンターとして、少数派の人々の声も代弁する役割を担うものも現れました。その契機が、現代アートの源流とされる芸術集団DADAでした。DADAは、スイスのチューリッヒに集まった移民、難民で形成され、それまで神秘化されてきたアートを否定し破壊しようとした集団でした。この中でも第二次世界大戦下におけるドイツで起きたベルリンダダは、アートを政治的な手段として、ナチスドイツに闘いを挑みました。

戦後、アートは、さまざまな表現の探究の中、色と形の組み合わせだけなく、外の世界の影響、つまり、その時代の社会的な諸問題を取り入れるものも現れました。その表現は、常識や道徳といった自明視されてきた考え方とは異なる視点を与え、私たちにしばしば再考を迫ります。

今回取り上げるアーティスト、批評家、キュレーターは、現在起きている問題をアートを通して表現し、時に擁護し、批評を行ってきました。

今回の編集をきっかけとして、少しでも多くの方へ移住者や難民の問題の認知を広げると共に、誰もが自己を肯定でき、互いに手を取り合う社会が創造されることを願っています。


JOHN HEARTFIELD/COURTESY INTERNATIONAL CENTER OF PHOTOGRAPHY

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