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死ぬ方法まで決めた時、最後に考えていたこと

 この時期、この時のことを、未来の私がどう考えるのか、はっきりとは分からない。またこのテーマについて書くかもしれない。それでいいかなと思う、定点観測みたいな感じで。

 初めに言っておくと、私は生還者だ。これは二年半ほど前の話である。
 2021年末。もう絶対死ぬ気でいた。2022年とか言うふざけた年を迎えてなるものかとすら思っていた。2021年中で私の人生はおしまい、と思っていた。でも遺書は書いていなかった。事故に見せかけ死ぬ気でいたから。実際にそんなことが可能だったかどうかわからない。下見までは行っていなかった。

 どうして事故に見せかけようと思っていたかというと、後になんにも残していきたくなかったからだ。私と関りのあった全ての人に一定程度降り注ぐであろう驚きとか、喪失とか痛みについては傲慢ながら許してもらおうと思っていた。でも、「私のせいかも」とか「私があの時手を差し伸べられていれば」みたいなことは思ってほしくなかった。誰かに後悔を抱かせたいから、死にたいのではなかった。ただ逃げたかったのだ。もう本当つかれていた。水の中で息をするような日々に。だって考えてみてもほしい。生きてればいいことあるよとか言うけどさ、それって、百万円払えば一万円もらえるよ!みたいなことじゃない?骨折り損のくたびれ儲け。Payの割合が高すぎる。
 あとは「いつ」だけだったのだけど、冬が良かったので、そうのうのうともしてらんないなとは思っていた。でも、私は年末に友人と約束があって、それまでは死ぬわけにはいかないなと思っていた。
 
 今思うと死ぬほど追い詰められている人間のくせに、真面目な話だ。自分ごとだから言うけど、真面目すぎてちょっと面白い。でもこういう友人との約束と、中途半端な生真面目さが、当時確かに私の命をつないでいたのである。私のスマホのカレンダーでは、予定のある日に黒い点が付くようになっている。友人との約束のある日に黒い点。カレンダーの上にぽつ、ぽつと飛び石のようにあるそれが、なんだか星座みたいだった。その点が今思えば、文字通り命綱だった。
 当時の友人たちにどこまでその気があったかは分からない。ちょっと落ち込んでそうだから、とかそんな理由で声をかけてくれていたのかもしれない。あの時声をかけてくれた友達のひとりひとりにずっと未来で聞いてみたい。そしてお礼を言いたい。あの時あなたたちの点が作った星座のおかげで、どうにか夜を生き延びていました。今はまだそれを言うには、早すぎて、どんっと重い言葉になってしまいそうだから、ずっと未来で伝える予定だ。

 どうせ死ぬんなら絶対イスファハーンに行く。いつからだったか、なんでそう思ったんだかすっかり忘れてしまったが、高校生くらいから確固としてそう思っていた。高校時代には自死を考えるような要因もなかったので、いつか自分が死にたくなった時の為に考えていたのだろう。いつかの私に教えてあげたい。それは強力な最後のラインになって私を守ったことを。
 2021年の末、世間はまだコロナ一色で、海外旅行なんてとても考えられない時代だった。死に場所に決めていたところは、職場から電車で一本の場所だった。そこに行くにはいつも乗るのと反対方面の電車に乗る必要があった。だから仕事帰り、駅が近づくと毎回このことを考えていたのだけど、でもまだイスファハーンに行ってない。という思いが足を引っ張って、私は毎回反対方面の電車に乗るのを躊躇った。生真面目なことだ。
 だから私にとってのイスファハーンは「駅にわたるあの横断歩道」になってしまった。いつかイスファハーンに行って、記憶を修正しなければいけない。それでもあの時、あの最後のラインがあってよかった。死なずに済んだ。シンプルに。

 結果として死なないで良かったかについて、私は軽々に結論を出してしまうのはなんていうか、安直な気がしている。それは私が人生をかけて答えを探し、証明していくものだ。あの日の私に、あんた死なないで良かったよ。頑張ったね。と言ってあげられる人生になるよう日々を重ねていければと思う。
 一つだけ言えることがあるとすれば、今はもう死にたいとは全然思っていない。それだけは事実だ。あんなに強い欲求だったのに、過ぎ去っていくようなものだったのか。と驚くような、呆気にとられるような、妙に納得するような。そんなもんかしらね。あんな修羅場をくぐったのに、人生も自分のことも結局全然分からなかった。


 2024年になった。イスファハーンで年越しをした友人が、その様子をInstagramのストーリーに載せていた。意外と行ける場所らしいので(ただしアメリカ入国のたびに入国拒否のリスクに怯える覚悟をする必要がある)、もしかしたら数年のうちにイスファハーン行きは実現するかもしれない。そうしたら次はどこに行くことを目標にしよう。やっぱりイェルサレムかな。積読とおんなじで、一見実現しなそうな「積んwant to do」はあったほうが良いからね。

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