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"ブラック・ミラー(2010–)" シーズン6をざっくりレビューするのはなし

前回、"ブラック・ミラー(2010–)"の原作者チャーリー・ブルッカーについてめちゃくちゃ真面目に語るに語ったので、待望のシーズン6についてゆるーくレビューします。*ネタバレを含みます。



"Joan Is Awful / ジョーンはひどい人" -★★☆☆☆

アリー・パンキウ監督。めっちゃくちゃ微妙な出だしで正直「シーズン6大丈夫か?」とまで思ってしまったほど中途半端な出来栄えのエピソード。

ジョーンがストレスフルな1日を終えて帰ってくると、自分の誇張された1日をサルマ・ハエックが演じるドラマ、"Joan Is Awful"が動画配信サービスで配信されていた。この謎のドラマによりジョーンの生活や人間関係は一瞬にして転落する。

ストーリー

サルマ・ハエック(なんでタートルズのエイプリルみたいな格好してるかは謎)がジョーンに接近する展開は面白かったが、「周りの反応が雑すぎる」とか「スマホ切るか、Streamberry解約しろよ」とか「視聴率とれないぐらいに毎日何もしなければよくね?」とか「"シュミレーションを操るほどの素粒子コンピューター"のセキュリティがガバすぎる」などツッコミどころが多すぎてのめり込めなかった。ジョーンたちが物陰に隠れてる最中にタイミングよく「あっちに素粒子コンピューターがあるんすよ」みたいな会話が聞こえてくるのはギャグか、そういう"シナリオ"で物語が進んでいるのかと思ったが、そんなことは全くなかった。

AIによるディープフェイク人物像がメディアを通して歪曲する様を描くも、そこにシミュレーションという要素を入れたせいか無理やりオチをつけた感が否めなかった。NetflixそのものをパロったStreamberry(もっといい名前あっただろ)はセルフメタが面白く、番組のラインナップにはブラック・ミラーの小ネタがギッシリだ。

"Loch Henry / ヘンリー湖" ★★★★★

サム・ミラー監督。チャーリー・ブルッカーの真髄を見た!いきなりスコットランドの絶景が映し出されて「クロコダイルみたいな神回か?」と思ってたら神回でした。特に近未来SFガジェットなんか一つも出てこずに、現代、ないし2010年代でも十分にありえるダークドラマを見事に描いている。

デイビスは彼女のピアと故郷の寂れた街、ヘンリー湖の母を尋ねる。ピアは伝説の殺人鬼アデアとデイビスの父の死の関連を知ると、ドキュメンタリーを撮ることを提案する。デイビスは反対するも幼なじみスチュアートと協力し、殺人鬼と父の死を紐解くために資料集めと撮影を始める。

ストーリー

どうなるのか?てぐらいゆっくりした展開からの、ピアほんまクソやな!としか思えないターニングポイント。「自分の身内の死をコンテンツ化」されることにデイビスは怒りをむき出すが、「お母さんの視点も入れましょう」なんてアホな言葉に惑わされ、"真実を多くの人に知ってもらう"ことが"ヘンリー湖の復興にも繋がる"なんて言いながら「ドローンで綺麗な風景撮ろう!」なんてやってる一連の流れは本当にすごい(残酷な行為をコメディにも見えるように撮ってるのは痛烈すぎる)。結果的に、デイビスの両親がアデアの殺人(と拷問)に加担していたしていたことを知ったピアは(鈍臭く)勝手に事故死、母は「あなたの映画の為に」と書き置きを残して自殺。デイビスが協力した自伝ドキュメンタリーはBAFTA賞をとってしまい、心身燃え尽きる。

実録犯罪ドキュメンタリーと、いわゆるヤジ馬根性を痛烈に皮肉が効きすぎて、めちゃくちゃ良い。ブラック・ミラーTOP5に入る最高傑作だと思う。

"Beyond the Sea / ビヨンド・ザ・シー" ★★★☆☆

ジョン・クローリー監督。これまた胸糞エピソード。架空の1969年が舞台に、自分の意識を機械仕掛けの"レプリカ"に転送するシステムを中心にドラマが運ばれる。映画並みに長い!1時間以内に納めてほしかった。

宇宙飛行士のクリフとデビッドは、宇宙ミッションの傍ら、レプリカを通して地上で生活を営んでいた。ある日デビッド一家と彼のレプリカが、カルト集団によって斬殺されてしまい、意気消沈したデビッドを心配したクリフは、自分のレプリカをデビッドに貸し出し始める。

