Sachi Migiwa

ここは、スナップショットレコーダー

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最近の記事

アイス屋さんだった祖父母の話

祖父母はアイス屋さんだった。 それが私は子供の時からずっと自慢だった。 古くからそこに住んでるもんで、私の祖父母の家は東京の中心の方にある。でもべつにお金持ちなんかではない(もちろん)。大きい街だって一本入ると意外と普通に住宅街だったりする。東京は冷たい、とよく言うけど、私にとってあそこはあったかい場所だった。 祖父母の家は木造の二階建て。2階は下宿の人たちに貸してたから実質平屋だった。昔トラックにぶつかられて割れた勝手口のすりガラスがそのまんまになっていて、エアコンは古

    • 愛の変質、呪縛の澱、本当を見出すことの難しさ -彩瀬まる『あの人は蜘蛛を潰せない』

       『眠れない夜は身体を脱いで』から彩瀬まるが好き。『不在』もよかった。  作者名とタイトルの鮮烈さで買った。彩瀬さんの本は多かれ少なかれ、「愛の変質」と「呪縛」について書いているように私には思える。母親から娘への愛、恋人への愛、夫婦の愛、本作では色々な愛が、現れては形を変えていく。その様は、美しくはない。でもそれも愛の本質な気がする。そもそも実態のないものだし、状況や相手によってぐにゃぐにゃと形を変えるものだ。だるかったり、重かったり、気持ち悪かったり…。「かつて愛だったも

      • Sexy Zoneの卒業によせて

        なにか間違えた。という感覚がずっとあった。1月8日に中島健人のグループ脱退が発表されてから。 今まで一度も、マリウスの卒業の時にすらなかった「なにか間違えた」という感覚。それが大きな大きな質量を持って、この3か月弱、私の中にどんと居座っていた。ずっと思っていたのは、どこかでこの結末を変えられたんじゃないかということ。どの選択を間違えたからこうなってしまったんだろうと、ずっと思っていた。 3月31日。Sexy Zoneの最後のライブに、マリウスが登場した。第2の本編だとでもい

        • 死ぬ方法まで決めた時、最後に考えていたこと

           この時期、この時のことを、未来の私がどう考えるのか、はっきりとは分からない。またこのテーマについて書くかもしれない。それでいいかなと思う、定点観測みたいな感じで。  初めに言っておくと、私は生還者だ。これは二年半ほど前の話である。  2021年末。もう絶対死ぬ気でいた。2022年とか言うふざけた年を迎えてなるものかとすら思っていた。2021年中で私の人生はおしまい、と思っていた。でも遺書は書いていなかった。事故に見せかけ死ぬ気でいたから。実際にそんなことが可能だったかどう

          一口読書感想文 『水を縫う』『掃除婦のための手引き書』

          寺地はるな著『水を縫う』 ずっと何か苦しいものを抱えていた人が、ずっと誰かに言ってほしかった言葉が書いてある本なんじゃないかなと思った。 じゃあ「言って欲しかった人」にしか響かないかというと全然そんなことなくて、さわやかでやわらかい。ポッケに入れたのをすっかり忘れてたホッカイロみたいな。気付いたらふわりとあったかくて嬉しい。 もしかしたら一個くらい響く言葉があるかもと思って読んでみるとなんか楽しいかもしれない。私も一個、みつけました。 ルシア・ベルリン著『掃除婦のための手

          一口読書感想文 『水を縫う』『掃除婦のための手引き書』

          ボトルレター、はじめました

          ブログって、なんかボトルレターみたい。 届くかな、誰かに読んでもらえるかな、届いたらいいな。でも届かなくても、いいかな。どこかで見ず知らずの誰かに届くかもって思って手放すのが楽しいから。そういうところが。 コロナの後遺症と家人の病気を経て、遅ればせながら私の子供時代は完全な終焉を迎えた。あまり激しく心が動かなくなって、楽にもなったし、さみしくもある。色々なことが過ぎ去っていった。 人は案外生きしぶといのに、案外あっさり、まるでかくれんぼするみたいに、いなくなることがあること

          ボトルレター、はじめました