勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第23回 新沼文世−4

このパーティーも一応、業界関係者のために開催されたものだ。二人きりで長い間、いっかっしょで話し合う姿を誰かに見られたら、なにを噂されるかわかったものではない。
「引き留めてしまってごめんなさい。私も別件があるので、今回はこれで失礼します」
と、舩見さんは頭をぺこりと下げた。
「いえいえ、私のほうこそ。ここで簡単に、打ち合わせをしておきたい人もおりますので」
と、私も応じる。
私が移動しようとすると、舩見さんが私を呼び止めた。
「せっかくなのだから、連絡先を交換しませんか?」
彼のお誘いを断る理由は特にない。私は彼の呼びかけ応じて、アドレスを交換した。
そして 私たちはお互いに「それではまた」と挨拶し、その場を離れた。
その後私は、会場内で関係者に挨拶をし、仕事の話を持ちかけ、名刺を配った。
「皆さまご歓談中のところ申し訳ありませんが……」
主宰者が、パーティーのお開きを宣言した。
時計を見ると、確かにパーティーの終了時間を過ぎている。
私は関係者各位に「それではまた」とお別れの挨拶をすると、そそくさと会場の外に出た。
最寄り駅に着いたとたん、私のスマホが「ブーン」という音を立てた。画面を確かめると、「新着のメッセージが1件あります」という表示が出ていた。
早速スマホのパスワードを解除し、内容を確認する。
メッセージは、舩見さんからだった。
「今晩は、楽しいお話をどうもありがとう。9月のコレクション後に開かれるパーティーで、お目にかかれることを楽しみにしています。その時も、二人きりでお話しできるチャンスがあったらいいですね」
そしてその文面には、難行かスペースを空けた後、こんな文面で締めくくられていた。
「もしそのチャンスがやってきたら、あなたを『オンナ』の世界にご招待しましょう」

「あなたを『オンナ』の世界にご招待しましょう」
この文面を見た私は、彼が私を誘っているのだと理解した。
でも、私みたいな地味で、目立たないオンナでいいのだろうか?
垢抜けない、どこか気弱なこの私が、彼のハートを射止められるのだろうか?
でも、これはチャンスなのかも知れない。
「根暗でコミュ障な腐女子」から「年相応の色気が漂うオンナ」に脱皮させてくれる男性が、私の目の前に現れた。
覚悟を決めた私は、ブティックやデパートの衣装売り場めぐりをし、その時に相応しいドレスを求めて歩き回った。
「うん、これがいい」
私はあれこれ試着した後、次回ののパーティーに着ていくドレスを決めた。
この格好で舩見さんの前に現れたら、彼はどんな表情をするのだろうか。

私の格好を見た参加者は、一様に驚いた。
そりゃそうだろうな。普段は地味でおとなしい女性が、そのイメージとまったく違う格好でパーティー会場に現れたのだから。
両肩を大胆に露出し、深い谷間を強調した真っ赤なドレス。
いままでの私だったら、こんなドレスは恥ずかしくて絶対に着なかっただろう。
しかし今は、絶対に見て欲しい人間がいる。
「オイ、あれは本当に新沼?」
「うっそ、普段の格好とは全然違う」
そんなどよめきが起きる中、あの人だけは平然としていた。
「新沼さん、今日は本当に美しい。まさに、大人の女性だ」
歯の浮くような言葉ではあったが、私は嬉しかった。
「ありがとうございます」
私はそう言いながら、深々とお辞儀をした。谷間を強調したドレスからは、私の胸の形が露わになっているはずである。
その後私たちは、今日のショーの感想を語りあった。
しばらくして、私のそばにいるのは舩見さんだけになった。
彼は周囲に誰もいないのを確認して、私の耳元で
「きれいだよ」
と囁いた。
「ありがとう」
私も、彼の耳元でこれに応じた。
彼は私の腕を軽く掴み、優しく撫でた。ビリビリッと、私の身体の中に快感が走る。
「今晩、二人きりで会えないかな?」
「うん、今晩は関係者に挨拶すれば、私の仕事はほとんど終わるから大丈夫だと思う」
彼はにっこり笑うと
「わかった。僕も挨拶しなければならないところがあるから、それがすんだら別の場所で落ち合わないか?」
「どのくらいかかりそう?」
「30分もかからないと思う」
「うん、わかった。じゃあ、また後でね」
「その頃になったら、こちらからメッセージを送るから」
そして、再び私の耳元で囁いた。
「今晩は、素敵な夜を過ごそう」
もちろん私も、この言葉の本当の意味を知らないほどウブなオンナではない。
私は即座に、首を縦に振った。
「それでさ、どこに行けばいいのかな?」
「場所は、メッセで送るよ」ニコッと笑って、彼はいった。
「うん、わかった」
私も即座に言葉を返して、彼のそばから離れた瞬間、舩見さんとのやりとりが、まるで恋人同士のようになっていることに気がついた。そして私の口から思わず「くすっ」という言葉が漏れた。

