勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第16回 真手凛-2

「それでさ、春太の方はどうだったの?」私は、高校時代の春太について聞いてみた。
「ああ、彼は部内でもかなりの実力者だったよ。中学時代からホルンを吹いていたそうだからね」直子はそういいながら、微笑を浮かべつつ周囲を見渡す。
「千夏の方が、春太に熱を上げていたって話だけど?」和が突っ込む。
「そうそう。千夏が一方的に熱を上げたあげく、彼の部屋に押しかけてことに及んだって」
プププと噴き出しつつ、直子が千夏と春太のなれそめについて語る。
「あの二人、幼稚園時代からの付き合いなの。今は真っ当な恋人関係だけどね……」
「なによ、その持って回った言い回しは?」訝しげな表情を浮かべながら、希実が話す。
「春太が好きだったのは、吹奏楽の顧問の先生だったのよ」
「へえ、それはそれはステキな大人の女性だったんだろうねえ~」
にやつきながら、あすかが返してくる。
「顧問の先生は男だよ」無表情のまま、直子が返事をする。
「は?」
「え?」
「なに? いまなんていった?」驚愕の事実に、周囲は唖然とする。
数秒後
「ええ─────────────────────────────っ!!!!!」
という驚嘆の声が、その場から一斉に上がった。
「なんじゃそりゃ? 春太はゲイだってこと?それともバイ?」
目をキョロキョロさせながら、希実が問いかける。
「うわー、そりゃ何ともスキャンダラスな過去だね~」そういうあすかの顔色は真っ白だ。
「実際に、一線を越えたのかな?」しらふのまま、御前が問いかける。
「まあまあ、みんな落ち着いて」周囲をなだめるように、直子が言葉を発する。
「春太の方はかなりお熱だったんだけど、彼には全くその気がなかったみたい。で、あえなく春太の恋は終わってしまいましたとさ……」
「な~んだ」「ああ驚いた」という声が、同じタイミングで上がる。
「で、その先生は今も学校の先生をしているの」と、浩二が質問する。
「いやいやいや」直子が勢いよくかぶりを振る。
「春太の初恋の相手は、草壁信二郎だよ」
「なに──────────────────────────────っ!!!!!」
再び私の周囲から、驚嘆の声が上がる。
「草壁信二郎って、あの草壁信二郎?」驚いた表情のまま、和が問いかける。
「そうだよ。あの草壁信二郎」直子が答える。
草壁信二郎といえば、日本を代表する若手指揮者だ。そして彼は今、私たちが聴いているコンサートの指揮者である神崎優子との熱愛が囁かれている。
「草壁信二郎、一時期消息不明だといわれたことがあったけど、吹奏楽の顧問をしていたのか」しみじみとした口調で、御前が言う。
「彼がどんな経緯で、私たちの吹奏楽部の顧問をしていたのかは私も知らないんだけどさ」
直子が言う。
「どんな先生だった?」希実が話しかける。
「いい先生だったよ。物腰が柔らかくて、生徒の自主性を重んじてくれるし」と、直子。
「威圧的なところはなかった?」と、あすかが直子に質問する。
「いいや全然。むしろ生徒の自主性を重んじてくれるから、部員としてはやりやすかったよ。あの先生が怒るところを、私たちは在学中一度も見たことがない」
「いいなあ~。私たちも、そんな先生に教わりたかったな~」
あすかはそう言いながら、視線を希実に向ける。
「あすか先輩、私もその意見に賛成」希実も、嘆息しながら返答する。
「二人の先生は、そんなに厳しかったの?」今度は、直子が質問する。
「そりゃ~もう……」あすかが嘆息する。
「物腰は柔らかいんだけど、ちょっとでも手を抜こうものなら陰湿にネチネチと小言を繰り出すんだ。もっともその原因は、うちらにもあったんだけどね」
あの頃はきつかったな。そんな感情を内に秘めつつ、希実が言葉を続ける。
「そうかー。うちらの学校は弱小以前に、部員数が足りなくて、千夏たちが必死になって部員をかき集めていたからな。『自分たちはヘタクソ』とわかっていたから、練習も熱心にしていたし」
「うちらの学校もそこそこ実績あったんだけどさー、私たちの前の顧問の方針が『3年間楽しく』だったから、いつの間にかゆるゆるな空気が蔓延していてさ~。だから上級生と下級生は、いつもケンカばかりしていた」しみじみとした口調で、あすかが述懐する。