ストーリー

デビッドがクリフを殺して成り代わるオチなのかな?とも思ったが、最も残酷な方法でデビッドはクリフに理不尽な復讐(報復?)を与えた。クリフとデビッドどちらも不憫極まりないが、デビッドはクリフのレプリカを使って妻のラナを口説き、クリフは改めてラナと心を打ち解け合うも「妻は俺の"モノ"だ」と断言してしまうどちらもクソ野郎っぷり

画面越しの生活がコロナ禍によって一層普遍化してきた昨今。人との繋がり"そこにいる筈なのにいない"もどかしさを見事に表現している。長くて、胸糞だけど

"Mazy day / メイジー・デイ" ★★★☆☆

ユタ・ブリースウィッツ監督。まさかのホラー、そして派手にぶん投げやがった!!けど充分に楽しめた(他のレビューの低さに自分の感性を一瞬疑ったが)。

2000年代、パパラッチのボーは自らが撮影した写真によって、ある俳優を自殺に追い込んだことを気に留め、パパラッチを引退する。しかし、チェコの映画撮影から失踪した女優メイジー・デイの写真に3万ドルの賞金がかけられていることを知ると、彼女の行方を調査し始める。

ストーリー

ボーちゃん、鈍臭い上に疫病神すぎへん?君以外全員死んでるで?まさかブラック・ミラーから「キノコを決めた女優が変身した狼男を車で轢き殺して、狼女になってしまう」みたいなストーリーが生まれるとは思わなかった。

"狼男"はセレブ崇拝パパラッチが人を無残な姿に変え、殺してしまうメタフォーであり、パパラッチたちが鎖に繋がれたヤク中のメイジー・デイの写真を撮った時点で、彼女は死んでいたじゃないかな。

ぶっちゃけテナントやスミス時代の"(新)ドクター・フー(2005–)"みたいな話なんですが、直接的なSFホラー展開は、従来の"ブラック・ミラー"お馴染みの近未来的なテックの登場や、どんでん返しを期待していた視聴者には到底受け入れられないストーリーかな?

"Demon 79 / デーモン79" ★★★★☆

トビー・ヘインズ監督。このエピソードのみ厳密にはテクノロジーではなく超自然現象にフォーカスを置いた"レッド・ミラー"という別物扱い。"ブラック・ミラー"の世界観をなぞりつつ独特の世界観が魅力。

ニダはデパートの靴売り場で働きながら同僚や客に愛想を尽かしていた。ある日、デパートの地下室で謎のタリスマンを発見し、ボビー・ファレルそっくりの悪魔、ガープを召喚してしまい、世界の終焉を防ぐために生贄を捧げることを命じられる。

ストーリー

全編通して70年代のビジュアルと神曲プレイリスト(イアン・デューリー好きすぎる)全開で展開され、ニダの心境とシーンのシチュエーションを反映している(適当に80年代だからとりあえずA-HAでも流しとけみたいなチープな発想じゃなくてよかった)。世界と共に死ぬか、自分の憧れのアイドルと宇宙で永遠に過ごすかなんて、後者しか選ばないよね。

どんな善人でも誰もが悪魔になる、没落する可能性があること。そして没落する原因が人種差別などの社会構造そのものにあることなど、善悪の基準を問いかけるエピソード。

結局オチは、儀式は失敗し、世界は終焉(ロシアによる核攻撃によって)を迎えるのだが、「これが現実ではなく全てニダの妄想だった」という考察がもっぱら主流である。その証拠として、ニダの妄想癖、読んでいた"想像を実現させる方法論"の本、他のブラックミラーのエピソードとの兼ね合い("国家"に登場したマイケル・キャロウへの言及、他のエピソードで言及されるジョン・スマートなど)が指摘されている。これだけ聞くと「あ、そっかぁ」となるかもしれないが、そもそも"レッド・ミラー"という別物扱いしてる時点で"ブラック・ミラー"との関係性や、そもそも全て妄想であったか否かの部分は結構どうでもいい気がする(ポイントそこじゃないよね)。そもそも「すべて主人公の妄想だったんじゃ!」ってオチをブルッカーが書くかな?


今シーズンも全話、全く違うテーマ、トーン、方向性のおかげで飽きることなく視聴できた。MVPは圧倒的に"ヘンリー湖"。"メイジー・デイ"と"デーモン79"のような超常現象的なホラーに舵を切ったのも挑戦的で面白かったかな?レッド・ミラーが好評ならまたやるだろうし、もっと人間的な内面を刺激するホラー作品に展開していくのかな?テックメディアから離れるとなるとモラルとか道徳とか、社会的政治的(例えば貧富の差とか人種差別とか環境問題)な方向に行くんじゃないかな?と勝手に想像しながら、過去のエピソードを再視聴してみる。それだけブラック・ミラーが好きだし、チャーリー・ブルッカーが好きだ。


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