それからしばらくは、お世話になった顧客や関係者の接待に追われた。
すぐに終わると思っていたが、彼らとの話が思っていた以上に盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていった。
腕時計を見ると、約束の時間よりもかなり経過している。しまった。彼、怒っていないかな? とビクビクしながら、人目を盗んでスマホをチェックする。
確かに、彼からメッセージが来ていた。だが幸いなことに、あちらも予想以上に話が盛り上がっていたのだろう。着信時刻は、私がスマホのチェックをする数分前になっていた。
「遅くなってごめん。 君の方も話が盛り上がっているようだから、先に行って席を確保しておくよ」
彼が指定した待ち合わせ場所は、ホテル最上階のバーラウンジだった。
私は文面をチェックすると、もう少し時間がかかるかもと返信しておいた。
対応が一段落した頃、先輩が私に声をかけてきた。
「新沼、今日はお疲れ様。今までよくがんばったな」
私は「ありがとうございます」とお礼の言葉を述べ、深々と頭を下げた。
「それにしても、お前が着ている今日のドレスは大胆だな。今までのイメージとはエラい違いだが、何があったのかな?」
彼女は短く息を吐いて、そしていった。
「この後彼氏と待ち合わせか?」
図星だったが、私は努めて表情を変えず「いいえ、まさか」と答える。
「ハハハ、気を悪くしたのだったら謝るよ。でもお前を誘ってくる男の一人や二人いたっておかしくないと思っているんだよね」
「先輩、私にだって飲みに誘ってくれる男性はいますよ」
ムッとした調子で言い返したら
ハハハ、それは失礼しました」
とおどけた調子で返答してきた。
「それはともかくさ、今日はお疲れ様。後は我々がやっておくから、お前はもう帰っていいよ」
「そうですか。それじゃお言葉に甘えまして、後のことはよろしくお願いします。今日はお疲れ様でした」
私は深々とお辞儀をし、待ち合わせ場所に向かった。

「やあ、お疲れ様」
私が待ち合わせ場所のバーに着いた時、舩見さんは夜景が見える席から、私に声をかけてきた。彼は即座に立ち上がり、椅子を引いて私に坐るよう促す。
「この景色、きれいだな」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
私の口からでた感想に、彼は笑顔で応じる。
なに飲みたい?と聞いてくる舩見さんに、私はシャンパンをお願いした。
ほどなくして、二人が座る席に、シャンパンが注がれたグラスが運ばれてきた。
私たちは同時に「乾杯」と挨拶し、グラスを重ねた。
口の中に、シャンパンのいい香りがひろがっていく。
「ああ、おいしい」
仕事の後のお酒が、こんなに美味しいものだなんて。
「お気に召したようで何より」
舩見さんが、私に頬笑みかける。
「ゼミ仲間と一緒に飲んだ酒とは、全然違うわ」
「ああ、そういえば僕もサークルの飲み会で調子に乗ってのみまくってね。みんなに迷惑をかけたものだよ」
頭をかきながら、彼が応じる。
「舩見さんの学校って、結構内部上がりの人が多かったですよね。中には、女性を酩酊させてことに及んだ輩もいたとか」
ああ、あいつらねと、舩見さんは渋い表情になった。
「僕も中等部からの内部進学組なんだけど、内部生は高校や大学から入ってきた生徒や学生と仲が悪くてね。外部から来た学生はみな口を揃えて『うちの評判が悪いのは、あいつらの素行が悪いからだ』って陰口を叩いていたな」
「外部から入った学生とと内部進学組の学生って、仲が悪いんですね」
「悪いなんてもんじゃない、授業やゼミで一緒になっても、挨拶すらしない」
舩見さんは、てのひらを振りながら私に答える。

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