「直子がうらやましい」希実が、直子に言葉をかける。
「まあ、私も最初は吹奏楽部のことをバカにしていたけど、卒業する頃には彼らと一緒にやってよかったと思っている」周囲を見据えて、直子が話しかける。
「耳の障害でプロ奏者にはなれなかったけど、今の仕事に就くヒントをくれたのは千夏なんだよ。だから彼女には、本当に感謝している。学生時代の友人は財産だという人もいるけど、その意見は私も同意する」と話す直子。
「千夏は、直子にどんなアドバイスをくれたの?」希実が質問する。
「『東京藝大に楽理科があるから、そっちを目指してみたら? 直子の学力だったら、余裕でしょ?』って勧めてくれたの」
「普通にいい子じゃん。そういう子、大事にしなきゃダメだよ」和が、直子に話しかける。
「うん。だから、彼らとは何かというと一緒にあっているよ」と直子が返事をした。
「そうだ、さっきの『春太ゲイ疑惑』って、なにが原因だったの?」
御前が、質問を直子にぶつけてきた。
「ああ、その話ね」苦笑しながら、直子が話す。
「春太ってさ、お姉さんが3人いる末っ子なんだよ。でも小さい頃から年の離れたお姉さんたちにこき使われていたトラウマで、女性恐怖症になっちゃったみたい。だから高校時代は、アパートで一人暮らしをしていた」
「ああ、その話なら千夏から聞いたことがある」久美子が続ける。
「春太があんまり草壁先生に夢中だから、頭にきた千夏は春太に『お願い、女を好きになって! オンナ、オンナはいいぞ──!!』って詰め寄ったことがあるって」
「春太は草壁先生にお熱だったけど、別にゲイじゃないからね」と、直子が返す。
「そうか、だから千夏のアプローチを最終的に受け入れたんだ」と、御前も言葉を継ぐ。
「そういえば、俺も以前千夏が『春太のヤツ、オンナの裸には興味がないなんて抜かしていたんだよ。ムカつくー!』ていっていたのを聞いたことがあるぞ」浩二が、話の輪に突っ込んでくる。
「なに──!! それは聞き捨てなりませんなー」
長い髪の毛を右手で上にかき分けながら、あすかが答える。
「あすかさーん、そんな仕草でこれまで何人の男性をトリコにしてきたんですかー?」
笑いかけながら、御前が突っ込んでくる。
「フフフ、それはいえませんなー」小悪魔的な表情を浮かべながら、あすかが答える。
「へー、今の彼氏もそうやって口説いたんですか~」浩二が突っ込む。
すると、あすかの表情が一変した。
「うん……まあ……アイツとはいろいろあって……さ」
他人のことには容赦ない突っ込みを入れる彼女だが、その矛先が自分に向けられると、途端に口が重くなる。私は彼女の表情から、今カレとうまくいっていないのかなと察した。
その瞬間、休憩終了を告げるチャイムが、ホワイエに鳴り響いた。
「みんな、今日はどうもありがとう。また会おうね」
「それじゃ、席に戻るとしますか」
一同は挨拶を交わすと、自分たちの席に戻っていった。

この日のメインプログラムである幻想交響曲は、神崎が指揮者コンクールで優勝した時に演奏した曲である。雑誌のインタビューで思いいれがあり、得意にしている作品だと彼女が語っているだけあり、当日の演奏も期待に違わぬ、素晴らしいものだった。
明晰なリズムに裏打ちされた、くっきりとした輪郭。多彩な色彩感、柔らかで豊穣な弦楽器の響きと逞しい管楽器群、そして豊かなハーモニーは、今まで聴いたものがないもので、彼女がただならぬ実力者である事を感じさせるに十分な内容だった。最後の音が鳴り終わった瞬間、客席全体から大きなどよめきと共に、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
「この演奏の素晴らしさは、録画録音技術がどれだけ発達しても、完全に再現できないだろうな」拍手をしながら、浩二が私の耳元で囁いた。
「そうだね。録音録画と、生の演奏は全くの別物だからね」と、私も返事をする。
「このコンサート、聴きに言ってよかったよ」浩二はいった。
「また、一緒に行けたらいいな」
「うん。面白そうなのがあったら、また教えるよ」と、私は答えた。

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